新時代の学びを見据えて ~新たなスタートとなる学習者用PCの整備~

教育委員会を訪ねて

―岡山県―
笠岡市教育委員会

文部科学省は教育用コンピュータについて「3クラスに1クラス分程度」整備すべきとしているが、2017年度調査では教育用コンピュータ1台当たりの児童生徒数が5.6人と、その整備は十分進んでいるとはいえない。そんな中、3クラスに1クラス分程度の学習者用コンピュータ整備を実現した岡山県笠岡市で、今後の展望について伺った。

岡田教育長
笠岡市教育委員会

笠岡市教育委員会
〒714-0081
岡山県笠岡市笠岡1866-1
TEL 0865-69-2152(学校教育課)

着実に進めてきた教育の情報化

 笠岡市は岡山県南西部に位置し、大小31の島々からなる笠岡諸島を有する港町だ。有人島7島のうち4島に学校があり、陸地部と合わせて17の小学校(うち1校が休校中)、10の中学校(岡山県笠岡市・矢掛町中学校組合立小北中学校を含む)、15の幼稚園(うち4園が休園中)を所轄する。様々な規模の学校が陸地部と各島に点在することから学校教育環境に関する課題は多く、規模の適正化や小中一貫教育等の計画を進めている。

 同市では2011年度から段階的に教育の情報化を行ってきた。実物投影機を2012年度までに全教室に導入。校務支援システムについては2017年度に全校導入を実現し、校務の効率化、教職員の働き方改革を推進してきた。

 そして2019年夏、新たに大々的なICT整備を行った。今回の整備のポイントについて学校教育課課長の髙橋氏は次のように話す。「これまで整備してきたものは教職員が操作する機器がメインでしたが、今回の整備では児童生徒が学習活動の中でICT機器を使うことを重視しています」

 目玉となるのは、学習者用コンピュータとして全小中学校で3クラスに1クラス分程度のChromebookTMを整備したことだ。これだけの台数を一気に揃えることができたのは、廉価なChromebookだからこそといえる。さらに、それらの端末を有効に活用するためのソフトとして、授業支援ソフトや個別学習用のクラウド型ドリル教材、語学4技能学習システム等を包括的に導入した。「授業や校務で先生方がICT機器を使うことはすでに当たり前になっています。これからは次のステップとして、児童生徒が一人1台の端末を使って学習活動をすることが求められます」(髙橋氏)

 夏休み明けの2学期から、全く新しい環境でのICT活用が始まることになる。

ICTはいくつもの相乗効果をもたらすツール

 岡田達也教育長は今回の整備をきっかけとして授業の改善と児童生徒の学力向上に大きな期待を寄せる。「授業ではこれまで取り組んできたことに加えて一人1台の可動式の端末を持つようになることで、写真を撮ったり、インターネットを使った調べ学習をしたり、それを元にして、考える、協働学習をする、プロジェクターで提示して発表するなど、様々な活動が可能になります。大いに活用して、より子供たちが主体となる授業を展開してほしいですね。一方、個別学習の面では、ドリル教材を活用して子供たち一人ひとりの学力の定着度を教師がこまめに確認することができますし、授業外の様々な場面でも、クラウド型デジタル教材の特性を活かして個のレベルに応じた自学自習を行うことができます。反復学習の機会が増えることで学力がより定着することや、蓄積される学習ログの活用にも期待しています」

 また、市内全ての学校の教育力の平準化と向上という面でも、今回の整備が有効であると話す岡田教育長。離島を含めそれぞれの地域に学校が点在する笠岡市では、授業の方法や学習環境などにおいて統一をはかることが難しい実態があるが、ICT整備の面で学校間の格差をなくすことが、その課題をクリアするための1つの手段になると考えている。「学校規模の適正化、小中一貫教育をいよいよ具現化しようというこのタイミングで、全ての学校にそれぞれの学校規模に応じたICT環境を整備できたことは大きな成果です。ICTというのは、活用の仕方によっていくつもの相乗効果をもたらすツールだと感じています。今後は必然的に遠隔教育システムの活用にも取り組んでいかなければなりません。そのための課題はいくつかありますが、まずはこれまで通り一歩ずつ進めていくことが大切です」(岡田教育長)

活用を促すきっかけづくりと意識づけ

 ICT環境を効果的に活用するためには、現場の教員の意識改革やきめ細やかな研修が必須となる。環境が整った現在、それが実際に活用されるように導いていくことが教育委員会の役目といえるだろう。

 岡田教育長は「初めのうちは、現場の先生方が『使ってみよう』と思えるような提案を工夫して、活用のきっかけを作ることが必要です」と話す。「ハードウェアもソフトウェアもこれだけたくさんの新しいものが一度に導入されて、それらの機能をあれもこれもと並列で説明してしまうと、先生方も何から使っていいのか迷うと思います。最初の段階では、ある程度優先順位をつけて『まず、これだけは全員使ってみてください』という形で提案するのが効果的だと考えています。活用に関する提案は、ICT支援員など、先生方の声を身近に聞いている人から発信していくのが理想ですね。それを使うことでどんな授業ができるようになるのか、それによって子供たちにどんな力が身につくのか、ということを具体的に伝えることで、先生方は使ってみたくなると思います。若い先生がたくさんいますので、彼らが起爆剤になってくれることを期待しています」

 また、今回の学習者用コンピュータ整備が「平成30年度以降の学校におけるICT環境の整備方針(文部科学省)」に則ったものであることにも触れ、髙橋氏が次のように付け加える。「学習者用コンピュータの整備方針として、ハードウェアキーボードを必須とすることが適当であるとされています。文部科学省が2013年度に行った情報活用能力調査では小学校5年生のキータイピング入力の平均速度が1分間に5.9文字であることが報告されており、タイピング能力の低さが問題となっています。これまで多くの先生方は子供たちのキーボード入力についてあまり意識してこなかったと思いますが、コンピュータでの文字入力は、学習の基盤となる基本的な操作として新学習指導要領にも明記されています。授業で一人1台使える環境が整った今、キーボード入力をするような学習活動を積極的に授業の中に組み込むよう、先生方に意識してもらわなければなりません」

新時代の学びに向けて

 笠岡市では教職員が主体となって研究・研修を行う教育研修所があり、次年度以降には、研究指定校での積極的なICT活用や、情報教育部会での研究にも期待がかかる。「私たち教育委員会の役目は、教育環境を整え、整備した機器の活用方法や効果を伝えること。最終的に動くのは先生方一人ひとりです。ICTの様々な効果を知って、それを活用して教育をよくしようという意欲がますます高まり、それに伴って教師力や子供たちの学力が向上していくと期待しています。また、教育委員会としてはその過程も大切にしたいと思っています。これから一歩ずつ、どんなふうに子供たちの学びを変えていけるのか、現場の先生方に寄り添って一緒に新しいことに取り組んでいけることが非常に楽しみです」(岡田教育長)

 ハードウェア・ソフトウェアの両面でこれからの時代の学びを支えるにふさわしいICT環境を整え、新たなスタートラインに立ったといえる笠岡市。今後の教育委員会の施策や学校現場での具体的な事例は、他自治体の参考としても注目が集まりそうだ。

教育長
岡田 達也 氏

学校教育課 課長
髙橋 伸明 氏

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