教育学部の教員養成。これからの教育学部に求められる教育とは?

2020年に向けた教員の養成

―東京都―
東京学芸大学

東京学芸大学教育学部の准教授であり、文部科学省「教職課程の目標設定に関するワーキンググループ」の委員でもある高橋純先生に、今後の教育学部のあり方や学生たちが抱える課題、質の高い授業づくりについて伺った。

「教育職員免許法」改正と「教職課程コアカリキュラム」の検討

東京学芸大学教育学部 総合教育科学系
教育学講座 学校教育学分野
高橋 純准教授

 「新学習指導要領に向けた教員養成を語るには、『教育職員免許法』改正や『教職課程コアカリキュラム』について押さえておく必要があります。なかでも注目すべきは、『ICT活用』の変化です」と、高橋純先生は説明を始めた。現在の教職課程において、ICT活用教育についての表記はわずかで、「教職課程及び指導法に関する科目」の中の「教育の方法及び技術(情報機器及び教材の活用を含む)」が中心となっている。しかし、改正後は「教科及び教科の指導法に関する科目」の中の「各教科の指導法(情報機器及び教材の活用を含む)」においても、ICTを活用した指導法を学ぶことが新たに盛り込まれた。

 同時に、それに対応して「教職課程コアカリキュラム」の検討も進められている。これは、今後の学校教育を担う教員の資質能力の向上を図るために、すべての大学の教職課程で最低限修得すべき資質能力を示したカリキュラムである。教職課程を持つすべての大学は、この「教職課程コアカリキュラム」に合わせたシラバスを作成し、再度、教職課程認定を受けることになっている。

 そして、「教職課程コアカリキュラム」では、「各教科の指導法」における「当該教科の指導方法と授業設計」の項目で、「当該教科の特性に応じた情報機器及び教材の効果的な活用法を理解し、授業設計に活用することができる」と示されている。

 「つまり、『教育職員免許法』改正と、『教職課程コアカリキュラム』の検討、この2つの改革によって、大学の教職課程において、ICTを活用した指導法を学ぶことがより強化され、各教科でICTを活用した授業を設計し、効果的に指導できるようになることが求められるのです」と、高橋先生は話す。

「模擬授業を毎週行い、授業を見る目を鍛えた

 「しかし、これは容易なことではありません。そもそも学生たちの『よい授業』とは、これまで自分が受けてきた授業の影響が強いと言えます。また、ICTを活用した授業を受けたことがない学生は、具体的なイメージを持つことも困難です」

 高橋先生は、今年度から「教育実験観察法」(学校教育選修コース2年生対象)という講義を受け持った。授業観察や授業評価の方法などを学ぶことを目的とする講義だ。そして、4月に授業観察の講義を受けた学生たちから、子供の頃に受けた授業と比較しての感想や、「〜であるべき」というような、教育評論家であるかのような意見が多く聞こえてきたことに驚いたと言う。髙橋先生は、学生たちが授業者としての視点で、授業を観察できていないと痛感した。

 「発問」や「指示」といった基本用語の定義や理論的なことはよく知っていても、具体的なこととなると、うまくできなかった。

 「これは『教えた経験がない』のが原因だと気づきました。自分が授業をしたことがないのに、いくら指導技術や授業づくりのコツを教えても頭に入りませんし、授業を観察する眼も鍛えられません。そこで、学生たちに模擬授業をたくさん経験させて、それをお互いに観察したり、評価したりすることにしました」

 そこで、学生たち4、5名のグループで実施した模擬授業の様子をスマートフォンで動画撮影し、校内ネットワークの掲示板にアップロードして、掲示板上で感想を述べ合うという課題を毎週与えた。特に細かい指示は出さず、最初はただ教科書の特定のページを指定して、「授業の導入部分を5分程度で模擬授業すること」とだけ伝えた。

 髙橋先生によれば、学生たちは最初はうまくできずに悩んでいたという。しかし、模擬授業を経験することで、他の人の授業を見て批評するのと、自分で授業を実践するのとでは大きな違いがあるということを実感した。

 そこで、高橋先生は学生たちに、「指導技術や授業づくりの参考となる本を読む」という課題も与えた。毎週一人1冊の読む本を決め、感想を掲示板で述べ合うようにした。その結果、模擬授業で失敗を経験した学生たちは、「どうすれば良い授業になるのか?」と考えるようになり、積極的に知識を吸収するようになったという。

 その後も高橋先生は、少しずつ講義内容のレベルを上げていった。模擬授業の感想を述べ合う掲示板に、教育委員会の指導主事や校長先生にも参加してもらい、現役の先生から批評やアドバイスをもらうようにした。単元を指定し、授業づくりのポイントも説明した上で、学生たちに模擬授業に臨ませるようにした。「体験することと、理論を学ぶことの両方を同時進行させ、少しずつレベルアップしていくのが効果的」だと考えているためだ。

 最終的に、受講者すべてが5、6回の模擬授業を行い、毎回コメントや感想を交換することができた。電車に乗りながら他者の模擬授業を閲覧した学生もいる。これもスマホや掲示板を活用したからであり、学習にICTを活用する効果を学生自身が体感することになった。

ICT活用に懐疑的な学生たちの意識を変える

 高橋先生は、学生が授業でのICT活用にあまり肯定的ではないという点にも触れた。

 「ICTが得意ではない学生がほとんどで、『授業にICTは必要ない』と述べる学生も多いのです。しかし先に述べたように、これからは授業でICTを活用し、効率的・効果的な指導を行うことが求められる時代です」

 また、学習指導の道具としてICTを活用するだけでなく、ICTそのものの使い方を教えることも必要になっていることから、「プログラミング教育」を体験させた。学生たちは、ビジュアル・プログラミング・ツールである『Scratch』を使用して、正方形や正六角形を描くプログラミングに取り組んだ。

 最初は不安を感じていた学生たちも、すぐに『Scratch』での作業に慣れ、互いに教え合いながらプログラムを完成させた。講義後、学生たちに感想を聞くと、「プログラミング教育には懐疑的だったが、論理的思考力を身につける方法として最適だと実感した」、「どの教科のどの単元で教えるのが良いかを、今後考えていきたい」と、明らかな変化が見られた。

初めて『Scratch』に触れた学生たちだったが、プログラムの組み方を教わるとすぐにコツをつかみ、学生同士で教え合いながら、「『正方形・正六角形を描く』というプログラムを作る」という課題をクリアしていた。

新学習指導要領が求める教育の「質」の向上を実現するには

 最後に、新学習指導要領に向けて、教員歴の浅い先生や学生をいかに育てていくべきかについて、高橋先生はこう答える。

 「新学習指導要領では、教育の『質』をさらに向上することが求められています。『深い学び』もその一例です。しかし、教員歴の浅い先生や学生にとって、教育の『質』が高いかどうかを見極めるのは難しいことなのです。それを理解できるようになるには経験が必要です。多くの授業を実践して、他の人の授業を多く見てこそ、授業の『質』を観察する眼が鍛えられ、『質』が高い授業をつくるための方法もわかってきます」

 だからこそ、教員歴の浅い先生や学生には、できるだけ多くの経験を積ませたいと、高橋先生は考える。

 「経験を積むのと並行して理論も学び、新学習指導要領が求める教育の『質』とは何かを理解し、その上で、高い『質』を意識した授業づくりに取り組む。そうすれば、新学習指導要領が求める『質』の高い教育を、早く実践できるようになると思います」

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