世界が求める英語とは? 〜英語を話したくなる教育モデル〜

シンプルな英語を正しく使い回し、意思を伝える

株式会社 インターアクト・ジャパン 代表取締役
帯野 久美子

今、世界で求められている英語とは? 社会のグローバル化が進む一方で、日本人の英語力はアジアの中で最低レベルといわれる。新学習指導要領では、とりわけ英語教育の抜本的強化が強調されているが、10年後、はたして日本人の英語力は上がっているのだろうか。
英語学習教材ABLishの生みの親であり、日本人の英語運用能力の開発をライフワークとする帯野久美子氏にお話を伺った。

株式会社 インターアクト・ジャパン 代表取締役 帯野 久美子氏

抜本的改革が繰り返されても進まない日本の英語教育

はじめに

 私は長年、医薬専門の通訳・翻訳事業に携わってきました。そのなかで一貫して抱き続けてきたのが、「なぜ日本人は英語が話せないのか」という疑問です。現在では自身のライフワークとして、日々模索しながら、その打開に向けて取り組んでおります。

英語教育の抜本的改革

図表1 Test and Score Data Summary for TOEFL iBT® Tests (January 2018 - December2018 Test Data)
図表1 Test and Score Data Summary for TOEFL iBT® Tests (January 2018 - December2018 Test Data)

 私自身も中教審の委員として審議に関わっておりますが、2019年度より、文部科学省では英語教育の抜本的改革を進めています。改革の柱として、「小学校からの英語教科化」、「学習指導要領の改訂」、「大学の入試における外部試験や資格の活用」等が挙げられますが、これらのことを進めたら、10年後、果たして日本人の英語力は向上するのでしょうか。残念ながら、10年後も「なぜ日本人は英語が話せないのか」という同じテーマで私は講演を続けているのではないかという気がしてなりません。

世界における日本人の英語力

 実は、英語教育の抜本的改革というのは最近始まったことではなく、1970年代から繰り返し進められてきたことです。それにもかかわらず、日本人の英語力はアジア下位(29か国中27位)(図表1参照)、日本人生徒の英語力(中学校であれば英検3級)は目標未達成(目標50%/中学校42・6%、高等学校40・2%)、さらに日本人教員の英語力も目標未達成(中学校 目標50%/36・2%、高等学校 目標75%/68・2%)のままです。

 この数字から、中学校では半分以上の生徒が、想定された英語力レベルに達しないまま卒業し、高等学校、そして大学へと進んでいくことがわかります。その状態で、さらに上の級を目指したり、TOEICやTOEFLで良い点を取れたりするでしょうか。

 中学校という早い段階で、英語学習についていけず、「落ちこぼれていく」生徒が潜在的にこれほどいる、というのは非常に大きな問題だと感じています。

なぜ改革が繰り返されても英語教育は進まないのか

 これは決して、文部科学省の責任ではありません。学習指導要領を含め、既存の政策を変えるきっかけとなるのは往々にして、「世論」やそれに大きな影響を与える「財界・経済界からの提言」によるところが大きいのです。私も関西経済同友会で英語教育に関する提言をまとめましたが、その時感じたのは、提言を行う側の方々に英語教育についての専門的な知識が十分ではないことです。先の学習指導要領から既に、英語学習についてはコミュニケーション主体へと大きく変わっているのに、ひと昔前の英語教育を元に批判が繰り返されるようでは、なかなかその先の一歩とまではいきません。

 また、英語教育への批判がされる際、常套句のように「日本人は英語の読み書きはできるが話せない」と言われますが、私は正直なところ、英語を「書ける」日本人に出会ったことは、ほとんど無いですね(笑) 「読み聞き」もできないけれど、「書く」「話す」はもっとできない、というのが、残念ながら今の日本人の現状ではないでしょうか。

 大学入試が変われば、英語教育も変わるといった意見も近年ありますが、今や5割以上の受験生が推薦やAO入試など、英語の試験無しで入ってくることを考えると、そうも言えないでしょう。

英語の到達目標に対する誤解

 抜本的改革を繰り返しながらも英語教育の答えが見えてこない現状にも関わる話ですが、英語の到達目標について、日本全体で大きな誤解があります。

 日本では、多くの方々が自身の英語能力を「中学校レベル」と卑下し、劣等感を抱きつつ、なんとなく「ネイティブのように流暢に話せる」状態をゴールと考えがちではないでしょうか。しかし、それは私の会社で仕事をしている同時通訳ですら、生涯かけて努力しても到達しえないレベルなのです。なぜ、そのように「絶対に到達不可能な目標」を皆が当然のように思い描くのか。それは、英語学習において「実際にどんな英語を話せるようになればいいのか」という到達目標が明確に共有されてこなかったからです。

図表2 英語教育への過度な到達目標と批判のループ
図表2 英語教育への過度な到達目標と批判のループ

 この誤った目標により、「10年も英語を学んできたのに、全然ペラペラになれない。これは日本の英語教育が悪いんだ」と教育批判がされ、英語教育目標のさらなる高度化を招き、それがますます到達できずに批判される負のループが、本来あるべき到達目標が共有されないままに繰り返されているのが、この数十年の日本の英語教育の歴史といえます(図表2参照)。

英語を取り巻く世界の環境は大きく変化

 日本の英語教育が迷走する一方で、英語を取り巻く世界の情勢は大きく変化してきました。世界人口の4人に一人は英語を使っています。インターネット空間では80%以上の割合で英語が使われているので、それを考えると、世界で3人に一人は何らかの形で英語に携わっているといえます。その中でネイティブは22%、では残りの78%の人々は、どんな英語を使っているのでしょうか。

世界で求められる英語とは

 今、世界で求められているのは、シンプルでわかりやすい英語(ベーシック・イングリッシュ)です。

 すでに、1970年代からアメリカでも「プレイン・イングリッシュ運動」が進み、英語のわかりやすさの指標が「リーダビリティ指数」によって明示されています(図表3参照)。

 この指数で表すと、かの有名なキング牧師のスピーチは65ポイント、マララ・ユスフザイさんが「すべての子どもに教育を受ける権利の実現を」と訴えた国連演説スピーチは72ポイントであるのに対して、G20大阪サミット議長国記者会見の安倍総理のスピーチは46・5ポイント、東京大学ホームページに掲載されている五神総長の挨拶文は33・4ポイントと、かなり難易度が高いことがわかります。

 今こそ日本人は、「流暢に難しい英語を話すことこそがゴール」という誤った考えを棄て、「わかりやすい英語で自分の考えを的確に伝える」能力を高めていくべきではないでしょうか。

図表3 リーダビリティ指数
図表3 リーダビリティ指数

世界が求める英語とは

英語が話せるようになるために何をすべきか

 シンプルな英語を、いかに正しく使い回して、自分の意思を伝えるか。そのために、まずは「中学校レベル」の英語をしっかり身につけることです。義務教育というのは本来、それを修得すれば社会人として生活ができる、というものなのですから。そして、この義務教育で修得した英語を、「どれだけ運用して自分の意思が伝達できるか」というのが、英語教育において最も重要なことだと私は考えています(詳細は図表4参照)。

 前任の和歌山大学では、ここ10年以上、夏休み期間にABLishを使った丸5日間の「地獄の特訓」という集中講義を行なっています。一日6時間の講義と3時間の自宅学習により、英語をひたすら「聴きまくり読みまくる」という特訓です。5日間の講義を終えた学生の多くは、TOEICのスコアが300点ほど上がります。

 国立の大学なので、もともと学生には中学校レベルの英語力はしっかり備わっていると考えられますが、この結果から、高等学校でいかに彼らの英語運用能力が開発されてこなかったか、ということが見てとれます。その開発面の問題がクリアされれば、日本人はみんな英語が話せるようになるはずなのです。

図表4 英語が話せるようになるためにすべきこと
図表4 英語が話せるようになるためにすべきこと

ICTを活用した英語教材で英語運用能力の開発を目指す

 英語とICTは非常に相性の良い組み合わせです。しかし、ICTを活用した英語教材は数多くあるものの、初級者向けの教材だと内容も初級者レベルなものばかりで、すでに知識豊かな大学生や社会人に適した内容の教材というものがありませんでした。そこで、内容は高度でありながら英語は初級、世界のニュースを元に広範囲なトピックを揃えたABLishという英語教材を活用するに至りました。その学習効果については先述の通りです。

自由な発想が日本の英語教育を変える?

ICTの活用で学習者を教室外の世界と繋げる

 ICTを活用した英語教材については、今後それをどう使い回すかが鍵になります。これまでは「いかに先生が楽に教えられ、採点できるか」に終始しがちで、「先生がどう使いこなすか」というところまで踏み込んでいなかったように感じます。先生方には、既存の教室の枠を超え、学生、子供たちを外の世界へと誘うような授業を工夫していただきたいですね。

ABLish活用例 【海外の大学との連携】

 学生にもっと世界観を広げてほしくて始めたばかりのプロジェクトが、海外の大学との連携です。今、アジアの国々における日本語熱は非常に高くなってきており、私が客員教授を務めるホーチミン市師範大学でも、日本語を学びたい学生が年々増え、今では約800人を抱える日本語学部があります。その一方で、圧倒的に足りないのが日本語教員と日本語の教材です。

 そこで、ホーチミン市師範大学の学生と同大学が協定を結ぶ追手門学院大学の学生が、ABLishで同じトピックを同時に学べないかと考えました。同じトピックを使って、日本の学生は日本語を見ながら英語を学び、ベトナムの学生は英語を見ながら日本語を学びます。そして、それぞれ学んだことをバーチャルな空間で意見交換し、情報を共有し、交流するのです。そうやって、国の壁を超えて日常的に一緒に学んでいくことができたら、素晴らしいと思います。

ABLish活用例 【地域連携】

 9月末にスタートしたプロジェクトが、泉佐野市役所の職員を対象とした語学研修です。こちらもICTのメリットをフル活用し、対面授業とICTによる自主学習を組み合わせて行います。ABLishの中から1日1本自分の好きなものを聞く(任意)、週に1本決められたものを聞き、付属のTOEIC仕様の4択問題の答えを送信(必須)、さらに月に1本、公務員にふさわしいトピック(環境問題、ジェンダー問題、観光等)を選び、自分の意見、主張を盛り込んだプレゼンを作ります。それを200ワード以内にまとめて講師に提出するのですが、書くことが負担になってはいけないので、音声で3分程度のものをSNS経由で送信するのも可としています。研修期間は6ヶ月。最後は市職員の立場で本格的なディスカッションを行う予定です。このような試みは初めてなので、市長以下、皆様に大変期待していただいております。

おわりに

 今後、ICTを活用した英語教材を使って英語運用能力の開発を目指すうえで、それらの教材をどうカスタマイズしていくかというのが大きな課題となってきます。そういった意味で、今、私の周りでは今までにない面白いプロジェクトが次々と動き出していますが、それは、もしかしたら私が専門の教育者ではないからこその自由な発想が可能にしているのかもしれません。これから先、英語の先生や専門の教育者という枠にとらわれず、自由な発想ができる「コーディネーター」が一緒に動くことが、日本の英語教育が大きく進む一助となるのではないでしょうか。

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