学校や教育委員会が「いま、すべきこと」は

新学習指導要領全面実施まであと1年半...

東北大学大学院 情報科学研究科
堀田 龍也教授

2020年4月の新学習指導要領全面実施まで、あと1年半。
全面実施が目前に迫った今、学校現場や教育委員会は、何を検討し、何を行うべきなのか。
環境の変化や社会の動きなどを俯瞰しながら、堀田龍也教授に幅広く語っていただいた。

堀田 龍也 教授

何をどう変えていくか、教育委員会や学校は
長期的な視点を持って判断を

新学習指導要領と解説が小中高すべての校種で出揃った

 いよいよ2020年の4月から、新学習指導要領が小学校で全面実施されます。今年7月には高等学校の新学習指導要領の解説も公表されました。これで小・中・高校のすべての校種で、新学習指導要領と総則・各教科等の解説が出揃いました。新学習指導要領下で具体的に何を、どう教えるかが、国から一通り提示されたことになります。

 つまり、国から教育委員会や学校に 「バトン」が渡ったのです。小学校で新学習指導要領が全面実施されるまで、あと1年半。新学習指導要領で求められる教育をどう実現していくか、そのためには今から何をすべきか、何から着手すればよいか。学校現場の先生方や教育委員会が真剣に考え、行動を開始しなければならない時が、まさに今なのです。

高大接続改革の議論が本格化

 小・中・高校の新学習指導要領と解説を出し終えて、国は高大接続改革の議論を本格化させています。

 新しい「大学入学共通テスト」は2020年度からスタートしますが、高校では2022年度に新学習指導要領の全面実施となりますので、その時の高校1年生の生徒が3年生として大学入試を迎える2024年度からは新学習指導要領に対応した大学入学試験となります。

 現在、どんな大学入試にすべきかについて議論が進められていますが、日本の成長戦略を話し合う「未来投資会議」(議長・安倍晋三内閣総理大臣)では、情報社会で活躍できる人材の育成にもっと力を入れるべきではないかという意見が出ています。たとえば大学入試の試験科目に「情報」を加えるべきではないか、プログラミングを取り入れるべきではないかといった指摘があります。

 これはあくまで未来投資会議での議論ですが、情報活用能力などについても大学入試でしっかり見極める必要があるという気運が高まっているのは事実です。

 高大接続改革は、大学教育・大学入試・高校教育が三位一体となった教育改革ですから、大学入試だけではなく、高校教育も変化していきます。

 高校の新学習指導要領では、情報科の科目が再編され、すべての生徒が履修する「情報Ⅰ」が新設されました。ICTを使ったコミュニケーションやプログラミング、データベースの活用など、情報社会に参画するために必要な基礎的な資質・能力の育成を図るためです。また各教科でも、ICTを活用して自ら情報収集を行い、それらを整理・分析したり、資料をまとめてプレゼンなどで表現したりすることが、新学習指導要領では求められます。高校生になる前の、小・中学校において情報活用能力を段階的に育成し、高めておく必要があります。

 高大接続改革は、小学校や中学校の教育にも大きく関わってくることを先生方も認識してもらいたいですし、「どのような資質・能力を持った大人に成長してほしいのか」という長期的な視点を持って教育に携わってほしいと思います。

働き方改革の背景とICTの効果

働き方改革の背景とICTの効果

 全国各地の先生方から、「不安」の声が多く聞こえてきます。特に、「働き方改革が推進されている一方で、新しく取り組まなくてはならないことが増えてきている。時間が足りない」との懸念が高まっています。

 「働き方改革」は、学校現場が直面している重要課題の一つです。これまで先生方は、教育に対する熱意と信念に基づいて、自身の生活や体調も顧みず、寝る間も惜しんで子供たちと向き合う時間を少しでも多く確保しようと努めてきました。特に教育という仕事は「ここまでやったら一段落」と区切りをつけづらいため、過剰な長時間労働が常態化していました。

 先生方の情熱と献身は、とても尊いことだとは思いますが、こういう働き方はもう限界が来ています。より良い教育のためにも、持続可能な働き方こそが必要です。「好きでやっているんだからいいじゃないか」「熱心に取り組むのは評価すべきことだろう」という言い分は、もう時代遅れです。これは学校現場に限らず企業も同様で、日本全体で働き方改革が進められているのですから、学校だけがその流れに逆らうわけにはいきません。

 今までの教育を見直す時期に来ているのだと認識しましょう。たとえば運動会も、午前中で終了する学校も出てきています。保護者はお弁当作りや場所取りなどの負担を軽減できますし、運動会のプログラムを精査することで、練習にかける時間が減り、通常の授業時間を増やすことができます。学校行事の見直しによる働き方改革も始まっています。

 今までやってきたことを踏襲しなければならないと考えない方がいい。学校はますます過密なスケジュールになっていますし、今後人手が増える見込みもありません。今までの教育を見直し、効率化できるところは積極的に効率化していく。そういう転換期に来ていると思います。

 働き方改革と教育の情報化を同時に進めることを不安視する声がありますが、ICTをうまく使えば働き方改革にも効果があります。その一つが「校務の情報化」です。

 たとえば先生間の連絡や情報共有やスケジュール管理などをグループウェア上で行えば、毎日顔を合わせて会議を行う必要がなくなります。子供たちの出席簿の管理や通知表の作成も、校務支援システムを用いれば、出席簿のデータが自動的に通知表に転記され、手書きやコピペよりも省力化できます。今までよりもずっと楽に、しかも正確に、校務を行えるようになります。

 新学習指導要領の全面実施が始まってから教育の情報化に取り組むのは、非常に困難です。全面実施が始まる前である今こそ、最後のチャンスです。教育の情報化によって働き方改革をしながら、新しい学習指導要領に対応する方法を真剣に考えていかないと、学校はパンクしてしまいます。

自治体は「ICT環境の整備」を
学校は「ICTの活用方法の検討と実施」を

すべての先生がいつでも使えるICT環境を整備

 新学習指導要領では、今までと変わらず、基礎的な知識・技能の習得が重視されています。同時に、身につけた知識・技能を使って問題解決に取り組むような「主体的・対話的で深い学び」に誘い、思考力・判断力・表現力などを養うことも求められています。だからこそ基礎的な知識・技能は、今まで以上に短時間で効率よく、子供たち全員に習得させる必要があります。

 効率的な知識・技能の習得には、ICTが役立ちます。知識・技能の習得は今までの学習指導要領でも重要な柱だったため、それに役立つデジタル教材は多く存在し、活用のノウハウはすでに多く蓄積されています。

 「フラッシュ型教材」もその一つです。チエルのフラッシュ型教材『フラッシュ 基礎・基本』『フラッシュ 英単語/英語表現』を導入した立川市立第二小学校の取り組みは、大変参考になると思います。

 立川市では、2016年秋から市内の全小学校にタブレットPCを導入し始めています。これらを有効に活用するために、第二小では、学校長の判断でフラッシュ型教材を新たに導入しました。

 同校は特別にICT活用を研究しているわけではなく、ICTが苦手な先生もいました。しかしフラッシュ型教材は操作が簡単なので、わざわざ校内研修を開いて使い方を教わらなくても使えたと、多忙な先生からは好評です。

 特筆すべきは、すべての先生がいつでも使える環境を整えたこと。いくら素晴らしい教材でも、一握りの先生しか使わない、あるいは特定の教科でしか使わないのでは、効果は限られます。そこで第二小では、タブレットPCにすべての学年用のフラッシュ型教材(4教科+英語)を導入し、「すべての先生が、いつでもどの教科でも使える」環境を整えました。ここが大きなポイントであり、校長先生の見事な判断だと思います。

 小学校英語の教科化によって、初めて英語を教えることになり不安を抱えていた先生も、ALTがいなくてもフラッシュ型教材でネイティブの音声を使った授業が可能になったことで、授業の工夫や改善に集中できるようになりました。

 タブレットPCは導入したものの、どう使えばいいのかという課題に直面したまま活用する段階に進めていない、ということはないでしょうか。自治体がICT環境を整備したあとを受けて、ICTを有効に活用できる教材やコンテンツを導入し、活用方法を考えて実施していくのは、学校の役割です。

 新学習指導要領が全面実施される前のこの時期に、各学校がどんな目的でICTを使うのかを検討し、実行するために必要な環境を整え、今のうちから実施していきましょう。

ICTは必須のインフラ整備の遅れは致命的

ICTは必須のインフラ整備の遅れは致命的

 ICTなしでは、新学習指導要領下で求められる授業を実施するのは困難です。たとえば英語の授業一つとっても、デジタル教材があれば、英語に自信がない先生でもネイティブの音声を子供たちに聞かせることができ、授業の手助けになります。逆にデジタル教材がなかったら、先生はとても苦労するでしょうし、何よりも英語を聞く・話すといった子供たちの力の育成に支障をきたすことになります。

 先生方が教えやすいように、そして子供たちが学びやすいように、ICT環境を整備するのは、学校の設置者である自治体の仕事です。ICT環境を整備しないまま「新学習指導要領を実施してください」と学校に求めるのは、例えるなら、東京から京都へ行こうとする人に、「昔の人は徒歩で行っていたのだから、新幹線も自動車も使わず、歩いていけ」と命じるぐらいナンセンスです。

 ICTは今や、社会に欠かせないインフラです。我々大人も、仕事や私生活で毎日ICTを使っています。なのに、学校にはICTが無くてもいいというのは、いかがなものでしょうか。

 今、総務省では「防災に資するWiFi環境の整備計画」を進めています。これは、学校や公民館など、災害発生時に避難場所となる公的な施設に、避難者が災害関連情報を入手したり安否確認が行えるように防災用WiFiを整備するというものです。災害時に避難場所となる体育館や教室に、大人数が同時にアクセスできる情報通信環境を整備することが、今求められています。この事例だけ見ても、ICTが今の社会にとってどれだけ重要なインフラであるかは明確です。校舎の耐震化工事や、エアコンの設置など重要な整備が多々あるのと同様に、ICTの整備も重要です。

 ICT環境整備の遅れは、先生たちの労働環境の悪化につながり、非効率的な業務を強いて、働き方改革に逆行します。同時に、子供たちが個に応じて学ぶ機会を奪い、基礎的な知識・技能の効率的な習得を妨げるなど、教育に直接悪影響が出て、新学習指導要領の実施を妨げます。

 先行している自治体は、積極的にICT環境を整備しています。一人1台のタブレットを揃えた自治体では、大学生レベルではないかと目をみはるような高い情報活用能力を小・中学生が発揮するケースもあります。

 新学習指導要領において、情報活用能力は「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられています。情報活用能力が高ければ、教科の学習も効率よく進み、学んだことを活かして問題解決を行うような学習も行えます。逆に言えば、情報活用能力がなければ、そういう学習も行えません。

 ICT環境整備が遅れている自治体にとって、今が遅れを挽回する最後のチャンスです。遅くとも、新学習指導要領が全面実施される2020年度内には、新学習指導要領の実施に必要なICT環境を整えましょう。前号のチエルマガジンでも述べましたが、新学習指導要領の実施に最低限必要なICT環境について、国は整備方針を示しました。そしてこの整備に必要な金額を算出し、地方交付税交付金を増額しています。

 特に整備が遅れている自治体は、一刻の猶予もありません。待ったなしです。そういう意味では、ICT環境の整備が必ずしも進んでいなかった都城市が今、急ピッチで整備を進めている事例は、特にこれから整備を進めようと考えている教育委員会や学校には参考になると思います。

教員養成課程の段階でICT活用を学ぶ必要あり

 今後も学校現場にはICTが急速に導入されるのは間違いありません。そのため、これから先生になろうとする学生は、大学の教員養成課程の段階で、ICTを使って指導する経験を積んでおく必要があります。大学によっては、附属学校で教育実習を行う際に、大型提示装置を使って授業することを義務づけたり、タブレットPCを子供たちに使わせる授業を経験させているところもあります。

 しかし一方で、教員を養成する大学の先生側にICTを使った指導経験が乏しく、学生たちにICT活用を十分に教えられない問題も生じています。教員養成課程で学生を教える方々は、ICT環境下で授業をする機会が無かった元ベテランの先生がもいて、発問などの授業技術や学級経営などにおいては高い指導スキルを持っているのですが、ICT活用に関しては自身の経験が少ないため指導が行き届かない場合があります。これでは大学で学ぶ学生は、ICT活用指導力が抜け落ちたまま、教員になってしまう可能性があります。

教員養成課程の段階でICT活用を学ぶ必要あり

 その点、今回取材した常葉大学教育学部の事例は、今後の教員養成課程のお手本になる好例だと思います。講師を務めるのは、学校現場でさまざまなICT活用を行って成果を出して来た元中堅教師です。ICTを活用した指導経験が豊富なので、講義の内容も学校現場に即した実践的な内容になっています。学生たちが将来教員になった時に必ず使うであろう、1人1台のタブレットPCと授業支援システムを用いた授業を、まずは児童役になって経験させた上で、教師の立場になった場合にどんな指導が必要かを議論させています。

 今の学生たちはデジタルネイティブ世代ですので、すぐにICT機器の操作には慣れます。操作の習得に時間がかからないので、「子供たちのタブレットPCにどんな教材を配布すべきか」「授業支援システムで子供の記述を一覧した後、どの記述を取り上げ、どのように広げるべきか」「そこから授業をどう展開していくか」といった、教材研究や授業づくりの検証に多くの時間を割いています。

 ICTを授業で活用する方法を習得にとどまらず、そこを入り口に、教師としての指導力を高める講義になっています。教員養成課程では、学生に対するこうした教育が今後求められると思います。

グローバルな社会を生きる子供たちのため
今のうちからできることは何か

海外の学校ではどんな教育が行われているか

海外の学校ではどんな教育が行われているか

 新学習指導要領では、小学校高学年で外国語科がスタートしたり、プログラミング教育が始まるなど、新しい教育内容が増えて先生は負担を感じていることと思います。しかし、それは日本だけの現象ではありません。海外の様々な国も新しい教育に積極的に取り組んでいます。

 今号では、アメリカのワシントン州にあるベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)という学校を紹介しています。海外の学校ではどのような教育が行われているのか、ぜひ知ってほしいと思います。

 たとえばプログラミング教育。これからの社会はおそらく情報産業が基幹産業になるでしょうし、情報産業以外の産業でも、今以上にICTを使う機会が増すでしょう。さらに人工知能(AI)の発達で、近い将来多くの仕事が消滅するとも言われています。人工知能でもできる仕事はどんどん人工知能に任せ、その一方で人間は人間にしかできない仕事を担っていく。そういう時代の入り口に、私達は今立っているのです。

 そう考えると、学校でプログラミングを学ぶのは当然の流れでしょう。このBCAでも行っていますし、世界的なトレンドです。日本の先生方は唐突にプログラミング教育が始まったと感じているかもしれませんが、日本はむしろ遅すぎたぐらいで、先進国の中では後発になってしまっています。

 またBCAでも、「フラッシュ型教材」が使われていることに注目してほしいと思います。プログラミング教育や情報活用能力の育成など先進的な教育を行う一方で、日本語での授業を行う土曜学校では、実物投影機で教材を拡大提示したり、フラッシュ型教材で繰り返し練習したりと、日本と同じようなICT活用も行っているのです。

 フラッシュ型教材は日本だけの教材ではなく、世界中で使われています。繰り返し練習して知識・技能を効率よく定着させる手法は、世界各国で行われており、その効果も広く知られています。

 BCAの事例を見てもわかるように、海外の子供たちは、プログラミングをはじめとしたコンピュータ・サイエンスの教育を普段から受けているわけです。そういった海外の子供たちと、日本の子供たちは将来いっしょに仕事をしたり、あるいは競い合うこともあるでしょう。とてもシビアな状況です。

 そう考えると、「忙しいからプログラミング教育ができない」「お金がないからICTを整備できない」というのは、子供たちの未来に対してあまりに無責任ではないでしょうか。

展示会に足を運び最新の教育事情を知ろう

展示会に足を運び最新の教育事情を知ろう

 新学習指導要領で必要なICT機器やソリューションは、すでにさまざまな企業からリリースされています。

 チエルも、フラッシュ型教材や個別学習向けのデジタル教材、授業・学習支援システムなど、新学習指導要領が始まるこれからの時代に必要なソリューションを提供しています。また、先程述べた総務省の「防災等に資するWiFi環境の整備計画」を踏まえ、災害時にも平常時にも安定して快適に使える無線LAN最適化ソリューションや、学校の個人情報などを守るセキュリティ対策関連製品なども提供しています。

 このような「教育の情報化」に貢献する製品やソリューションが一堂に会した展示会「教育ITソリューションEXPO(2018年5月開催)」は、大盛況でした。文部科学省の生涯学習政策局情報教育課・梅村研課長(当時)が講演を行うなど、行政と民間が協力して、次世代のための日本の教育改革を推進している空気を、来場者は肌で感じたと思います。

 同展示会は、11月には大阪でも開催されます。こういった展示会に、現場の先生方も積極的に参加してみましょう。しかるべき役割の先生が、最新の展示会を通じて教育行政や社会の流れをつかみ、それを学校のICT環境整備やICTを活用した授業づくりに活かしてほしいと思います。

自分たちの現在地を知りラストスパートへ

 学校ごとの取り組みを客観的に評価するには、JAET(日本教育工学協会)の「学校情報化診断システム」がおすすめです。このシステムで自分の学校のICT環境整備における立ち位置を把握し、PDCAサイクルで改善を図りながら、新学習指導要領全面実施前のラストスパートをかけてほしいと思います。

 教育の情報化をもっと推進していくべきだという気運は、これから一層高まっていくでしょう。この潮流が止まることはありません。だからぜひ、今のうちからできることは何かを自治体・教育委員会、学校、先生一人ひとりが真剣に考え、積極的に取り組んでいきましょう。

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