公開日:2014/11/14

「格差問題」の解決には学校と教育委員会が効果的に協調を !

東北大学大学院 情報科学研究科 堀田龍也 教授

国が、ICT環境と活用の「格差是正」に乗り出した...

今年の8月に文部科学省が発表した『ICTを活用した教育の推進に関する懇談会』中間報告書は、小中学校でのICT活用が現在直面している大きな課題の解決を目指す画期的なものだった。それは、「格差問題」だ。タブレットPCを整備して先進的な活用に取り組む自治体がある一方で、未だに実物投影機すらない自治体も存在しており、この格差は子どもの学力に深刻な影響を及ぼすのは必至。この格差を解消するために、学校そして教育委員会は何をすべきか。

ICT活用は新たな局面へ深刻な格差問題の解決が課題に

 今年8月末、文部科学省(以下、文科省)が『ICTを活用した教育の推進に関する懇談会』の中間報告書を公表したのをご存知でしょうか。この中間報告書には、今までにはない画期的な内容が盛り込まれています。

 ICT活用における自治体間の「格差」を深刻な問題とし、この問題を解決するためには、ICT活用が遅れている自治体が、計画的かつ段階的に環境を整備し、教員のICT活用指導力を向上させていく必要があると指摘。そのための具体的な方策も提言したのです。

 これまで文科省や国は、タブレットPCを用いた『学びのイノベーション事業』など、先進的なICT活用の実証研究に力を入れてきました。しかし今回は、未来をリードする先進的な取り組みを進めるだけでなく、ICT活用が遅れている自治体の底上げにも目を向けたのです。これは今までにない画期的な報告であり、ICT活用は新たな局面を迎えたと言えます。

 なぜ今、このような画期的な中間報告が出されたのでしょうか。その背景には、ICT活用が直面している「格差」の深刻化があります。

 授業でのICT活用は、確実に全国に広まりました。今やほとんどの教員が、ICTを活用して教える重要性を知り、その効果も認識しています。ひと昔前は「授業でICTを使って、何の意味があるのか」といった疑義を唱える人もいましたが、もはやそのような声は聞かなくなりました。しかしその一方で、ICT活用に大きな格差が生じてしまったのです。

どんな格差が発生しているか整備と活用に大きな差が発生

 では、どんな格差が生じているのでしょうか。第一に、整備の格差です。

 授業でのICT活用で学力向上などの効果を得るには、日常的にICTを使える環境整備が不可欠なのは言うまでもありませんが、この環境整備が遅れている自治体が未だに多く存在します。〈図1〉のグラフを見てください。今やタブレットPCの活用に注目が集まっている時代だというのに、実物投影機すら十分に導入されていない自治体が、これほどあるのです。

 整備の遅れだけでなく、段階を飛ばして流行の機器に飛びつく問題も起きています。たとえば、タブレットPCが流行っているからと導入したものの、電子黒板が教室に整備されておらず、タブレットPCで学んだことを大きく映し出して発表できない、学び合いにならないといった事態も起きています。

 必要なICTを、段階的に整備しなければ効果は得られないのに、一段飛ばし二段飛ばしで先頭に追いつこうと無理をした結果、宝の持ち腐れになってしまっているのです。

 第二に、ICTを使って指導する教員の能力にも、格差が生じています。〈図2〉のグラフを見てください。「授業中にICTを活用して指導できる・ややできる」と回答した教員の全国平均値は69・4%ですが、最高値の佐賀県(95・0%)と最低値の奈良県(60・0%)との間には、これほどの差があります。

 あなたの都道府県はどうでしょうか?

〈図1〉実物投影機の1教室あたりの整備状況(都道府県別)

文部科学省「平成25年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【速報値】」より

※実物投影機は、日常的なICT活用を促すはじめの一歩となる機器であり、国も1教室あたり1台の整備を目標にしている。しかし、1教室あたりの整備台数を見ると、最高の岡山県(0.91台)と最低の福岡県(0.16台)には大きな開きがある。

〈図2〉授業中にICTを活用して指導する能力(都道府県別)

文部科学省「平成25年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【速報値】」より

※「教員のICT活用指導力チェックリスト」で、「わりにできる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合を表したグラフ。

格差是正には計画的かつ段階的な整備が大事

 今回の中間報告では、この自治体間の格差に正面から向き合い、格差を解消するための具体的な施策について提言しています。

 ICT活用を日々の授業に浸透させていくには、ICT環境の整備や教員のICT活用指導力の向上を、「計画的かつ段階的に」進めることが大事だと述べるとともに、先進的な自治体が歩んできた成功のプロセスを細かく示し、それに倣うようにアドバイスしています。報告書から抜粋した提言〈図3〉を読んでみてください。

 この抜粋を読んで気づいた方もいるでしょうが、これは今まで繰り返し話題になってきたことです。このようなことを、今まで文科省はあまり触れて来ませんでした。先進的な取り組みの旗を振り、未来のゴールを示すことに特に力を入れていたのです。

 しかし、旗を振っても動かない自治体も多く、先を行く自治体との間に、深刻な格差ができてしまいました。また、必要なプロセスを経ずに段階を飛ばして近道しようとする自治体も出てきました。

 必要なプロセスを段階的に踏むことは、とても大事です。たとえば、まずは初期段階で、実物投影機を使って子供のノートなどを映して学び合う環境を整え、教員も経験を積み、効果を実感しておく。その段階を経験していてこそ、タブレットPCで学び、まとめた画面を電子黒板に映して学び合うという先進的な取り組みもスムーズに行えるし、効果を得られるのです。

〈図3〉「ICT を活用した教育の推進に関する懇談会」報告書(中間まとめ)から抜粋

※太字・下線は編集部によるもの

授業への計画的・段階的な導入

 ICTを活用した教育を日々の授業に浸透させていくためには、ICT教育環境の整備や教員のICT活用指導力の向上に関する取組を計画的かつ段階的に進めていくことが有効である。

 先進的な地方公共団体の取組を踏まえると、例えば、初期の段階では、教員が比較的指導に取り入れやすい電子黒板・プロジェクターや実物投影機を用いて、一斉学習において効果的に活用したり、実物投影機を用いて、児童生徒がグループ学習で作成した資料を表示して発表し合ったりすることなどが考えられる。そして、次の段階として、必要な教科等において、1グループで1台や、一人1台のタブレット端末等を活用して授業を実施するなど、授業における段階的な活用が考えられる。

計画的・段階的な整備の推進

 国が講ずべき具体的な支援については、電子黒板など教員が比較的扱いやすい機器も十分に整備されていないような地方公共団体と、タブレット端末等の情報端末の導入が始まっているような地方公共団体とでは、(中略)それぞれの状況に応じた方策を講じることが適当である。具体的には、前者の地方公共団体に対しては、計画的に整備を進めることができるよう、例えば国が、先進的な取組を行っている地方公共団体での事例を参考として段階的整備モデルを示すことや、具体的な整備目標や整備計画の設定に対する外部専門家による指導・助言等に重点をおいた支援を中心とすることが適当である。

教育委員会が主体的に動かねば義務教育の公平性は損なわれる

 義務教育は、日本全国どこの学校でも、一定水準以上の教育を受けられる公平性を保障しなければなりません。しかし、ICT活用の格差は、この公平性を脅かしています。

 学習指導要領が変わり、教育内容が大幅に増えた今、限られた授業時間内でしっかり理解させるには、教員の力量だけでなく、ICTを上手に活用することも欠かせません。しかし、日常的にICTを使える環境がなければ、ICT活用を継続できません。どんな素晴らしい授業でも、数回行っただけでは効果は得られない。毎日のように行ってこそ、子供は少しずつ伸びていくのです。

 そのことに気づいた自治体は、日常的にICTを使える環境を整備しました。その一方で、未だに整備が遅れている市町村もあります。

 全国には一七〇〇以上の自治体がありますが、義務教育である小中学校の設置者は、基本的に区市町村です。義務教育の公平性を保障し、格差を解消するには、区市町村が主体的に行動していかねばなりません。都道府県教育委員会から指示が下りてこないとか、補助金が下りてこないとか、そういう消極的な姿勢が、現在の格差問題を招いた一因でもあります。

 格差を放置していることが教育の機会均等に反し、子供の未来を損なう危険を招いていることを自覚していない。これはとても憂慮すべき事態だと、国は認識しています。中間報告書でも、「国は、より多くの地方公共団体が早期に教育の情報化に着手しやすくするよう支援するとともに、教育の質に地域間で格差が生じないよう(中略)努めるべきである」と、明記されています。

 そこでこの中間報告では、ICT環境の整備に関しても、先進的な自治体の取り組みを参考にしながら、計画的・段階的に進めていくよう提言しています。

 先に進んでいる自治体は進んでいるなりに、遅れている自治体は遅れているなりに頑張って、格差を埋めてほしいと、極めて現実的に考えているのです。

優れた成功事例に学ぶことこそ格差を埋める秘訣

 今後は、ベテランの教員が次々と定年退職を迎え、若い教員が急増していきます。経験の浅い教員が増えるため、学校全体の授業力が低下してしまう恐れがあります。この下落を止めるには、若い教員でもわかりやすい授業が行えるように、ICT環境を整備し、活用を促すことが重要になってきます。長期的な計画のもと、自治体や学校長のマネジメントが求められる時代なのです。

 そこで今回のチエルマガジンでは、自治体や学校長が何をすべきかの参考になる事例を三件、紹介しています。

●北海道教育委員会のケース

 北海道教育委員会は、学力の向上が喫緊の課題でした。全国学力・学習状況調査で、下位に低迷していたのです。

 優秀な教員も多いのですが、皆思い思いの課題に向かって、バラバラに取り組んでいたのです。

 そこで北海道教育委員会は、学校が強い団結力と組織力を持って、「学力向上」という大目標に向かって全教員を一致団結させようと考え、「学校力の向上」を目指す事業をスタートさせました。学校力とは、強い団結力・組織力を基盤とした、授業力のことを指しています。

 まず北海道教育委員会は、モデル校を指定し、日常的な活用を可能とするICT環境を整備しました。そしてモデル校の校長は、チームとして最大限に学校力を伸ばすマネジメントを推進していきました。教員一人ひとりの個性を活かしつつ、お互いが補い合うチーム編成や、授業力を高める校内研修などを実施。自分の学校の課題や目標に合わせて、予算や人員を重点的に配分する処置も進めていきました。

 北海道教育委員会がモデル校を選定しているので、モデル校がある市町村教育委員会が協力しやすい雰囲気が醸成されたのも明記しておくべきでしょう。モデル校にだけ予算を厚く配分するのは難しいですが、そのかわりに、校長の判断で予算を弾力的に運用できるようにするなど、市町村教育委員会がモデル校を側方支援する体制が整ったのです。

 学校長は計画を立てて実施し、成果を測定し、分析して次に反映させるPDCAサイクルで、学校を経営していきました。市町村教育委員会は、モデル校の取り組みを周辺校に広める活動などでサポート。北海道教育委員会は、視察した先進校や道内のモデル校から得られたノウハウを手引にまとめ、道内の学校に配布し、北海道全体の「学校力」向上を後押ししました。

 この事業を始めてまだ2年ですが、すでに大きな成果が出ています。

 あるモデル校は、学力が北海道平均すら下回っていましたが、今や北海道平均どころか全国平均をはるかに上回る学力を勝ち得ました。

 わたしも外部アドバイザーとしてモデル校に入っていますが、この2年で学校の様子が激変したのを肌で感じています。授業がわかるようになったので、子供たちが落ち着きました。学校にゆとりが生まれたのです。「勉強をたくさんさせるとゆとりがなくなる」などと思われがちですが、実際は逆なのです。勉強がわかるようになるから、授業が楽しくなり、自己肯定感が高まり、学級が落ち着き、そしてゆとりが生まれるのです。

●相模原市教育委員会のケース

 相模原市教育委員会(神奈川)の事例は、市教育委員会がしっかりとしたビジョンを持ち、長期的な計画を段階的に進めている好例です。

 相模原市は、昭和60年代から教育の情報化が盛んで、かつては日本の最先端に立ってリードしていました。しかしここ十年ほどは、必ずしも先進的とはいえない状態だったのです。

 そこで相模原市教育委員会は、この遅れを取り戻そうと、10年計画を立て、段階的にICT環境を整備し始めました。

 政令指定都市である相模原市は、市立小中学校が多く、全校へ一斉に同じICT環境を導入するのは不可能でした。これは相模原市に限らず多くの市町村で言えることですが、整備が複数年にまたがる場合、市教委が長期的なビジョンをしっかり持っていないと、途中で失敗する危険性が高くなります。人事異動に伴って方針が変わったり、予算の都合で整備が中断してしまったり、目新しい機器に飛びついて方針変更していたのでは、現場は混乱し、金と時間の無駄遣いになってしまいます。

 その点、相模原市教育委員会は、揺るぎのないビジョンと長期計画を持って、事業を進めています。まずは実物投影機と電子黒板を全教室へ導入することからスタートし、その次に教員用タブレットPCを導入し、その後に子供用タブレットPCの導入を計画しています。一段飛ばしではなく、一段一段着実に登っているのです。

 このような好例は、全国ではまだまだ珍しいのが現実です。相模原市の取り組みは、これからICT環境の整備に着手する自治体にとって、良いモデルになるでしょう。

●恩納村立山田小中学校のケース

 沖縄県恩納村立山田小中学校は、学校長が上手にマネジメントした好例と言えます。今年の全国学力・学習状況調査で、沖縄県の学力が飛躍的に上昇したことに驚いた方も多いと思います。その原動力の一つになったのが、この山田小中学校なのです。

 山田小中学校では、以前からICTの環境整備は進んではいたのですが、ICTを活用して学力を向上させようとはあまり考えられていませんでした。そこで学校長は、ICTで学力を向上させようと、手を打ち始めたのです。

 学校全体で、正しいICT活用モデルを統一し、教員間の格差解消に努めました。ICT活用の内容も、全教員が行うことを前提に、段階的にレベルアップすることを心がけました。まずは実物投影機やフラッシュ型教材を使って、基礎・基本の徹底からスタート。そして2年半経った今では、タブレットPCや『らくらく先生スイート』を使った学び合いを行うまでに成長しています。

 段階的にICT環境を整備し、それに伴い、活用の内容も基礎・基本から発展学習へと広げていった。これが、山田小中学校が成功した一因です。

ICTを活用した教育の推進にかかる諸施策の実施工程表

「ICTを活用した教育の推進に関する懇談会」報告書(中間まとめ)関連資料より

初等中等教育におけるICTを活用した教育を推進するために、第2期教育振興基本計画の実施期間(平成29年度末)において取り組むべき施策

※ 項目については毎年度進捗状況を確認の上、必要な見直しを図る ※ 緑枠はこれまで又は現在進行している取組、赤枠は新たに講ずる施策、青枠は主に検討会議等を表す

※「教員のICT活用指導力チェックリスト」で、「わりにできる」もしくは「ややできる」と回答した教員の割合を表したグラフ。

教育委員会そして学校がすべきこととは

 学力向上と、ICT環境の整備およびその活用を結びつけるのは、もはや当たり前の時代です。教員のほとんどは、それに同意していますし、やった方がよいとも思っています。しかしその前に、「格差」の壁が立ちはだかっています。

 まず教育委員会は、文科省が提言するように、段階的・計画的なICT環境の整備に努めて格差を埋めましょう。

 新しいICTをどんどん学校現場に取り入れ、実証研究することも大事です。しかし、先端の研究だけでは、定着しません。普及せずに終わってしまいます。これでは、せっかく予算と時間と人員を割いて研究を行っても、子供の学力に還元されません。

 先端の研究開発だけでなく、すべての教員になじむような、現実的なICTの活用を定着させましょう。「先端」と「定着」、どちらも必要なのです。モデル校を作って先端の研究を進めるだけでなく、その成果を周辺校にフィードバックして定着させていくのも、教育委員会の重要な役割だと覚えておいてください。

 区市町村には、それぞれの課題や目標があると思います。基礎・基本を徹底させたいとか、思考力を伸ばしたいといった、自分たちの教育課題に合わせて明確なビジョンを打ち立て、それを実現する手段の一つとして、ICT環境を整備し、活用を促していきましょう。指示を待つのではなく、自分たちで考え、主体的に行動していきましょう。

 学校間・教員間の格差を埋めるために、学校長は明確なビジョンを持って、すべての教員が正しい活用をできるように、校内マネジメントに尽力してほしいと思います。学校長が就任前後に教育委員会に異動になることがあるのは、こういったマネジメントを学ぶためでもあるのです。

 今回のチエルマガジンで紹介したような、良い成功事例を参考にしてください。都道府県教育委員会、市町村教育委員会、そして学校が、それぞれの役割を理解し、上手に協調してこそ、良い結果につながります。

 人任せにするのではなく、教育委員会と学校が手を取り合って主体的にICT活用に取り組み、子どもたちの未来を切り拓いてほしいと願っています。

文部科学省が「学校のICT環境整備」を
強く呼びかけるパンフレットを作成!

 このパンフレットでは、平成25年6月に閣議決定された『第2期教育振興基本計画』における目標達成のための「教育のIT化に向けた環境整備4か年計画」をはじめ、「教育の情報化」のねらい、「地方交付税措置」の有効活用等について、わかりやすく紹介されています。

PDFで入手いただけます

ICT機器の目標とされる水準

○ 教育用コンピューター1台あたりの児童生徒 3.6人
①コンピューター教室 40台
②各普通教室 1台・特別教室 6台
③設置場所を限定しない可動式コンピューター 40台
○電子黒板・実物投影機の整備(1学級あたり1台)
○超高速インターネット接続率および無線LAN整備率 100%
○校務用コンピューター 教員一人1台

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