「EdTechが変える教育の未来」

「第38回情報リテラシー連続セミナー@東北大学」レポート

デジタルハリウッド大学大学院
佐藤昌宏 教授

東北大学で行われている「情報リテラシー連続セミナー@東北大学 〜情報リテラシー教育のこれからを考える〜」の第38回、広く注目されるEdTechのキーパーソンであるデジタルハリウッド大学大学院の教授佐藤昌宏先生による講演「EdTechが変える教育の未来」をレポートする。

デジタルハリウッド大学大学院

EdTechとは何か

 EdTechは、「テクノロジーがもたらす教育改革」です。従来の「教育のニーズを捉えてテクノロジーを入れる」という視点だけではなく、「企業向け等で劇的に進化したテクノロジーを教育に援用すると、どのように教育が変わるのか」という視点で考えられているものです。

 EdTechは今、国策になっています。例えば、Society 5.0の実現を目指した「未来投資戦略2018」にも、「初等中等教育段階におけるAI教育の強化」という項目で、EdTechを活用することが有効とされています。これを受け、文部科学省では、新たな時代に対応するためのEdTechを活用した教育改革推進プロジェクトチームを立ち上げたほか、経済産業省においても「未来の教室」とEdTech研究会の提言として、「未来の教室ビジョン」を取りまとめています。さらに、最近ではEdTech議連が立ち上がり、産業界から議連へ政策提言を出すことで、産業界の意見も積極的に取り入れられつつある状況です。

 海外では、一足先にEdTechが積極的に活用されており、経済的、環境的教育格差解消のためのオンラインホームスクーリングの仕組みや、ビッグデータやVR・AR、ブロックチェーンを活用したサービス等が開発・利用されています。

EdTechが進むとどうなるのか

 EdTechの活用が進むと、「学習者中心(ラーナーセントリック)の学び」が可能となると共に、「学びの個別最適化」が進むと考えられます。

 「学習者中心の学び」とは、学びたい内容を本人が決めることで、教育上与えられた内容以外も学ぶことができる学習の仕組みを指します。例えば、現在でもインプットという点では、インターネットの活用によって、教育上与えられたこと以外にも様々なことを学べます。EdTechが進むことで、様々な学びにおいて、学習者が学びたい方法や学ぶ内容を選ぶことができるようになるでしょう。

 次に「学びの個別最適化」とは、学習者それぞれの特性、学習速度や進度などに合わせた学びを提供できるようになることです。今までは指導者の勘に頼っていた学習者の習熟状況を、コンピュータによって定量的に判断することで可能となります。「学びの個別最適化」をEdTechの力を借りて実現する際、必要不可欠なのが、「スタディ・ログ(学習履歴)」です。スタディ・ログとは、医療で用いるカルテのように、個人個人の学習内容を蓄積していくものです。教育再生実行会議第十一次提言の中でもスタディ・ログの重要性が示されており、今後も実証研究と整理を行うこととなっています。

スタディ・ログによる学びの個別最適化に向けた
3つの必須条件

図1 スタディ・ログによる学びの個別最適化に向けた3つの必須条件
図1 スタディ・ログによる学びの個別最適化に向けた3つの必須条件

 スタディ・ログを活用した学びの個別最適化の推進にあたっては、大きく分けて「インフラ化」、「デジタル化」、「ルール化」の3つが必須であると考えています(図1参照)。

 まず1つめの「インフラ化」とは、「デジタルテクノロジーの学校インフラ化」です。学校のインフラとして、常時インターネットに接続でき、様々なデジタルテクノロジーを使える環境を、全ての小中学校に整備する必要があると考えています。具体的には、ストレスのないインターネット環境の整備と共に、クラウド・バイ・デフォルトに基づく安全で利便性の高いパブリック・クラウドの活用促進が挙げられます。また、一人1台のパソコンもしくはタブレット環境の構築も重要です。

 2つめの「デジタル化」については、「学校・学びのデジタル化」が挙げられます。全ての学習と校務情報のデジタル化を実現し、情報を可視化、共有化でき、検証可能で再現性のある状態にする必要があります。デジタル化は、先生の働き方改革に結びつくと共に、スタディ・ログの根幹となります。

 最後の「ルール化」というのは「スタディ・ログ運用のルール化」、つまり公教育という特性とSociety 5.0の方向性を踏まえたルールの構築が必要とされています。具体的には、教育の場で出力された学習履歴という個人情報をどのように守っていくのかという視点と、得られたデータを標準化した形で、いかに保存し運用していくかという視点です。これまでのところ、個人情報保護という観点では、データは学習者個人に帰属し、学習者のメリットのための活用が前提であること、学習者データを第三者(学校も含む)が取り扱う場合には学習者から許可を得た上で取り扱うこと等が必要とされています。また、得られたデータを標準化した形で保存し運用するという観点では、データが安全に保存され、ポータビリティがあるとともに、グローバルスタンダードの形式・運用ルール、もしくは他業種のデータ化と歩調を合わせ、教育特化型に「しない」取り組みが重要であると考えています。

スタディ・ログ蓄積による具体的なメリット

 スタディ・ログを蓄積し可視化することで、様々なメリットが生まれてきます。

 学習者の視点で見ると、自らのスタディ・ログを見直すことで、「リフレクション(自己投影、振り返りによる気づき、深い学び)」の獲得が可能となります。また、学習塾等の学校以外の学びの場に対し、自身の学習ログのアクセス権を付与することで、学校の学びと結びついた無駄のない学び・指導を得ることが可能となります。

 指導者という視点からは、教育・指導方法の改善が促進されると考えられます。各指導者が学習者の許可のもと、スタディ・ログを蓄積、可視化することにより、経験豊富な教員の勘に頼ることのない指導が可能となってきます。

 日本全体で見ると、環境を問わない教育の質の担保が可能となります。日本全国で不登校等の解消が課題となっていますが、スタディ・ログの蓄積、可視化によって、個別最適化された「個別学習計画」が策定可能となるため、将来的に「どこにいても教育の質の担保が可能」になると考えています。

 もう一歩踏み込むと、「受験が必要なくなるのではないか」とも考えています。機械学習によってカンニングの検出技術を開発する力があるのであれば、機械学習を活用して、日々蓄積している大量のスタディ・ログを解析し、被験者の能力を推定する方が役に立つのではないでしょうか。受験を廃止し、定点観測から常時観測へ変えることで、個人個人の能力を正しく把握できるのではないかと私は感じています。実際、東京の千代田区立麹町中学校では近年、定期テストが全廃されました。ただ、テストが無いから生徒は楽かというとそういうことではありません。毎日毎日がテストみたいなものだそうで、定点観測(定期テスト)から常時観測(毎日がテスト)へ切り替えた先駆けの事例といえるでしょう。

高校におけるスタディ・ログの活用

 これまで、小・中学校におけるスタディ・ログの活用をイメージしてお話ししてきましたが、最後は高校のあり方について提言したいと思います。

 高校には全日制高校と定時制高校、通信制高校の3つの形態があります。通信制高校の位置付けは、約70年前に制定されたものであり、全日制・定時制の高校に通学することができない青少年に対して、通信の方法により高校教育を受ける機会を与えるために作られています。この通信制のルールを変え、通信で行う部分にLMSやスタディ・ログ、EdTechを活用した教育を行うことで、自らが学びたいことを積極的に学べる高校をつくり出せないかと思っています。

 このような話をすると、オンライン学習では自己管理が出来ないのではないかといった質問をいただきます。これについては、自己管理ができる人(アクティブ・ラーナー)のみが学びたいことを選択できるように工夫する必要があると考えています。

スタディ・ログが蓄積された未来はどうなるのか

 スタディ・ログが溜まってくると、そのログ自体が個人個人の信用の証明になってくると考えています。中国では、クレジットカードの購入、支払履歴や経歴、運動の記録等によって個人の信用がスコア化されており、スコアが高いと日常生活においても各種優遇が受けられるようになってきています。

 運動・生活・学習習慣と共に、日々の学習結果がその人の信用証明につながってくると、「日々頑張って、真面目に過ごしている人」が報われる世界が実現するともいえるでしょう。

この記事で使われている製品

この記事に関連する記事