学校長は、耳を澄まし、世の中の流れに敏感でありたい

これからの校長のありかたとは

―北海道―
札幌市立屯田小学校

新学習指導要領への対応やより細やかな児童・保護者対応などにより、ますます学校業務が膨大になるなか、札幌市立屯田小学校の新保元康校長は、10年間で4校の学校長として数多くの校務改善に取り組んできた。そんな新保校長に、多忙極める学校経営を通して、校務改善のキーポイントや、これからの校長のあり方などについてお話を伺った。

札幌市立屯田小学校 新保 元康校長

北海道札幌市立屯田小学校
〒002-0857 北海道札幌市北区屯田7条6丁目2番2号
TEL011-771-3151 FAX011-771-1275
http://www.tonden-e.sapporo-c.ed.jp/

1890(明治23)年に開校した歴史ある学校。数多の困難の末に拓かれた屯田地区の伝統を礎に、たくましい心と明るさを持ち、あきらめずコツコツ努力する子供をはぐくもうと、安心で安全な学びの環境を構築している。児童数740名、職員数51名。

校長室を応接室でなく企画室に

職員室内は、パブリックスペースとスタッフオンリーのスペースに分けられている。

 校長室の扉を開けると、真っ白な長机と椅子が目に飛び込んでくる。よく見掛ける重厚なソファやローテーブルは見当たらない。

 「校長室が応接室ではダメなんです。スピード感をもってざっくばらんに意見を出し合う会議ができる場でないと」

 そう言って迎えてくださったのは、2017年4月に札幌市立屯田小学校へと着任して以降、校務改善の先頭に立つ新保元康校長だ。

 屯田小の校長室の壁には、大きなホワイトボードが掲げられている。

 「校長室にホワイトボードは必須です。校長室は学校を動かすエンジン、いわば企画室です。本校の先生たちや、PTA、地域の皆さんにもどんどん入ってきてもらい、その場で出た意見をホワイトボードで共有して整理する。ホワイトボードがあれば、席に着くみんなの視線も自然と上がります。お互いの顔を見て、目を見て話すことができる」

 校務改善の初手は校長室から―それが新保校長の基本姿勢だ。校長室に安価な長机・パイプ椅子・ホワイトボードを導入することでタテマエではなく、現実的な学校改善を目指す方針を明確に示すようにしているのだという。

 「最近メディアでも頻繁に取り上げられるように、教職員は大変忙しい。しかし、どんなに校務を効率化して子供たちと向き合う時間を増やそうとしても、学校はなかなか変わりにくい組織なのです。未経験の方法を不安に思うみんなの気持ちも痛いほどわかります。でも、それでは教職員は忙しいままで、業務は滞り、子供たちと向き合う時間はどんどん少なくなる。子供たちを幸せにするためには、まず教職員が幸せにならないとダメなんです」

「隗より始めよ」の故事に習い、「真っ先に校長室から変えます」と新保校長。校長室でよく見かけるローテーブルとソファを撤去し、長机と椅子を設置した。壁にはホワイトボードが据えられている。

変わらぬ3つの経営方針で教職員の働き方改革を

 「校長になって10年、屯田小で4校目ですが、経営方針はこの10年間、まったく変わっていません」

 新保校長はそう言って、3つの方針を挙げた。
① 信頼される学校に
② 安心して働ける学校に
③ 貢献する学校に

 ①は子供たちの心と学び、②は教職員の働き方、③は地域との関わりについての方針だ。新保校長は10年も前から教職員の「働き方改革」を唱えていた。

 「働きやすい環境を整えるために、校長室の次は職員室を改造します。まず、児童や保護者、来校者が入れるスペースと、教職員だけが入れるスペースを分けます。受付カウンターを作り、床には赤テープを貼って区分けする。個人情報は教職員のみが入れるスペースで扱い、他に持ち出さない。職員室内のレイアウトを変えるだけで、働きやすい環境が生まれます」

 教職員の机はたくさんの重要書類であふれがち。誰かが来るたびに片付けるのも効率が悪い。そこで、個人情報満載の教職員の机と、パブリックなスペースを切り離した。

 「レイアウトを変更するだけですから、費用もほとんど掛かりません。コストは掛けずに効果を生み出す。ここが頭の使いどころです」

屯田小では普段の授業で、ICTが当たり前のように使われている。「ICTの活用を日常化するためには機材を揃えるだけではダメ。使える環境を整えないと」と新保校長。その環境づくりこそが、新保校長の唱える「ICT+α」の「α」の部分だ。

ICT機器類を活かす環境づくり

 新保校長が推進する校務改善のキーワードは「ICT+α」だ。

 「本校は2015年に建て替えられ、ゆとりある空間に木の香りがあふれる、素晴らしく設備の整った学校です。また、札幌市立の他の小学校同様に校務支援システムが導入され、各教室には実物投影機と50インチのテレビが整備されています。しかし私が着任した当時、校務支援システムの使い方は、まだ不十分で、教室のICTも固定されず、使いにくいままでした」

 校務支援システムもICT機器も導入されている。しかし活用されていない―新保校長は早速「+α」の構築に取り掛かった。やることは2つ。「校務支援システムをフル稼働させ、これまでの会議などのあり方を見直すこと」「教室内のICT機器を常設固定すること」だ。

 校務支援システムの回覧板などで情報共有を行い、職員朝会を全廃。これによって担任が教室に入る時間を10分以上早めることができ、担任も児童も余裕を持って朝の時間を過ごせるようになった。また、校務支援システムのスケジュール機能を活用し、板書だけで時間の掛かる行事黒板を廃止した。校務支援システムで共有できることと、日々更新される重要情報とを切り分け、危機管理を徹底した。

 一方で、通常教室の改善にも着手。

 「どの先生でもすぐに使えるような環境をつくること。これが大切です。翌年度に違う学年、教室へと移っても、使い勝手が変わらないようにする。ICT機器を使う際のハードルを限りなく低くすることで、ICT機器が活きます」

 実物投影機は専用台に据え付ける。 「実物投影機本体+パソコン+ノート」を置いても余裕がある70センチ×80センチの台を用意し、常設。テレビとつなぐ配線はきちんと束ねて床や壁に這わせ、教室内の動線をさえぎらないようにする。たったそれだけで、実物投影機やパソコンの利用率はぐんとアップした。配線がすっきりしているからこそ、窓際にさっと寄ってカーテンを開閉し、画面を見やすくできる。

 取材に訪れた日は3学期開始直後で、通常授業が行われていたが、あちこちの教室で当たり前のようにICT機器が活用され、子供たちもそれを当然として受け止めていた。ICTをベースとした「+α」の知恵で校務を改善し、効率化して情報の共有を円滑にして、安全・安心を生み出す。新保校長の手腕には舌を巻くばかりだ。

学校全体のルールが明示された「よくわかる! 屯田小学校」と題された一覧表。「生活」「学習」「その他」をそれぞれ6つの項目に分け、計18項目について細かく明文化している。年度始めにカラー印刷されたものが児童全員に配られるほか、屯田小のWEBサイトでも見られるようになっている。これだけのルールをあらかじめ設定しているからこそ、教職員と保護者の意識の共有ができ、保護者からの問い合わせも減って、それが校務の効率化にもつながっている。

言いづらいことを言いやりたくないことをやる

 どうしたら新保校長のような発想が生まれてくるのだろうか。「+α」の知恵はどこから湧いてくるのか。

 「いつも、いろいろなことを考えているんですよ。どこかに不便なことはないか、誰か悩んでいることはないか。そうした困りごとについて、どのようにして解決したらいいかと日々考えています」

 どんなことでも劇的に変わることはない。少しの改善を重ね、継続することで目標が近づいてくるのだと新保校長は確信する。

 「そうした困りごとに気づくためには『耳を澄ます』ことが大切だと考えています。子供の声、保護者の声、地域の声、教職員の声をよく聞く。そして、世の中の流れにも敏感でいる必要があります」

 敏感でいるための具体的な方策を問うと、新保校長は1冊の本を長机の上に置いた。

 「自分は、鈍感で、不器用な人間だといつも思っています。だから努力するしかないのです。それで、教育関係だけでなく、幅広く本を読むようにこころがけています。教職員に負けず、校長も忙しい。それでも本を手に取る。読まずに『積ん読』になっている本もたくさんありますが、それでも意味があると慰めています」

 新保校長が見せてくれた本は、ページの隅がたくさん折られている。いわゆるドッグイアだ。

 「読みながら感心したページの隅を折っていくと、いつの間にかこんな状態になっているんです(笑)」

 耳を澄ませ、本を読み、世の中の流れに寄り添い、鋭い感性を磨いて校内外のことに気づき、改善策を考える。

 「言いづらいことを言い、やりたくないことを率先してやるのは、校長の役目です。『時間と予算はより小さく成果はより大きく』を旨として、子供たち、保護者、先生たちみんなが安心できる学校運営の道を模索していきます」

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