「反転学習」で、何が変わる? ~佐賀県武雄市の「スマイル学習」~

PART 3 次期学習指導要領を見据えて

佐賀県武雄市では、2014年5月から、一人1台のタブレットPCを活用した武雄式反転学習「スマイル学習」を全ての小学校で実施している。授業はどう変わるのか、どのような効果が出るのか。授業の様子をレポートする。

佐賀県武雄市立北方小学校

「スマイル学習(武雄式反転授業)」は、授業の中では、「学び合い・教え合い」などの協働的な学習を中心とした学びを行う。



指導教諭
千綿 和也先生

次世代の学習方法「反転学習」とは?

 自宅でデジタル教材などを使って明日の授業内容を予習しておき、学校では応用的・発展的な授業を行う「反転学習」。今までなら授業で学習していた基礎的な事柄は家庭で予習し、自分の考えを持って授業に臨み、協働学習を行うものであった。今回、編集部が訪れたのは、武雄市立北方小学校4年2組の理科の授業。単元は「すがたをかえる水」だ。

 授業の各場面ごとに「授業開始から+○分」の表示を設けた。その時間経過にも、注目していただきたい。

場面 0自宅で予習

授業開始から-1日

タブレットに予習教材をダウンロードし、自宅で明日の予習

①前時の復習:前時に学んだ、沸騰についてまず復習。
②今日の目当てと課題1の提示:沸騰のようすを動画で視聴。「泡の正体は?」と、課題1を提示し、予想させる。
③授業につながる基礎的事項の学習:「沸騰すると水が減る」事実を提示。本来なら授業で講義していたことだ。「では、なぜ水が減る?」と、課題2を提示し、予想させる。

 授業前日、自分のタブレットに予習教材をダウンロードしておく。昼休みや放課後など、自分の都合が良い時を見つけて、各自でダウンロード(教材にもよるが5分前後)。全員がきちんとダウンロードしたかを、教師は把握できる。

 帰宅後、持ち帰ったタブレットを使って、予習教材を見る。その内容は単元によって異なるが、基本的な要素は、

①前時の復習
②今日の目当てと課題の提示
③授業につながる基礎的事項の学習

 動画やアニメーションが含まれることもあり、今回の予習教材では「水が沸騰するようす」の動画が収録されていた。

 このような予習教材を使って、予習する(所要時間は、5~7分)。だが、これで終わりではない。小テストとアンケートもついているのだ。

○小テスト: 今日の予習内容を理解できたかを問う。2~5問。
○アンケート: 今日の予習教材の感想などを記述する。

 ここまでやって、自宅での予習は終了。合計で10~25分。翌日登校したら、自分のタブレットを操作し、小テストなどをサーバーに送信しておく

場面 1授業開始

小テストやアンケートの結果を見て、予習内容をみんなで確認

アンケートは、予習内容が「よくわかった」などの選択式回答のほか、自由記述式回答もできる。

 授業の冒頭、千綿先生は「予習して、みんなよくわかったかな?」と、小テストやアンケートの結果を電子黒板に映した。子供たちの理解度を授業前に把握できるので、その結果を元に、授業計画や発問を変えることもあるとか。今回は、「沸騰が何かよくわかった」など、肯定的な意見が並んでいた。

 続いて、小テストの正答率をみんなで確認。問1「沸騰すると何が出てきますか」は、全員が「あわ」と正解。しかし、問2「ビーカーの水を沸騰させ続けると、水の量はどうなる?」には、ほぼ全員が「減る」と正解したが、わずかに「増える」と答えた子がいた。

 当てずっぽうで答えて間違えたのかと思いきや、そうではない。千綿先生が「増えると答えた人、理由を教えて?」と尋ねると、「前の単元で、水を温めると体積が増えることがわかったから」との答えが返ってきた。これには千綿先生も「なるほど!よく覚えていたね!」と感心した様子。「でも今回は、『沸騰させ続けた』んだよ。どうなるか実験してみようね」と、フォローしていた。

場面 2協働学習

授業開始から5分後

早くも協働学習! それぞれ考えてきた予想をぶつけ合う

授業中、千綿先生は最初に指示をするだけで、子供たちがそれぞれ役割を持ち、子供たちが主体となって展開していく。。

 「では、予習教材で二つのことについて予想してきましたね。グループで話し合ってください」と、千綿先生は指示する。子供たちは班内で議論を開始した。授業開始から、まだ5分しか経っていないのに、もう協働学習を行うのだ。授業展開の速さに、目を見張る。予想するテーマは次の二つだ。

①泡は何か
②なぜ水が減ったか

 「水蒸気になったから減った」「湯気になって出て行った」など、意見が飛び交う。きちんと予習し、自分の意見を持った状態で授業に臨んでいるからこそ、活発な議論ができるのだ。

 司会役の子供が、議論をさらに活性化させる。挙手させて多数決を取ったり、時計回りに順番に意見を言わせたり、「他に意見のある人はいませんか?」と促したり。協働学習に慣れ、鍛えられているのが見て取れる。

場面 3クラス全体で共有

授業開始から10分後

各班での話し合いを、クラス全体で共有

 各班での話し合いは、3分で終了。今度はクラス全体で議論する。「泡の正体は何でしょう?」と千綿先生が問うと、「水の中の空気だ」「いや、水蒸気だと思う」「水蒸気って何?」「湯気でしょう」「湯気ではないと思う。なぜなら、水蒸気は目に見えません」「じゃあ、湯気っていったい何?」と、迫力のある議論が繰り広げられた。

 授業開始からまだ10分ほどしか経過していない。それなのに、これだけ濃密な議論ができるのは、予習してきたからこそだろう。

場面 4実験準備

授業開始から15分後

実験に入る前に、手順や検証項目、注意点を電子黒板で確認

実験中は、電子黒板に手順や検証項目、注意点を表示し続けていた。実験のねらいがぶれず、安全指導にも効果がある。

 自分の予想が正しいかどうか、実験で確かめるが、その前に、実験の手順や注意事項を電子黒板に映し、千綿先生が解説。何を調べるかも映し、みんなで再確認していた。実験で検証するのは、以下の4点だ。

①ビーカーの中に、沸騰している水の他に何が見えるか
②アルミ箔(はく)の穴の上に何が見えるか
③空の試験官を穴に近づけると、どうなる?
④別の試験官を穴の中に入れると、どうなる?

場面 5実験

授業開始から20分後

実験開始! タブレットで撮影し、〝証拠〟をおさえる

いよいよ実験開始。班内で役割を分担して行う。
実験中は、それぞれ係を割り振ることで、傍観者が生まれず、全員が実験に参加できていた。

○記録係: 実験のようすを観察し、ワークシートにメモ書きをする。記録の取り方も優れていて、「○分、泡が出てきた」など、経過時間と変化を書いていた。

○撮影係: タブレットで実験のようすを撮影(今回は静止画)。

○その他: 準備係や試験管を穴に近づける係。

 実験終了後は、記録係が全員に記録した内容を伝達する。撮影した画像を見ながら、グループ内で発見の共有をしっかり行っていた。

場面 6まとめ

授業開始から40分後

実験結果を発表。クラスで議論し、まとめる

撮影した画像を電子黒板で見せながら子供たちが発表するのだが、その伝え方もレベルが高い。
実験結果を班ごとに報告。

 「(画像を見せながら)これは、火をつけて2分後の写真です。小さな泡ができてきました」

 「次の写真は、ビーカーの穴に試験官を近づけた写真です。試験官に水のようなものがついたのがわかります」 などと、論理的でとてもわかりやすく、画像を見せながら発表できるので、説得力も高い。

 そして最後のまとめ。細かい発問と応答を繰り返し、全員に徹底させた。

先生 「では、まとめます!(写真を見せながら)この泡は何?」
子供 「水蒸気!」
先生 「なぜ水が減った?」
子供 「水蒸気になってビーカーの外へ出て行ったから!」
先生 「では、沸騰している水から出ている泡は、火を止めるとどうなる?」
子供 「消える!」
先生 「どうして?」
子供 「冷えて水に戻ったから!」

スマイル学習を支える「予習教材」と「授業計画」

図1
図版提供:武雄市教育委員会および武雄市立北方小学校

 武雄市では市内のすべての小学校の算数(3年~6年)、理科(4年~6年)、国語(2年~4年)で実施しているスマイル学習を取り入れた授業を見学し、「これはすごい!」と、強く感銘を受けたのが、次の3点だ。

① 授業展開が速い:授業開始してすぐ協働学習を行うなど、展開がスムーズで速い。45分がとても濃密。

② 協働学習が濃密:議論の中身がとても濃く、意見交換も活発。

③ 子供の理解度が高い:基礎・基本をしっかり理解した上で、それを元に自分なりに予想できていた。

 これらの「すごさ」を支える第一のポイントが、「予習教材」だ。担当の先生が教材案を立て、外部企業がデジタル教材として制作したのだが、ブラッシュアップを何度も重ねただけあって、完成度が高い。学習内容がコンパクトにまとまっているし、動画や画像などを用いてわかりやすいのだ。

 「わかりやすく面白いので、ほとんどの子供はきちんと予習してきます。予習しているので、自分の意見や予想を持って授業に臨めるようになりました」

 もし予習してこなかった子供がいても、先生はアップロード状況を見て把握できるので、休み時間などにやらせるという。

 第二のポイントは、「授業計画や指導の見事さ」だ。スマイル学習では、今までなら授業で講義していた内容を家で復習する。当然、授業計画も、今までとは大きく変わる。

「最大の変化は、協働学習の時間をたくさん作れるようになったことです。授業時間に余裕ができたので、発展的な学習やまとめにも時間を多く割けるようになりました」

 これこそが、スマイル学習のねらいでもある(図①参照)。

 では、どのように授業計画を立てるようになったのだろうか。

 千綿先生は「まずは予習教材を見て、授業計画を立てます。特に工夫しているのが、協働学習の進め方ですね」と話す。

 協働学習の時間が増えても、中身の充実が伴わなければ意味がない。そこで北方小では、協働学習の流れや指導ポイントを新たに整理し、まとめあげた。「つかむ」「見通す」「考える(ひとり学習)」「学び合いタイムⅠ(グループ学習)」「学び合いタイムⅡ(クラス全体)」「振り返る」の流れで協働学習を進めると決め、それぞれの過程での指導ポイントも列挙。「北方スタイル」とでも呼ぶべきこの方法に則って、先生方は協働学習を計画し、実施しているのだ。

はたして、スマイル学習の効果は?

 では、このスマイル学習によって、子供たちはどのように変化し、成長しているのだろうか。

 「まず、学習意欲が高まりました。予習教材はわかりやすく面白いので、しっかり自宅で勉強してきます。予習しているから、授業もわかりやすく、参加しやすいのです」と千綿先生はその効果を説く。

 もちろん、理解度も向上している。

「基礎的なことは、予習教材でわかりやすく学べますので、授業中は基礎知識の定着や応用的・発展的な学習に多くの時間を割けます。小テストやアンケートで全員の理解度を見ながら授業を進められる良さもあり、子供たちの理解度は上がっていると思います」

 もう一つ、言語能力も向上していると、千綿先生は言う。

 「協働学習や発表する機会が増えたので、伝える力などの言語能力も磨かれているようです」

 確かに、この日の授業でも子供たちの発言は鋭く、論理的だった。その姿は、とても頼もしかった。

 「今後は、北方スタイルの協働学習をもっと充実させたいですね」

 これからの展開にも、注目していきたい。

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