グローバル社会を拓く高等教育

立命館アジア大平洋大学 副学長
横山 研治

近年、世界は新たな局面を迎え、より多様な文化が共生するグローバル社会においてリーダーシップを発揮できる人材が求められている。国内トップクラスの多文化・多言語環境を誇る立命館アジア太平洋大学(APU)で、開学当初から学生たちの成長と卒業後の活躍を見守り、現在は副学長を務める横山研治先生にお話を伺った。

立命館アジア大平洋大学 副学長 横山 研治 氏

卒業生の "実績" が多くの志願者を呼んだ

真のグローバル大学を目指して

 立命館アジア太平洋大学(以下、APU)は「学生の50%を留学生に」「出身国を50カ国・地域以上に」「教員の50%を外国人に」という構想のもと、2000年に開学しました。ダイバーシティーの環境をもつ真のグローバル大学を目指したのです。

 本学の大きな特色の1つが日英二言語教育です。APUのキャンパスでは日本語と英語の両方を公用語としており、学部講義の約9割は両方の言語で開講しています。専門科目を複数の言語で学ぶことで、国際ビジネスに通用する高度な言語運用能力と専門知識を習得することを目指します。また、言語自主学習センター(SALC)では日本語・英語による正課プログラムの他にアジア太平洋地域の6言語を学習する機会を提供しています。

 世界各国や地域から多様なバックグラウンドをもつ学生の受け入れを可能にするため、柔軟な入学制度を設けていることも特徴です。年2回(春・秋)の開講を行い、入学選考は日本語か英語のいずれかで受けることができます。入学後も学内の配布資料や掲示は日本語と英語で表記され、ガイダンスも両言語で行われます。

 このように、日本では数少ない本格的な国際大学ということで、開学1年目には入学志願者が多く集まりました。しかし、2年目3年目となるにつれて、その数は減ってきました。開学したばかりの大学で実績がないのですから、それは当然のことだったと思います。また、別府というキャンパスの立地がハンディキャップとなっていました。10代20代の若者は、やはりキャンパスの場所を選びます。別府は温泉街・観光地のイメージが強く、また、キャンパスへの交通の便は決して良いとはいえません。

 経済面では、円高の問題も大きく影響しました。開学した2000年以降、一貫して円高が続いていました。海外から見れば授業料が上がることと同じですから、海外の入学志願者は減っていきました。「学生の50%を留学生に」を指標とする本学にとっては厳しい時期でした。

 ところが2005年の後半、ちょうど学生募集の担当部署として入学部が新設され、私が入学部長に就任した頃でしたが、その頃から入学志願者数が右肩上がりとなっていったのです。それは、卒業生たちの口コミによる結果でした。本学を卒業した留学生たちの弟や妹が続々と入学してきたのです。入学したばかりの学生たちが次々と私のところにやって来て、「兄や姉が先生のゼミで学んでいた」「卒業と共に日本の大企業に就職した」という話を聞かせてくれたのをよく覚えています。海外(主にアジア)の方たちにとって、日本で学部を卒業してすぐに日本の大企業に正社員として採用されることは、かなり大きなインパクトだったようです。学校案内のパンフレット等でどんなにアピールをしても、口コミにはかなわないと感じた経験でした。東日本大震災がきっかけで帰国した留学生もおりましたが、ちょうどその頃にアジアの経済発展が加速したことは、アジアからの入学志願者が再び増加した大きな要因となりました。

 時期を同じくして、日本人の入学志願者の傾向も変わってきました。首都圏の志願者が増えてきたのです。志願者の数は、今では首都圏の割合がいちばん高くなっています。

 このような過程を経ながら、本学の留学生の割合はここ7~8年で50%になり、その比率を今日まで維持しています。

海外から日本に来る学生たちの志向

 日本では国際大学をつくるというとリベラルアーツや国際教養という発想になりがちですが、そもそもの傾向として、そのような分野を志向する学生は日本への留学をあまり選びません。海外から来た学生が日本の大学でリベラルアーツの分野を学んで学位をとったとしても、すぐに就職することは難しく、ほとんどがアメリカやオーストラリアの大学院に進学することになるからです。海外からの学生にとって、日本の大学を卒業したあとも日本に定着し就職するためには、マネジメントや工業技術を学ぶことが有利です。

 教育機関を経営する側として、海外の優秀な学生を呼び込むために「学ぶ土地」と「学ぶ内容」の関係は無視できません。世界的に見て、高等専門教育の主流は医学・法律・マネジメント(経営学)の3つです。経営学は日本の大学ではあまり主流とはいえませんが、アジアの優秀層はマネジメント系の学問を選択する傾向があります。

 本学に入学してくる留学生も、その多くが日本で成功しようと考えています。すると、選択肢となりやすいのは、マネジメントや工業技術なんですね。本学には「アジア太平洋学部」と「国際経営学部」の2つの学部がありますが、留学生からの人気は国際経営学部に集まっており、学部内の割合は大体6対4で留学生が多くなっています。

多文化環境を求めて集まる学生たち

 国際経営学部のようなマネジメント系の学部は世界中に同じカリキュラムが存在しており、海外の学生から見ると選択肢が非常に多いものです。その中で、より優秀な学生に来てほしいとの思いから、2016年に国際的な認証であるAACSB(注記参照)を取得しました。世界には1万6000を超えるビジネススクールがあって、そのうち1万以上がアジアにあります。他校と競争する手段として、何かフラッグとなるものが必要でした。AACSBの認証を受けている学校は全体のわずか5%です。認証基準が厳しいので、それを保持するために大学の中でPDCAサイクルが確立されるなど、教育・研究の質の向上にも非常に貢献しています。

 国際的な認証が得られたことで、海外の学生たちからの関心はより一層高まりました。現在、本学では94カ国の学生が学んでいます。多くの国や地域から優秀な学生が集まるようになることは、日本人の学生にとって「ここには本当の多文化環境がある」との認識につながります。彼らは「環境」を求めて入学してきます。真の多文化環境に身を置きたい、その中で学びたいと本気で考えている学生は、自ら積極的にその環境を創り出してくれます。別府という立地は当初、ハンディキャップと考えられていましたが、より高い意欲をもっている学生を集めるための関所ともいえるのです。今ではこの環境が宝だと思っています。
※AACSB(The Association to Advance Collegiate School of Buisiness)とは、マネジメント教育を推進する国際的権威であるビジネススクール認証機関の一つ。1916年アメリカで設立。

学生たちが自ら理想的な多文化環境を創り出す

日本人学生に不足しているもの

キャンパスのシンボルであるツインタワーと噴水
キャンパスのシンボルであるツインタワーと噴水

 多くの留学生が具体的な実務を思い描きながら学ぶ環境の中で、日本人の学生たちもそれぞれのビジョンを描いて学んでいます。国際経営学部の学生の中には、将来、国際的な環境でマネジメントに関わりたいという学生が多いですね。アジア太平洋学部の方は、将来、国連やNGO、NPOで働きたいと考える学生がかなりいます。そのような学生であっても、英語で講義を受けられる語学力を入学時から身に付けていることは稀です。しかしながら、本学では言語自主学習センターで充実したサポートを行っているので、本人の努力次第で確実に語学力を伸ばすことができます。

 一つ例を挙げると、ある日本人学生が、入学前にアメリカの大学に2週間滞在するプログラムで一言も話すことができず、打ちひしがれて帰ってきたことがありました。ところが、それを機に一念発起した彼は、入学時には330点だったTOEFLの点数を1年後には520点、3年生のときには580点と伸ばすほど力をつけていきました。英語を日常的に見聞きする環境にいて、学びたいという意思をもっていれば、語学力は努力した分だけ伸びていきますからね。

 日本人の学生と留学生を見ていると、日本人にはオーラル・コミュニケーション力が不足していることを感じます。ちょうど昨日まで私が担当する英語の集中講義がありました。日本人の学生は3割ほどで、いずれも英語を得意とする学生だったのですが、留学生と比べて、彼らが発言することはほとんどありませんでした。

 レポートや筆記テストの場合には、日本人の学生は文法的に正しい英語で書くことに意識を向ける分、制限時間内で書ける量が少ない傾向にあります。留学生の中には、1時間の中で3枚の答案用紙をびっしり書く学生もいます。細かく見れば英語が間違っていることがあるのですが、量が違うのです。

 また、日英二言語教育を掲げている本学では、一人の教員が日本語と英語の両方で講義をすることを理想としていますが、日本人の教員が英語で講義をすると、留学生から「わかりづらい」と批判を受けるケースが出てきました。でも、TOEICやTOEFLのスコアで比べると教員の方が学生たちより高いことがほとんどなのです。これまで多くの日本人が身につけてきた「語学力」と、実社会で役立つコミュニケーション能力との間にギャップがあることの表れといえるでしょう。

 これからのグローバル社会において、コミュニケーションに必要なのは、形式的な正しさではないと私は思っています。それよりも、たくさん話す、たくさん書く、これが大事。少し前のインターナショナルと言われた時代は、どちらかというと日常的な交流は日本人同士に限られ、プレゼンテーションや交渉など特別な場面で英語が必要になるというものでした。その場合には確かに「正しい英語」が評価されたかもしれません。しかしこれからのグローバル社会は多文化であることが日常となっていきます。その中で様々な相手と会話をし、互いの共通点を探していくことが必要になるのです。そのためには、自分の考えをどんどん述べることが大切です。文法的な正しさを気にするあまり、話が途絶えてしまい、その間に相手が割り込んできて自分の考えを伝えきることができないという場面をよく見かけます。形式的な正しさにとらわれすぎず、伝えたい内容をテンポ良く確実に伝える英語力が必要といえるでしょう。

学内メインストリートは多国籍の学生たちが行き交う
学内メインストリートは多国籍の学生たちが行き交う

多文化環境の中で「世界を変える」人を育てる

「世界を変える」人を育てる

 本学では2030年に目指す将来像として「APUで学んだ人たちが世界を変える」ということを掲げています。ここで言う「世界」の意味するところは、自分の周りの人や環境のことです。周りの人を思いやり、周りの人のために汗を流す。その結果として、リーダーとなり、周りに影響を与えて、周りを変えていく。それができる人を育てたいというのが願いです。

 入学1年目は、日本人学生も全員が寮に入ります。寮のいいところは、生活の全てを共有することです。いいことも悪いことも共有します。この「共有」というのが、他人への情や思いやりにつながっていきます。寮で培われるものは、本学の目指す人材の育成に非常に大きく関わっていると考えています。

 APUには、他に類を見ない多国籍・多文化環境の中で学び、生活する環境があります。学生たちには自らの力で「グローバル・ラーニング・コミュニティ」を構築し、様々な国や地域のバックグラウンドをもった者どうしが日常的にコミュニケーションを図ってくれることを望みます。

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