デジタルネイティブ世代の情報リテラシー教育

情報リテラシー教育の先進事例 新潟県 新潟大学教育学部附属新潟小学校

生まれながらにしてICTに親しんでいる「デジタルネイティブ」世代の子どもたちが、学校や家庭でさまざまなICTを活用する現在、「情報リテラシー教育」の必要性が強く叫ばれている。そこで国内では、「情報リテラシー教育の実践研究において国内最先端」と評される、新潟大学教育学部附属新潟小学校の取り組みを取材した。子どもたちの日ごろの姿を紹介しよう。

6年担任
研究分野:外国語活動
茂木 智弘 先生
1年担任
研究分野:図画工作
堀田 雄大 先生
5年担任
研究分野:理科
安藤 達郎 先生
5年担任
研究分野:家庭科
渋谷 美和子 先生
4年担任
研究分野:総合的な学習の時間
片山 敏郎 先生

「新しい学び」に、大きな衝撃

 4年生の子どもたちが、一人1台のiPadを熱心に操作している。地元商店街のPR動画を作って編集しているのだ。街の様子や商店街の方々にインタビューした様子をiPadで撮影し、付箋アプリやマインドマップのアプリで、集めた情報や伝えたいことを整理。そしてiPadで1分間のPR動画を作りこんでいく。完成後は、YouTubeにアップロードして、地元商店街の魅力を世界に発信する予定だという。

 この日の授業では、出来上がった動画を見直し、YouTubeに投稿しても問題がないか、課題を見つけ出し、その改善策をゲストティーチャーとともに見い出す活動が行われた。

 この子どもたちが一人1台のiPadを使い始めたのは、2013年6月のこと。それから2年足らずで、この姿になった。iPadを導入したのは、2013年春に附属新潟小へ転任してきた片山敏郎先生。当初は片山学級だけでの実践だったが、子どもたちの新しい学びの姿は、またたく間に全校の注目を集めた。

 「新しい学びが生まれている、と感じました。今まで見たことがない何かが起きていたんです」と、渋谷美和子先生は、子どもが授業に食らいつく姿に驚いたことを振り返る。

 「まず、子どもたちが扱う情報の量と種類が、今までとは桁違いに増えると感じました。今までは、教員が事前に用意した資料や書籍といった情報の中から、子どもに取捨選択させていたのです。しかし片山学級の子どもたちは、教員の想像を越えて自分たちでiPadで情報を集め、共有し、整理して、発信していたのです」

 さらに、もともと附属新潟小が研究していた別のテーマでも、iPadは有効と考えられた。附属新潟小では以前から、「学びをつなぐ力を高める授業」を研究してきた。学びをつなぐ力とは、既習の知識や技能、経験をつないで考え、新しい知識やよりよい解を作り出す力のこと。その力を高めるために、情報を上手に収集し、分類し、比較し、関係付ける思考の操作を磨いている。

 「本校では、これを『考えるすべ』と呼んでいますが、この『考えるすべ』においても、iPadは有効でした。情報を収集し、比較し、関連づけて考える道具として、紙で行うよりも便利な場面があり、アナログにはない力があると実感しました」と、渋谷先生は言う。こうして附属新潟小の熟練した先生方の多くがiPadの力を認め、附属新潟小の研究テーマの一つとして、学校を挙げて取り組むことを決定した。

授業例下本町レボリューション・プロジェクト 〜YouTubeで街おこし〜

4年:総合的な学習の時間 片山敏郎先生

目指す姿:情報リテラシーを活用して、実社会の問題解決に貢献しようとする子どもたち
高齢化・ドーナツ化に伴う商店街の衰退の解消に向けた課題解決活動として、インターネットを通じて情報発信に取り組むことを通して、インターネットを用いた発信活動には、特別な配慮が必要だというものの見方・考え方を見い出すことができる。

理論先行でなく、実践を優先に!

 研究を始めるにあたり、まず定義が決められた。先に述べた附属新潟小の大研究テーマである「学びをつなぐ力を高める授業」と関連づけて、「ICTを活用し、『考えるすべ』を発揮しながら、問題解決に向かって情報を収集・判断・表現する力」を、『附属新潟式情報リテラシー』の定義とした。しかし、そこからが難航した。「理屈から入ろうとしたのがよくなかった」と、ICTの情報リテラシー研究リーダーの安藤達郎先生は述懐する。

 「低・中・高学年ごとに、身につけさせたい情報リテラシーを表にまとめ、そこに実践を当てはめようとしたのです。たとえば、この学年ではこのレベルの情報収集力を習得させたいから、こんな実践をしようというように、理論先行で組み立てていこうとしました。しかし、しっくりこなくて、これでいいのかと迷っていました」

 そんな時、堀田龍也教授(東北大学大学院・情報科学研究科)のアドバイスに、ハッとしたという。

 「理論先行ではなく、まず授業でどんどん使って実践を積み重ね、その中から理論を導き出せばいいと、ご指導いただきました。目から鱗でしたね」と、片山先生は振り返る。

 さらに堀田教授は、「iPadありきで授業を組み立てるのではなく、授業のねらいを達成する数ある手段の一つだと考えて、適した場面にiPadを組み込めばいい。iPadにとらわれすぎないこと。iPadはここ数年しか流行しないツールかも知れない。道具が変わっても通用する力を育むことを考えよう」とも、助言された。このアドバイスのおかげで、発想を大きく転換できたという。

 「本当にガラッと変わりましたね。さまざまな教科のさまざまな場面で、iPadを使ってみよう、自由に使ってみようと考えが変わりました。それ以前は、iPadならではの実践をしなければと思い込み、iPadを活用する場面を狭めていた気がします」と、安藤先生は振り返った。

活用の積み重ねが、最も重要!

 発想を転換した附属新潟小は、三段階のフェーズで研究を進めていくことを決めた。

 第一フェーズでは、まず活用経験を積み重ねる。その中で、子どもたちは調べた情報を分類したり、分かったことを関連付けて説明するといった力を発揮し始める。それを教員がしっかり拾ってほめ、「情報を分類するすべとして使い、力がついている」などと価値付けて、校内に広げていく。それが第二フェーズ。そして第三フェーズでは、子どもたちがさまざまな場面で、自ら進んで情報リテラシーを発揮していけるようになる。

 まずは第一フェーズということで、さまざまな教科と単元でiPadを使い始めた。とはいえ、やみ雲にiPadを使ったわけではないと、片山先生は言う。

 「教科や単元のねらいを達成する手段として、iPadが向いていると思った場面で使ってくださいと、お願いしました。附属新潟小の先生は、教科の研究を積み重ねています。そんな授業熱心な先生が授業でiPadを使うなら、そこには必ず使うだけの意味と効果があるはず。今までの授業を越える力があるはず。その実践を集めて、情報リテラシーの視点で分析し、価値付けようと考えたのです」

 実践が始まると、すぐに反響があった。堀田雄大先生も、iPadの効果に驚いた一人だ。

 「1年生の図工で、iPadを使わせてみたんです。絵や工作など、子どもが作った作品を、『工夫した点、おもしろいと思う点に注目して撮ろう』と指導し、iPadで撮影させました」

 作品のおもしろさや工夫に着目して鑑賞するというねらいを達成するために、鑑賞ツールとしてiPadを使ったのだ。すると予想以上の成果が出た。

 「教員が見過ごしていた良さや工夫点を、子どもたちはどんどん発見し合ったのです。他の先生方も『iPadを通すと鑑賞力が高まるね』と、驚いていました」

 「鑑賞ツールとしてiPadを使わせようとしたら、子どもたちは表現ツールとしても使い始めたのです。こちらの想定を越えるうれしい驚きで、図工の本質である鑑賞力や表現力の向上につながると感じました」

 教員の予想を越えた活用は、子ども間で伝播し、瞬く間に広まった。

 「家庭科の『校内の汚れ探し』の単元でも、iPadで写真を撮っておいで、としか指示していないのに、画像にイラストや説明文を書き加えてわかりやすく表現する子が出現。それを見て他の子どもたちも真似し、さらには紙芝居や動画でレポートをまとめるなど、どんどん工夫を凝らしていきました」と、渋谷先生は語る。

自然な形でアクティブラーニング!

 外国語活動では、こんなシーンも見られた。茂木智弘先生は振り返る。

 「子どもたちは、自分のスピーチをiPadで録音して発音を確認したり、ALTのスピーチを録音して、繰り返し聞き始めました。私が指示したわけでもないのに、子どもたちはiPadを使って自分で学び始めたのです」

 これはアクティブラーニングではないか。「本校では昔から問題解決型学習を進めて来ましたから、うちの子はみんなアクティブラーニングをしますよ」と、片山先生は答えてくれた。それを聞いていた安藤先生は、「でも、iPadがこれほどアクティブラーニングを促進するとは思っていなかったですね」と続けた。

 「たとえば理科では、今までなら子どもの心にもっと知りたいという意欲や疑問が芽生えても、先生に質問するか、事典や図鑑を調べるぐらいしか、主体的に学ぶすべがありませんでした。でも、iPadを使えば、主体的に学ぶすべが飛躍的に広がります」

 『流れる水のはたらき』の単元を学んだ時、安藤先生は小さな模型を作り、子どもたちに、水が土を削り運ぶ実験を観察させた。すると、ある子が「実験ではこうなったけど、ほんものの川もそうなっているの?」と疑問を持った。「見に行きたいね」「でもそんな時間ないよ」と、ざわつく子どもたち。そこで安藤先生は、グーグルアースというサイトがあるよと、さりげなく伝えた。

 「すると、子どもたちはさっそく、iPadで信濃川や利根川の様子を観察し、本物の川もそうなっていることを確認していました」

子どもを信じて、自由に使える環境を

 今、附属新潟小の子どもたちは、自ら進んで情報リテラシーを発揮する第三フェーズへと移行し始めている。短期間でこれほど成果が上がっている理由として、子どもが自由にのびのびとiPadを使える環境を整えたことも、記しておきたい。たとえば、iPadを保管しているPC教室にはカギをかけず、担任の先生に許可さえ得れば自由にiPadを持ち出して使えるようにした。

 「あれをしちゃダメ、これをしちゃダメと、あまり制限しないようにしていました。だから、子どもも教員も気軽に使え、実践がどんどん増えたのでしょう」と、渋谷先生。iPadのアプリも、子どもが使いたいと望んだものは、有害でない限り入れさせているという。

 「地元商店街のPR動画を作っていた時、子どもが『モザイクをかけるアプリを入れたい』と、言ってきました。動画に写り込んだ車のナンバーや通行人の顔にモザイクをかけたいというのです。肖像権の指導もしていたので、そこに気づいてくれたのはねらい通り。ただ、写り込んだシーンはカットするだろうなと僕は予想しました。ところが子どもは、モザイクをかけて動画を活かす方法を自分で編み出したんです」

 OKを出すと、子どもたちはさっそくモザイクをかけるアプリを何種類も入れて使い比べ、一番使い勝手が良いものを選んだという。

 「問題解決のために必要な手段を自ら探し出し、数ある手段を比較して選び、使っていく。これも情報リテラシーですよね」

 今後は、附属新潟小で培った研究をモデルプランの形でまとめ、全国に発信していきたいという。

 最後に、渋谷先生は、「授業の目的を見失わず、授業の枠組みさえしっかりと定まっていれば、子どもに自由に使わせてもぶれることはありません。遊んで楽しかったで終わらず、問題解決に向かってiPadを工夫して活用し、教員が予想した以上の姿を見せてくれます。恐れずに、子どもを信じて使わせてみれば、必ずいいことがありますよ」としめくくった。

落としても壊れない耐衝撃ケース。「iPadを壊してしまうのを先生も子ども怖がると、課題に集中できなくなりますから」と片山先生。
授業が終了すると、先生が指導をしなくても、子どもたちはiPadを電源につなぎ、収納ケースに納める。
子どもたちが見つけてきたアプリがインストールされている。何種類か比較され、一番使い勝手が良い物が残っていく。

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