公開日:2014/10/31

『高校での新たなる CLIL への挑戦- 高校では上智の CLIL がどのように活用できるか』

 昨年2013年に創立100周年を迎えた上智大学は、1999年にCALL教室を導入して以来、外国語を学ぶために必要なコンピューター環境の整備を課題に、さまざまな取り組みを行ってきた。2014年には「叡智(ソフィア)が世界をつなぐ」を掲げ、さらなる先駆的な取り組みを始めている。

上智 CLILセミナー

 その一つとして全ての新入生に必修化されたCLILプログラムをテーマに、7月25日に高等学校の外国語教育ご担当の先生方を対象としたCALLセミナーが開催された。約40名の高等学校の外国語教員が、日本全国から上智大学のCALL教室に集まり、7時間全て英語で行われたセミナーの様子をレポートしよう。

※CLIL:Content and Language Integrated Learningの略。1994年にヨーロッパで提唱されたCLILとは、非母語で科目を学ぶことで、科目内容・語学力・思考力・協同学習という四つの要素をバランスよく育成する教育法。

講義CLIL と CALL の関係性
"The junction of CLIL and CALL:How does that function at Sophia?"

CALLシステム担当主任 今井 康博 准教授

 上智大学では、CLILを担当する教員から、早くも課題が投げかけられているという。「新しい分野と、英語の基礎を同時に効果的に教えるにはどうしたらいいか」「私の専門分野は英語教材が少ない」と、今井康博准教授は、この課題にCALLがどう応えられるかについて話を始められた。

上智 CLILセミナー

 CLILの特徴的な指導法のひとつに、協同学習の重視があるが、そのためには『反転授業』が欠かせない。教員の役割は「壇上の賢人」から「寄り添う案内人」へ移行(From Sage on the Stage to Guide on the Side)するべきだと、今井准教授は続ける。

 CLIL授業の基礎になる学習スキルは、eラーニング教材を使用して学生に自習させる。eラーニング教材ならば、学生が自分のレベルにあわせて、理解するまで自律学習が可能だ。授業の課題を与え、その科目内容について予習もさせる。教室では、学生たちは自律学習で得たスキルや知識を応用して、個人あるいは協同で問題を解き、実習する。

 こうして学生のピアインタラクションを促すことで、学生の論理的思考や批判的思考を引き出すことができるのだ。CLIL授業において、自律学習をサポートするCALLを活用することは、授業の質を高める上でも親和性の高いアプローチであると言う。

 日本語でも英語でも意見を明確に説明できる学生を育てることを目標とし、その手段のひとつとして同大学はCLILを導入した。学生が主体となる教室において、英語でも任務を遂行できる能力を身につけた学生が数多く育成されることが期待される。

講演CLIL授業の評価について
"Modeling CLIL for assessment"

外国語学研究科言語学専攻 渡部 良典 教授

上智 CLILセミナー

 「健康に関するトピックに関心のある方、ない方それぞれいらっしゃると思います。学生も同じで、英語が得意でもその科目が苦手な学生、その科目が得意でも英語が苦手で自分の考えを発表しきれない学生がいます。そこをバランスよく評価することがCLIL評価の課題です」と渡部良典教授は話し始めた。

 そして、ある中学生の誤答だらけの英語テスト答案が、CALL教室のPCスクリーンに映され、教室に笑いが起こった。ピアノを弾いている女性の絵の下にある問題、"What's Miss Green?" に対し、その解答は"It's a peanisuto."。大きく×がついている。「実はこれ、僕の答案です。"She is a pianist." と答えなかったので、バツだったんですね。でも、当時の僕は、彼女がピアニストだと言うことは理解しているのですが...」と渡部教授が明かした。

上智 CLILセミナー

 日本の中学生は、入学した頃は、英語に対してのモチベーションが高い。それが学年が進むに連れて、だんだん下がってくる。「その理由は『文法が難しい』『思ったようにテストの点が取れない』が上位に来ています」と渡部教授は続ける。会場の先生方は深くうなずいた。

上智 CLILセミナー

 従来の日本の英語テストは、正確な文法で解答し、点数を取ることに重点が置かれてきた。CAN-DO方式だ。CLILの評価はこれにはあてはまらないと渡部教授は強調する。言語力・内容の理解・基礎知識の三つの要素から学生のパフォーマンスを測定することがポイントで、どこに軸を置くかでテストの評価も変わるのだ。

 「CLILを取り入れた科目では、テストの前に、言語のテストなのか、科目のテストなのかを学生に伝えることが大切」と言う。CLILを用いた授業では、テストに至るまで、まさに教員の創造性が求められる。

ワークショップCALL教室でのディスカッションとディベートワークショップ
"The Multimodal Community of Practice:
CALL Discussion and Debate Workshop"

外国語学部英語学科 PIGGIN Gabrielle 講師

 ピギン ガブリエル先生は、ディスカッションとディベートの授業の進め方を体験できるワークショップを担当された。

 参加された先生方が意見を出しやすい『現代の日本の教育について』をテーマに、ピギン先生が次々と質問を投げかける。30秒という短い時間で自分の考えをパートナーに伝えるペア・ディスカッションの訓練が30分続いた。その後、「日本の大学入試は変わるべきか」について、グループでディベートを体験できるワークショップが行われた。ここでは、インターネットで説得材料を探すことも許される。

上智 CLILセミナー

 ディベートは、自分の意見がどうあれ、批判派と肯定派の二つのチームに分かれて意見を出し合う訓練だ。"It's all about how you say it."ピギン先生は、発言の内容だけでなく、ボディランゲージを交えた説得力の大切さも強調された。

上智 CLILセミナー

 「今日は、ワークショップなので準備をしていただく時間はありませんでしたが、通常の授業で、学生に課題を提示し調査をする時間を与えると、彼らは相手を説得する根拠や方法を時間をかけて準備してきます。ディベートによるディスカションがどれだけ教育に有効かご理解いただけると思います」とピギン先生は話す。

 リーダーシップスキル、コミュニケーションスキル、リサーチスキル、プレゼンテーションスキルなどが統合された言語能力が、協同学習によって身に付けられることを実感できるワークショップであった。

講義弱形CLILの、EFLクラスにおける実践方法
"Recommending 'Soft CLIL' for EFL classes in Japan"

外国語学部英語学科 和泉 伸一教授

 「CLILには二つのタイプがあります。『弱形CLIL』 は言語教育に、『強形CLIL』は内容教育に重点を置いた教育法です」と、和泉 伸一教授は、高校の英語教科書を使ってデモ授業を行いながら、英語初級者を対象にした授業を提案した。

 デモ授業の教材は、通学に3時間かかるギニアに住む女の子が主役の話だ。
"What is her name?" "Where does this girl live?"― 言語教育に重点を置き、文章を読み取る力を鍛える。次に、文章の中から、ゴツゴツした=rocky、ツルツルする=slippery などの単語に焦点を当てる。電子指示棒でパソコン画面にマーキングしながら、講義は円滑に進められた。「これが、森から木を学ぶ、ラウンド学習法です」と先生は説明された。

上智 CLILセミナー

 ひととおり教材をなで終えると、ギニアと日本の人口やGDP、識字率を数字で見せる。英語で、数字の単位とその読み方を学びながら、ギニアと日本の違いを学ぶ授業に発展していく。次に、パートナー同士で「なぜギニアでは識字率が低いか」について議論をさせる。ディスカッションも取り入れられ、学生が主体の授業に変わって行く。

上智 CLILセミナー

 「英語の教科書は、言語を学ぶために用意されたものではあるが、そこにも必ず内容はある。教員がその内容の面白さに気づき、学生に考えさせたい課題を発見しつづけることで、CLILの授業で活用できるトピックがいくらでも生まれてくる」と和泉教授は話す。学生に与えた課題から、教員には思いもつかない発想が生まれ、教員が学生から学ぶことも少なくないという。

 「教科書を食べ尽くすことで、言語の基礎に加え、言語以外の大切なことも教えられます。まずは、手元にある教科書で、文法を学ぶだけのものと思わずに、その中で教員が興味を持っているところから始めてみましょう」と和泉教授話を締めくくられた。

 今井先生、渡部先生、ピギン先生、和泉先生によるご講演・講義・ワークショップ・質疑応答は、全て英語で行われ、今後の授業に活用できるポイントを聞きもらすまいと、真剣にメモを取る参加された先生方の姿が印象的だった。

チエルマガジン秋冬号・高大版に上智大学のCLILが登場。(2014年11月4日発行)

新しい語学教育法とICT活用「上智大学とCLIL―CLIL導入への軌跡と実践―」

取材:池田 真准教授(文学部英文学科) 逸見 シャンタール講師(言語教育研究センター)

上智 CLILセミナー

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