学校と家庭の学びの連続性を確保する

タブレットPCの持ち帰りを促進

―青森県―
八戸市立白山台中学校

学校のICT環境を学校外の学習場面でも活用できるようにすることで、子供たちの学びがより充実したものとなる。学校のタブレットPCを生徒が家庭に持ち帰って学習するための、安全性の確保・指導方法の工夫について取材した。

八戸市立白山台中学校
実証研究の概要
八戸市立白山台中学校

八戸市立白山台中学校
〒039-1113 青森県八戸市西白山台三丁目24番1号
2007(平成19)年に開校した市内で最も新しい市立中学校。2019(平成31)年度学校経営構想の校内研究主題として「ICTの効果的活用と学びを深める実践」を掲げ、グローバルな社会を生きるための「学ぶ力」の育成に取り組む。

ICT活用状況と持ち帰り学習のきっかけ

 八戸市の各中学校には、PC教室以外に学習者用タブレットPCが配備されている。

 白山台中学校では、日常的な運用方法の工夫によって、この40台のタブレットPCを最大限に活用している。教務主任の畠山洋一先生にお話を伺った。「タブレットPCは校務支援システムで利用状況を管理しており、10台単位で利用予約ができるようになっています。授業での活用場面によって必要な台数を各教室に持って行く形です。班に1台という形で協働学習に使うときもありますし、一人1台の形で個別学習に使うときもあります。ただしその場合でも、(タブレットPCを使わない)共通の課題が早く終わってしまった生徒から順に、タブレットPCを持ってきてそれぞれの学習に取り組むという形で使うことが多いので、授業の初めから40台を教室に持ち込むことはほとんどありません」タブレットPCの活用について「必要なときに必要な分だけを教室に持ってきて使う」スタイルが普段から根づいていることは、ICTを有効に活用するために有益な要素といえるだろう。

 学校でのICT活用を家庭学習に広げるきっかけとなったのは、不登校の生徒だったという。学校で生徒が活用しているデジタルドリル教材に生徒が各家庭の端末からアクセスして学習したり、家庭にいる生徒と学級担任がメッセージのやりとりをしたりした。「取り組みを進める中で『学校と家庭の学びの連続性』の大切さについて再認識しました」と畠山先生。「普段、プリントで全員に共通の宿題を出すと、生徒によっては問題が難しすぎて宿題をやれないというケースもありました。生徒一人ひとりの理解度に応じて学校と家庭の学習に連続性をもたせるためには、紙のプリントでは限界があると感じました。デジタルドリル教材であれば、常に幅広い学習内容の中から自分で学習したい内容を選択して繰り返し取り組むことができます。これを学校だけでなく家庭学習に取り入れることはとても効果的だと考えました」

学校外での学習環境を保障する

 今回白山台中学校では、生徒が学校のタブレットPCを持ち帰ってインターネット上のデジタル教材にアクセスし学習するための安全な環境について実証研究を行った。ポイントは、情報漏洩を防ぐためのセキュリティ確保と、指定の学習サイトのみにしか接続できないようにするアクセス制限の設定だ。教員にとって安心で、保護者からの理解が得やすいものとして、ホワイトリスト方式(登録したページ以外にはアクセスできないようにする方式)を採用した(図1)。

 戸来忠雄校長は、「生徒たちにとっても『学ぶ環境』について考えるきっかけになれば」と話す。「これは学校生活全般についての話ですが、本校の重点施策でもある『学ぶ環境づくり』について生徒たちと話し合う機会がありました。『よりよい学びの環境』とはどのようなものかという問いかけに対して、生徒の答えの1つに『誘惑のない環境』というのがありました。人間は時に誘惑に負けてしまうもの。でも、それがわかっているからこそ、今回のようなアクセス環境を制限する必要性を生徒たちも理解していると思います」

図1  株式会社LTE-X・チエル株式会社・ラインズ株式会社による実証研究プロジェクト
図1 株式会社LTE-X・チエル株式会社・ラインズ株式会社による実証研究プロジェクト

冬休みの実施に向けて

 2018年12月、当時3年生の教科担当をしていた畠山先生が冬季休業期間中のタブレットPC持ち帰り学習を生徒たちに提案したところ、やってみたいという声が多くあがった。実施には保護者の理解と同意が不可欠だ。この学年の生徒たちは入学以来、タブレットPCやICTを活用した様々な学習活動に取り組んできており、その効果は他の教員もよくわかっていたため、各学級担任の理解はすぐに得られたという。「学校で使い慣れているものを、使う場所が家庭に変わるだけ、という感覚で進めることができたと思います。もちろん、場所が変わることによって生じる問題がいくつかあるのですが、今回は事前にその問題をクリアできていたのでとてもスムーズでした」と畠山先生。三者面談の際に、各学級担任から保護者宛のプリントを配付した(図2)。プリントには、タブレットPCが学習以外の用途では一切使用できない設定になっていることを明記し、利用に必要な環境や端末の補償について記載した。「利用に同意し希望する場合にはプリントにサインをして生徒に持たせてください」とお願いしたところ、学年約170名のうち約60名の生徒から希望があった。40台のタブレットPCを公平に利用するため、60名を2つのグループに分け、期間を2回に分けて実施することにした。

家庭学習の成果

 2回の期間を合わせた実施期間中の学習サイトへのアクセスは計2万1105回に上り、自宅での学習を中心に積極的に利用されていることが確認できた。今回、1つ目のグループは主に自分の苦手な単元の繰り返し学習に、2つ目のグループは高校入試の過去問題に取り組んだというが、どのような指導の工夫があったのか、畠山先生に伺った。「1つ目のグループは、学習への意欲や取り組み方に課題のある生徒たちだったのですが、一人ひとりに『いま自分が克服したい課題は何か』『冬休みの間にどうしたいのか』を事前に考えさせました。もちろん、生徒によって取り組む教科も異なります。全員共通の宿題とは違い、自分自身が設定した課題に取り組むことができました。2つ目のグループは、進路意識や学習目的が明確な生徒たちでした。このデジタルドリルには47都道府県の高校入試の過去問題が10年分入っているのですが、生徒によって『何年分できるか挑戦する』とか『同じ年度の同じ教科でいろいろな都道府県の過去問題をやってみる』とか、自分で計画をして取り組んだようです。どちらのグループも、自分に合った学習の方法や、自分で計画を立てて学習するということについて考えるよい機会にもなったのではないでしょうか」

図2  保護者に配付したプリント
図2 保護者に配付したプリント

 また、戸来校長が次のように付け加えた。「生徒たちには、自分の特性に合った学び方を自分で見つけられるようになってほしいと思います。普段の授業だけはどうしても個別の対応が十分できない場合があるので、家庭学習の時間を使ってそれを補えるように、学校側でも環境を整えたいと思っています。また、逆に家庭学習だけでは不十分となる部分も出てきますので、それを今度は授業で補う。『学校と家庭の学びの連続性』を確実なものにしていきたいですね」

さらなる学習機会の拡大に向けて

 戸来校長は次のように話す。「学校でのICT活用については、校長が一方的にその効果を発信するよりも、他の先生が使っている授業を見て『自分の授業でも活用したい』と思った先生が使ってみるという流れの方が、一見、拡散のスピードは遅いように見えますが、最終的にはしっかり定着すると思います。ICT活用の効果が実感できたら、活用場面を増やしたい、家庭でも使った方がいいという流れになるのは当然のこと。そこで大切になるのが、学習に集中できる環境や安全性をしっかり保障することです。学校側が絶対に安全だという自信をもっていなければ、保護者にも説明できませんから」今後は各家庭の端末を活用することも視野に入れている。

 学校と家庭の学びを連続させ、それぞれの学習に相乗効果を生むためには、ネットワークや端末などの環境に依存せずいつでもどこでも安心して学習できる基盤が必須となる。今後さらなる学習機会の拡大に向けた実証研究が期待される。

校長
戸来 忠雄 先生

教務主任
畠山 洋一 先生

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