先生の疑問や不安を取り除きながら、ICT環境の整備を進めていく

教育委員会を訪ねて

―青森県八戸市教育委員会―

今号から始まった連載企画「教育委員会を訪ねて」の第1回。青森県八戸市教育委員会で取り組んでいるICT環境整備と活用の普及・啓発について、八戸市教育委員会・総合教育センターの主任指導主事・石井一二三先生にお話を伺った。

八戸市教育委員会
〒031-0803 青森県八戸市諏訪1-2-41
TEL 0178-46-0521(代)
http://www.hachinohe.ed.jp/hens/

国のICT環境整備基準を参考に整備を進める

八戸市教育委員会・総合教育センター
主任指導主事
石井 一二三先生

 青森県八戸市教育委員会では、「夢はぐくむ ふれあいの教育 八戸」を教育の基本理念として、2003年に『八戸市教育プラン』を策定し、生きる力を身につけた子供の育成と、郷土を愛し、自立の精神と国際感覚に富む人材の育成をめざし、10年間にわたってさまざまな教育施策を展開してきた。2012年にはその計画期間を終え、現在は、2013年度に策定された5年間の『八戸市教育振興基本計画』の最終年度を迎えている。

 同計画では、5つの方向性と9つの目標が設定された。そのうち、教育の情報化に関する施策は、「子どもの確かな学力・豊かな心・健やかな体を育成」することを示した「方向性I」の目標2として掲げられた「義務教育の充実」のなかで、「情報教育の推進」の施策を八戸市総合教育センターが担当し、「教育の情報化推進事業」を重点取り組みと位置付けている。

 このような施策に基づき、八戸市では教育予算の多くをICT機器等の整備に充当しており、同市教育委員会では、学校におけるICT環境整備を進め、積極的な活用を促進しているのが現状だ。

 現在、八戸市内の小中学校では、国が示すICT環境整備基準を参考に、実物投影機、プロジェクター、電子黒板、タブレットPCなどのICT機器の導入が進んでいる。同市教育委員会としては、新学習指導要領が完全実施される2020年度までに整備をさらに充実させることを目標としているという。

 こうしたICT環境を整備するとともに、同センターではICT機器の活用を促進するため、機器導入時の研修会をはじめ、教員向け研修講座の開催や、校内研修へのサポート、計画訪問時の指導助言を行うなど、バックアップ体制も万全に整えている。

ICT機器の活用を促進するために

 市内の小学校でICTを活用した授業実践経験も豊富な石井一二三先生は、昨年度より同市総合教育センターに着任した。現在は、主任指導主事として、教育の情報化推進、情報セキュリティなどのICTに関連するさまざまな事業を担当している。その仕事内容は広範囲にわたるが、大きく分けると、次の5つとなる。

各校の校内研修へのサポート

研修講座の開催

計画訪問と指導助言

個別相談のサポート

予算の確保

 それぞれの内容やねらい、ICT活用を広めるために心掛けていることについて紹介する。

ICT機器導入の状況

ICT機器 昨年度までの実績 今年度
実物投影機 190台 108台
(小学校各2台・中学校各1台)
プロジェクター 130台 39台
(小学校各1台)
電子黒板 5台
(小学校3台・中学校2校各1台)
22台
(中学校各1台)

● 学習用タブレットは、段階的に各校へ導入。小学校20台、中学校10台(先進校40台)を整備し、今後も追加導入の予定。

● 機器とともに、学習・授業支援ソフトを導入

● 機器導入と同時に修繕費の確保と保守契約の締結

①各校の校内研修へのサポート 広く浅く、要望に応じて...

「各校の校内研修へのサポート」では、市内小中学校の校内研修に参加し、ICT活用など、教育の情報化について説明やアドバイスを行っている。

 校内研修サポートのコンセプトは、「広く浅く、全員が理解できるように」だ。「校内研修は、その学校のすべての先生が参加します。なかにはICTに詳しくない先生もいらっしゃいます。そのため、広く浅く伝えることでみなさんに興味をもってもらい、全員に納得してもらった上で、自分の授業に生かせることを学んでもらいたいと思っています」と石井先生は話す。

 特徴的なのは、学校からの要望に応じて、校内研修の内容を変更する点だ。最近は、昨年度から本格的に導入されているタブレットPCに関するリクエストが多いという。「タブレットPCを使った授業を実践して見せてほしい」といった依頼もあり、石井先生が自らタブレットPCを活用した授業を行うこともある(上記コラム〈校内研修サポート〉参照)。そして、授業後には、授業のねらいやポイントを解説しながらICT活用のコツを説明する。

「ICTの活用は、子供たちの学習意欲を高めながら、知識の定着を図るために効果的に活用することが大切ですとお伝えしています」

 同時に、フラッシュ型教材の活用も勧める。フラッシュ型教材は、授業の導入や最後のまとめの時間において、繰り返し練習するのに適しており、これによって基礎的・基本的な知識が定着し、子供たちの意欲や集中力も高まる。「ICTにあまり詳しくない先生でも簡単に使うことができ、短時間で手軽に実践できますので、ぜひ挑戦してほしいですね」と石井先生は語る。

 そして、ICT活用の心構えについて、「タブレットPCが導入されたからといって、授業計画をすべて変える必要はありません。今まで紙で行っていた活動や指導の一部をICTに置き換え、紙や黒板と併用しましょう」と助言した。

②研修講座の開催 「ICT活用研修講座」で活用の基礎・基本を伝える

 総合教育センターでの研修講座として「ICT活用研修講座」を開くのも、石井先生の役割だ。講座では、実物投影機やタブレットPCなどの効果的な活用方法について解説しているが、この研修講座のコンセプトは「授業に活かせる、ICT活用の基礎・基本の伝達」だ。特にタブレットPCは導入が始まって間もないこともあり、初歩的なことから解説している。昨年度に実施した「主にタブレットPCの授業に活かせるICT活用の基礎・基本」の内容は、次の通りだ。

①タブレットPCの操作方法ガイド

 電源の入れ方、ケーブルを挿す場所など、写真つきで丁寧に解説。

②フラッシュ型教材活用のススメ

 小学校向けのタブレットPCには、チエルの『小学校のフラッシュ基礎・基本』『小学校のフラッシュくりかえし漢字ドリル/くりかえし計算ドリル』が搭載されている。その内容を紹介し、授業での活用を呼びかけた。

研修講座では、実物投影機やタブレットPCの初歩的な活用方法などを、わかりやすく、丁寧に教えている。

③タブレットPC活用のコツを解説

 タブレットPCが向いている学習場面や、使用する機能の紹介。

 この研修講座で石井先生が心がけたことは、タブレットPC初心者である先生の不安や疑問を取り除くことだ。

 「タブレットPCの活用の仕方がわからずに戸惑う先生は多いようです。そこで、タブレットPC活用の一歩として、フラッシュ型教材をお勧めしました。フラッシュ型教材はすでにタブレットPCに入っていますからすぐに使えますし、ICTにあまり詳しくない先生でも簡単に操作することができます」

③研修講座の開催 / ④個別相談のサポート 授業計画や活用方法を個別に提案

 各学校への計画訪問も行っている。八戸市では19名の主任指導主事・指導主事で手分けして市内すべての小・中学校67校を担当し、石井先生は現在、25校を受け持っている。担当校で授業を参観した後、教育センター内で他の主任指導主事等と情報交換し、ICT活用の現状や課題、先生方の疑問や悩みなどを把握している。そうして計画訪問で得た先生の悩みや疑問を、「校内研修サポート」や「研修講座」の内容にも反映させている。

 また、先生からの相談やリクエストに応える「個別サポート」も行う。

 「『校内研修へのサポート』や『研修講座』は、ICT初心者でもわかっていただけるように、基礎的・基本的な使い方をわかりやすくお伝えしていますが、もっと先に進んでいる先生にとっては、初歩的過ぎて物足りないこともあります。そこで個別サポートでは、先生一人ひとりのレベルやニーズに応じたアドバイスを行っています」と石井先生は話す。

 その内容も、小学校から中学校まですべての教科や単元ごとの、ICT活用方法の紹介や授業計画の提案をするものだ。石井先生は以前は小学校教諭だったが、中学校の先生方にも授業計画やICT活用方法をアドバイスすることができるのはなぜだろうか。

 「校種や教科、単元が変わっても、ICT活用の基本形は同じだからです。たとえば、授業の序盤で前時の復習をしたり、授業の最後に今日の学びを再確認したりする時は、『フラッシュ型教材』が効果的です。授業の中盤で思考する活動を行う際には、タブレットPCにデジタル教材を配付して、画面に書き込ませながら考えさせます」と石井先生は説明する。

 この「基本形」を踏まえつつ、先生たちがどのような学習到達目標を達成したいのかを把握した上で、その目標の実現につながる授業計画やICT活用方法を提案しているのだ。

予算獲得のための3つのポイント

 「ICT活用を普及するには、ICT環境の整備が欠かせません。現在八戸市では、市内67校の小・中学校のすべての普通教室に、実物投影機とプロジェクターを常設することをめざしています」と石井先生は述べる。

 新学習指導要領の実施に不可欠なICT環境を、新学習指導要領が完全実施される平成32年度までに整備するのが目標だ。

 ICTの整備には大きな予算が必要となる。市役所の財政担当者にICTを整備する必要性を説明し、予算を割いてもらえるよう理解を求めるのも、石井先生の仕事だ。

 市役所の担当者に説明する際には、3つのポイントを心がけているという。

 1つ目のポイントは、「国がICT環境整備を求めている」とアピールすることだ。市の財政担当者は、教育の専門家ではない。教育予算だけでなく、土木予算や社会保障予算なども担当している。専門外の方にICT環境整備の必要性を理解してもらうには、新学習指導要領の実施にはICTが必須であり、特に実物投影機と大型提示装置をすべての教室に常設することを国が求めていると伝えるのが効果的であり、説得力があるそうだ。「そういう意味では、新学習指導要領はとても心強い味方ですね」と笑みを浮かべる。

 2つ目のポイントは、「ICT活用の事例を見せる」ことだ。ICTがあれば、このような教育を実践できるという事例を見せることで、ICT環境整備の必要性を十分に理解してもらうことができる。

 3つ目のポイントは、「数値データを提示する」ことだ。数値データとともに現状や課題を説明することで、説得力が増す。

 「大事なのは、『八戸市の子供たちの未来のためにICTを整備し、活用する』というストーリーを描くことです。そのストーリーを市役所の方々、先生方、ICTを提供していただく企業の方々と共有することで、その実現のための協力体制が作られます」と石井先生は説明した。

授業力や指導力向上につなげたい

 「ICTの導入には、『周知』してから『活用』を広めるというステップが重要だ」と考える石井先生。たとえばタブレットPCについては、昨年度までは基本的な操作方法や機能の紹介に努めることで先生たちに周知を図り、その上で今年度からは、徐々に活用方法の紹介を始めた。

 「時間はかかりますが、着実に一歩ずつ、懇切丁寧に伝えて、広めて、定着させたいと考えています」

 その成果は、確実に上がっている。小学校では、すべての教科において実物投影機とプロジェクターの活用が完全に定着した。その結果、先生たちのICT活用指導力も着実に向上してきたそうだ。

 「ICTは使ってみると効果を実感でき、活用のイメージも湧いてきます。自分なりの活用方法を考えて、それを授業で実践してみることで、さらに活用のアイデアが湧いてきて、それが周りの先生方にも波及するという好循環が生まれます。主任指導主事として、この好循環をより活性化していきたい」と、展望を述べる石井先生。自身が研修やサポートを行うことで、先生方がICTを活用するようになり、疑問や課題が生じたら、その都度解決のお手伝いをする。これを繰り返すことで、先生方のICT活用指導力を高めていきたいのだと言う。

 石井先生はICT活用指導力だけでなく、授業力や指導力も高めたいと考える。「ICTは道具に過ぎません。いくらいい道具があっても、授業計画や発問や指示が悪ければ、その効果は得られません。活用する先生方の授業力や指導力があってこそ、ICTという道具は効果を発揮するのです。ICT活用をきっかけに、自分の授業を見つめ直し、授業計画や指導方法を改善し、授業力や指導力を高めてほしいと願っています」と期待を述べた。

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