小規模校の統廃合問題にICTを活用

長野県喬木村の取り組み

長野県下伊那郡喬木村は、文部科学省『人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業』の採択を契機に、遠隔会議システム、電子黒板、タブレットPC等を整備し、教育の情報化を推進している。村内2校の小学校の統廃合問題の解消をきっかけにして始まった、小・中学校でのICTを活用した教育の取り組みを紹介する。

ICTと過疎問題

 文部科学省が進めるプロジェクトに、ICTを活用して過疎地の小規模校の課題を解決する、という取り組みがある。『人口減少社会におけるICTの活用による教育の質の維持向上に係る実証事業』では、2015年度から2017年度までの3年間をかけて、遠隔合同授業による学校間の授業、地域コミュニティとのつながりを強化する取り組みを全国で展開した。

 長野県下伊那郡喬木村は、この実証事業に参加する自治体の一つだ。村には、中心部に喬木中学校、喬木第一小学校、そして車で10分ほど山間部に入ったところに喬木第二小学校がある。児童数は第一小学校がおよそ300名、第二小学校が50名ほど。第二小学校は、文科省ガイドラインに基づけば統廃合の検討対象であったが、「学校は地域の活力」との地域住民の切実な声を受け、村は統廃合によらない小規模校の課題解決の方策を探っていた。

まずは、ICT環境整備から

 実証事業に選ばれた喬木村は、まずは2つの小学校のICT環境整備に着手した。PC教室を、「アクティブラーニングルーム」に改装し、遠隔会議システム、電子黒板、タブレットPCを整備し、遠隔合同授業を行う特別教室とした。遠隔合同授業の実践を機に、小中合わせた普通教室へのICT環境整備を開始した。中学校では、小学校2校に先立って、生徒1人一台のタブレットPCを整備し、子供主体の授業改善に取り組んできた。この取り組みが評価され、喬木村は、全国ICT教育首長協議会の『2018 日本ICT教育アワード文部科学大臣賞』を受賞している(17参照)。

 喬木村の小中学校では、全普通教室の無線LAN環境、電子黒板、1人一台の教員用タブレットPCが完備されている。児童生徒用タブレットPCは、中学校220台(1人一台)、第一小学校140台、第二小学校40台が整備されており、授業支援ソフトは『スタディネット』『スタディノート』『スクールタクト』などが主に活用されている。その他にも、指導者デジタル教科書や、先生の自作教材など、幅広い活用がされている。

 今回は、中学校の国語科と小学校の外国語活動の授業の様子を取材。中学校では、タブレットPCと電子黒板を利用した授業を、小学校では、喬木村の取り組みである小規模校と適正規模校の遠隔合同授業の現場をレポートする。小学校の取材は第二小学校側で行った。

中学校では、通常授業でICTを活用

 中学1年生の漢文の授業が行われる教室を訪ねた。基本的な流れは、漢詩『絶句』(杜甫)と『黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る』(李白)を読み、その内容についてグループで議論しながら、生徒一人ひとりが思い浮かべた詩の情景と心情をタブレットPCのツールを使ってイラストにする。作成したイラストは共有フォルダに集められ、班ごとに分かれて、各自がそのイラストについてプレゼンテーションをする。その後、班の代表一人を決めて全体発表した。

タブレットPCで全員参加の授業

 『絶句』は、前回の授業でイラスト作成は済んでおり、この日の授業では提出されたイラストを使った振り返りから始まった。イラストは、情景のポイントとなる木々、川、建物の線画に、人物の心情については、絵文字アイコンのような表情、あるいは「悲しい」などと言葉で表現しているものもあった。

 次に『黄鶴楼にて孟浩然の広陵に之くを送る』は、先生が電子黒板も使いながら、全員での音読、言葉や地名、李白と孟浩然の関係などを紹介。その後、生徒に4枚ずつ情景・心情をイラストで表現させた。

 従来の授業であれば、ここで挙手させて生徒に考えを述べさせるが、タブレットPCでイラストを描かせることで、全員に考える機会、友人と議論する機会を与えることができる。教室の前に出て発表する生徒は限られるが、タブレットPCのイラストは、全員が提出フォルダにアップロードし、見合うことができる。

 イラストや発表で出た発言は、板書を使って文字、文章としても生徒に書かせたり意識させたりしていた。なかには、教材から写真画像を取り込み、イラストに張り付けたり、4コマ漫画風にストーリーを仕立てて情景や心情を表現したりする生徒もいた。

2つの小学校で遠隔合同授業

 小学校では6年生の外国語(英語)活動の授業を訪ねた。 授業のメイン進行は第一小学校の先生が行った。どちらの教室にもICT支援員がつき、機器操作やカメラ操作のサポートを行う。授業は両校とも、大型モニターや遠隔会議用のカメラ・マイクなどが常設されたアクティブラーニングルームで行われた。

  喬木村では、中学校1校、小学校2校を1人のALTが掛け持ちしている。中学の英語の授業のサポートをメインとしていて、それぞれの小学校に来られるのは週に1日程度だ。今回は第一小学校からALTが参加した。外国語活動を遠隔合同授業で行うことで、ALTのいる授業を受ける回数が増え、生の外国語にふれる機会を増やすことができる。これは、小規模校の課題解決に限らず、遠隔地の教育資源を活用するという遠隔合同授業の良さの一つである。

 この日は、フラッシュカードを使って冬に関連する英単語を学んだ。スキー、つらら、雪合戦などのイラストと英単語が書かれたフラッシュカードをかるたに見立てて、先生が発音したカードを取るゲームが行われた。

2校の児童が対話しながら授業

 次に、英語によるスリーヒントクイズが行われた。問題の出し方の例文を参考に、自分たちが考えた答えに関連するキーワードやセンテンスをヒントとして3つ考える。それを同じクラスの児童同士で、そして遠隔教室の相手同士でクイズを出し合う。このとき、教室の大モニターではなく、ウェブカメラと外部スピーカー、マイクのついたタブレットPCをテレビ会議端末として利用する。

 児童たちは戸惑うことなく、また操作につまずくことなく、画面の向こうの児童とクイズを出し合ってコミュニケーションを楽しんだ。3年間のICT授業、遠隔合同授業の中で、このような授業スタイルが定着していることをうかがわせた。

ICTの導入でどのような効果がもたらされたか?

各学校長や研究主任、喬木村教育委員会のみなさんに、遠隔合同授業や喬木村の取り組みとその効果について、語り合っていただいた。
(文中敬称略)

喬木第一小学校
校長 北村 洋志先生
喬木第二小学校
校長 中村 博見先生
喬木第二小学校
教諭(研究主任) 北澤 博美先生
喬木中学校
校長 川手 浩司先生
喬木村教育委員会
事務局長 林田 諭氏
喬木村教育委員会
佐藤 博俊氏

小・中学校でのICT導入は
先生・児童生徒ともに順調

北澤  タブレットPCは主に考えを共有し学び合う場面や、単元のまとめとしてプレゼンテーションをする際に活用します。また第二小学校では『スタディネット』を活用したオリジナルのドリル「たかぎドリル」を開発するという取り組みも行っています。たとえば、答えが複数になる算数の文章問題や、戦争をなくすにはどうしたらいいか、といった社会的な問題を、自分の考えを文章や絵図に書き表して友達と説明しあい、考えを深めていくというような活動をしています。
中村 一般的な「ドリル」のイメージとは異なっていると思いますが、ドリルの時間に同じ流れで行うので「たかぎドリル」と呼んでいます。実際には思考力・判断力・表現力を養うことが目的の時間です。

北村 第一小学校は現在、すべての教室に電子黒板を設置し、学年ごとにタブレットPCが1セット用意されています。無線LAN環境が後から段階的に整備されていったこともあり、まずは電子黒板から使っていきました。うまく使えるか不安はありましたが、ふたを開けてみれば、一番使っている先生が最年長の先生だったなど、先生方も便利に使っています。
―中学校も同様でしょうか。

川手 はい。やはり最初は不安がありましたが、ネットワーク環境の整備やICT支援員のサポートなどもあり、すぐに定着したと思います。逆に、他の中学に転勤になった先生からは、電子黒板やタブレットPCがなくてつらい、という声も聞くくらいです。また、生徒の意欲や意識の違いも感じています。本校では、生徒のタブレットPCの画面を電子黒板に一覧表示して見合うという活用が一般化しています。そうすることで、全員参加の授業の環境がつくりやすくなります。他の人が答えるからいいや、ではなく、自分で授業を聞いて、書いて、タブレットを操作して、発表する授業だからこそだと思います。

中1ギャップ解消への期待

―教育委員会では、小・中学校の喬木村の取り組みをどう見ていますか。

林田 実証事業が3年目なので、現在は主に各校の効果、成果を評価しているところです。また、中1ギャップの解消にどのような影響があるかも注目しています。2校とはいえ、2つの小学校の生徒が1つの中学校に集まるわけで、やはり地域的な違いや、生徒個人の問題はあります。ICT活用による教育と遠隔による2校の合同授業が、中学入学後の学習や、子供同士のコミュニケーションにどう影響したかを検証したいと思っています。

佐藤 まだ報告書をまとめている段階ですが、学力については、国語と算数で向上が見られます。遠隔合同授業では児童の伝える力、読み取る力が鍛えられているのではないかと思っています。今の6年生は、3年間の実証事業でICT授業と遠隔合同授業を経験してきていますので、彼らが中学になる4月からは中1ギャップへの影響や効果を分析できるはずです。

―遠隔合同授業の話が出ましたが、実証事業には小規模校の統廃合を回避できるかという目的もありました。遠隔合同授業による教育的な効果はいかがですか。

中村 小規模校である第二小学校は、第一小学校との遠隔合同授業で学校間の交流が変わったと感じています。小さい村ですが、やはり山間部と中心部では微妙な文化の違いもあります。遠隔合同授業で他校の児童の顔や声に接することができているので、中学に行ってもそれは大きく影響するのではないでしょうか。この取り組みを他の地域の学校とも拡げていけるといいですね。

北澤 第二小学校としては、遠隔合同授業をぜひ継続したいと思います。今後もICT支援員のサポートを受けながら、教員の負担の軽減策にも取り組んでいきたいですね。たとえば、現在は設備のある教室に移動しなければなりませんが、各教室で遠隔合同授業ができるようなシステムの構築も視野に入れています。

北村 今回の実証事業について、効果を深く追求して長く続けていきたいと考えています。そのためには、おそらく授業もさらに変えていかなければなりませんし、実証事業終了後もプラスアルファの取り組みもしていきたいと思います。先程、第二小学校から他校との遠隔合同授業という話が出ましたが、第一小学校では、すでに海外の小学校との遠隔合同授業も始めています。

先生方の振り返りと気づき

川手 中学校では、先生方も自分の授業にICTを導入することで、やらなければならないことへの気づきがありました。現在考えているのは、反転授業と家庭学習の強化にICTを活用することです。持ち帰り学習などもやってみたいと思っています。

北村 先生方の気づきという点は、小学校でも感じています。今まで、自校の教室では成立していた教え方が、遠隔になると勝手が違うわけです。伝える力、話す力を振り返ることになり、教員の指導力の向上にもつながっていると思います。遠隔合同授業を始める前は、小規模校にはメリットはあるけれど、適正規模校からすると負担が増えるだけではないのか、と思うこともありました。しかし、導入してみると、児童のアンケートでも、「小規模校の多様な意見に触れられた」という反応があり、学校の規模にかかわらず得られるものが多いと感じています。

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