新学習指導要領の移行期間に「先行実施」して経験を積もう

2020年に向けたICT環境整備

東北大学大学院 情報科学研究科
堀田 龍也教授

2017年3月、新学習指導要領が告示された。2020年4月からの全面実施を控えて、学校や教育委員会、自治体は、いま何をすべきなのか。「ICTの環境整備なくして、新学習指導要領の実施は不可能」と考える、東北大学大学院情報科学研究科の堀田龍也教授に、自身が座長を務めた「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」によって示された、ICT環境整備の新たな方針について語っていただいた。

ICTの環境整備なくして新学習指導要領の実施は不可能

「主体的・対話的で深い学び」には、ICTの環境整備が必須

 2020年4月より全面実施される小・中学校の新学習指導要領では、「主体的・対話的で深い学び」などの学び方を通して、「(生きて働く)知識・技能」「(未知の状況にも対応できる)思考力・判断力・表現力等」「(学びを人生や社会に生かそうとする)学びに向かう力・人間性等」を育むことが求められます。学習の基盤となる資質・能力として、言語能力や情報活用能力を教科横断的に習得する必要もあります。

 「主体的・対話的で深い学び」を行うには、まず知識・技能が定着していることが大前提となります。小・中学校は義務教育ですし、先生が知識・技能をしっかりと教える一斉授業が無くなることはありません。そもそも知識・技能がなければ、それを用いた「主体的・対話的で深い学び」を行うことはできません。私の感覚では、全授業時間のうち、知識・技能を教えて定着させるのが8割、「主体的・対話的で深い学び」を行うのが2割という印象です。

 この知識・技能の定着に、ICTは不可欠です。デジタル教科書やデジタルドリル、フラッシュ型教材などを使ってわかりやすく教え、繰り返し練習し、効率よく定着させて、「主体的・対話的で深い学び」の時間を捻出する必要があります。

 もちろん「主体的・対話的で深い学び」を行う際にも、ICTは必要です。「主体的・対話的で深い学び」では、子供たちが情報の収集、判断、表現、処理、創造、発信、伝達などの学習活動を行いますが、ICTがあればより質の高い効果的な学習活動になるからです。たとえば学習者用タブレットPCがあれば、インターネットから情報を集め、プレゼンテーションソフト等で考えをまとめて伝わりやすく表現し、それを見せ合ったり、大型提示装置で映して共有したりしながら議論することができます。

 このような学習活動を行うには、情報活用能力も欠かせません。たとえばタブレットPC等で文字を入力するスピードが遅いと、文字を打つだけで授業時間の大半を費やし、議論したり、発表したりする時間がなくなります。インターネットから情報を探し、コンピュータ上で整理し、まとめて表現する力も必要です。このような情報活用能力を育成するには、当然ながら、ICT環境が必須となります。

ICT環境を整備するのは「自治体」

 このICT環境を整備するのは、地方自治体です。国ができるのは、整備すべきICT環境の指針を示すことや、地方財政措置で地方交付税交付金を配分することです。2014~2017年度には、文部科学省の『教育のIT化に向けた環境整備4か年計画』に基づき、4年間総額で6712億円もの地方財政措置が講じられました。

 しかし、いまだにICT環境の整備が遅れている自治体も多く、自治体間格差は広がっています。新学習指導要領では、いよいよタブレットPCなどのICTを子供が使って学習する時代に突入します。それにもかかわらず、実物投影機や大型提示装置といった、先生が使うICTの整備さえ進んでいない自治体がまだ多いのは、ゆゆしき事態です。これでは時代に取り残されます。

 ICT環境を整備せず、新学習指導要領が求める教育を実施できない事態が起きたら、それは自治体の責任です。ICT環境の不足が子供たちから学習の機会を奪い、資質・能力の育成を妨げてしまうことを、自覚していただきたいと思います。

"最低限必要な"ICT環境の方針を示した有識者会議

 自治体にICT環境整備をより一層促すために、文部科学省は「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」を立ち上げ、2017年8月に「最終まとめ」を発表しました。この有識者会議では、学校現場に必要なICT環境を、もう一度根本から見直しました。

 これまで国は、さまざまなICTの整備を求めてきましたが、普及率が着実に伸びたICTもあれば、伸び悩むICTもありました。普及率が伸び悩むのはなぜか。いまだに普及率が低いICTは、もしかしたら学校現場がそれほど必要としていないのではないか。あると便利だとは感じていても、他の予算を削ってまで導入するほどではないと判断しているのではないか。そのような根本的なところから、話し合いました。

 なかには、多機能・高性能のICTを追求するあまり、高額になりすぎて整備の妨げになっているのではないかとの意見も出ました。ICTは、「数」を揃えなければなりません。たとえば大型提示装置なら、学校に数台あるだけでは使うたびに移動させる手間がかかり、ICTを日常的に活用できません。すべての教室分の「数」を揃えて、常設する必要があります。しかし、高性能を求めた結果、数を揃えるのが困難になっているのではないかと考えたのです。

 そこで有識者会議では、あらためてどのようなICTの、どのような機能が必要不可欠なのかを検討し、"最低限"整備すべきICT環境の方針を示しました。キーワードは、「シンプル・イズ・ベスト」です。

 たとえば大型提示装置は、電子黒板でなくても、大型テレビやプロジェクタでもよいと方針を転換しました。電子黒板は1台数十万かかりますが、大型テレビやプロジェクタであれば、それよりずっと安価で抑えられ、台数をそろえやすくなると考えたのです。

 タブレットPCも、最低限の機能を持った廉価なタブレットPCでよいとしました。これなら一人1台に近い台数を揃えやすくなります。最終的には一人1台揃えることが望ましいのですが、まずは3クラスに1クラス分程度の台数を揃えるとの方針を示しました。また、タブレットPCが廉価になるため、"予備用"の機材も揃えることも提言しました。もし授業中にタブレットPCが故障したり不具合が生じたりしても、すばやく予備用の機材と交換すれば授業を止めずにすむという考え方によるものです。

 これらは「必要最低限のICT環境」です。この環境を満たした自治体や学校が、これ以上の環境を整備することは構いません。「最低限必要なICT環境に向けて、是が非でも各自治体は整備してほしい」「この最低限の環境さえも整備できなければ、新学習指導要領は実施できません」という強いメッセージが込められているのです。

 今後はこの方針に沿って、この環境を整備するのに必要な予算を積算し、財務省と折衝するなどして、地方財政措置を検討していくことになります。

「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」が示したICT環境整備方針① これからの学習活動を支えるICT機器等と設置の考え方と機能

ICT機器等 設置の考え方等 機能の考え方等
大型提示装置
  • 普通教室(特別支援学級関係室等を含む。)及び特別教室への常設(小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校(以下、「全学校種」という。))
    ※ 学級担任制及び教科担任制のいずれの場合であっても、大型提示装置を、授業の都度教室に運ぶことは、その効果な活用を妨げる可能性が高いため、普通教室(特別支援学級関係室等を含む。)及び特別教室に常設しておくことが必要。 ※ また、教員による提示に限らず、学習者用コンピュータでの学習成果等を学級内で情報共有する際にも大型提示装置が必要。
  • 学習者用コンピュータ又は指導者用コンピュータと有線又は無線で接続させることを前提として、大きく映す提示機能を有するものを標準的な考え方とする。
    ※ 大型提示装置については、例えば、以下のような機能がある。 ①提示機能:コンピュータや実物投影装置と接続して教科書や教材等を大きく提示。プロジェクタによる投影、大型テレビによる表示などがある。 ②インタラクティブ機能:提示機能に加え、画面を直接触っての操作、書き込み、保存等が可能。「電子黒板」は、「インタラクティブ機能」を有している。 ※ 各地方公共団体においては、「大きく映す」という①の提示機能は必須とした上で、実際の学習活動を想定し、どのような機能が適当かを検討しつつ、効果的かつ効率的な整備を行う観点から、配備を進めることが適当。
  • 画面サイズは、教室の明るさや教室の最後方からの視認性を考慮したサイズとする必要がある。
実物投影装置
  • 普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室への実物投影機の常設(小学校及び特別支援学校)
    ※ 中学校、義務教育学校(後期課程)、高等学校及び中等教育学校においても、実物投影機を活用した学習活動は効果的と考えられるが、まずは、小学校及び特別支援学校における常設を優先することとする。
  • 大型提示装置と接続して提示するためのカメラ機能を有するものを標準的な考え方とする。
学習者用
コンピュータ
  • 授業展開に応じて必要な時に「1人1台環境」を可能とする環境の実現(全学校種)
    ※全学校種において、各教科等の授業において、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見出して解決策を考えたり、思いや考えを基に創造したりするための情報の収集、判断、表現、処理、創造、発信、伝達といった学習活動を、学習者用コンピュータを活用して不自由なく実現できる環境(「1人1台環境」)を保障する。
    最終的には「1人1台専用」が望ましいが、当面、全国的な学習者用コンピュータの配備状況等も踏まえ、各クラスで1日1授業分程度を目安とした学習者用コンピュータの活用が保障されるよう、3クラスに1クラス分程度の学習者用コンピュータの配置を想定することが適当である。
  • 故障・不具合に備えた複数の予備用学習者用コンピュータの配備(全学校種)
  • ワープロソフトや表計算ソフト、プレゼンテーションソフトその他の教科横断的に活用できる学習用ソフトウェアが安定して動作する機能を有すること。
  • 授業運営に支障がないように短時間で起動する機能を有すること。
  • 安定した高速接続が可能な無線LANが利用できる機能を有すること。
  • コンテンツの見やすさ、文字の判別のしやすさを踏まえた画面サイズを有すること。
  • キーボード「機能」を有することが必要。
    ※小学校中学年以上では、キーボードを必須とすることが適当
  • 観察等の際に写真撮影ができるよう「カメラ機能」があることが望ましい。
指導者用
コンピュータ
  • 授業における教員による教材の提示等を行うために、普通教室(特別支援学級関係室等を含む。)及び特別教室で活用することを想定(授業を担任する教員それぞれに1台分)
  • 指導者用デジタル教科書等を活用する場合には、安定して動作することに配慮することが必要。
  • 「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。
  • その他の機能に関する基本的な考え方は、学習者用コンピュータ(児童生徒用)に準じること。
充電保管庫
  • 学習者用コンピュータの充電・保管のために活用することを想定(全学校種)
    ※教員及び児童生徒が教育活動で必要な時に取り出しやすい場所に保管することが望ましい。(例えば、学習者用コンピュータの整備数に応じ、各学年・各フロアに設置)
  • 電源容量に配慮すること。
ネットワーク
無線LAN
普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室 有線LAN
特別教室(コンピュータ教室)
  • 普通教室(特別支援学級関係室等を含む)及び特別教室における無線LAN環境の整備(全学校種)
  • 特別教室(コンピュータ教室)における、有線LAN環境の整備(全学校種)
  • 外部ネットワーク等への接続のための通信回線は、大容量のデータのダウンロードや集中アクセスにおいても通信速度またはネットワークの通信量が確保されることが必要。
  • 校内LAN(有線及び無線)は、学級で児童生徒全員が1人1台の学習者用コンピュータを使い調べ学習等のインターネット検索をしても安定的に稼働する環境を確保することが必要。
  • 「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。
学習用ツール
  • ワープロソフトや表計算ソフト,プレゼンテーションソフトなどをはじめとする各教科等の学習活動に共通で必要なソフトウェア(いわゆる「学習用ツール」)の整備(全学校種)
  • 学習者用コンピュータにおいて,支障なく稼働すること。
学習用サーバ
  • 各学校1台分のサーバの設置(全学校種)
  • 授業運営に支障がないよう,安全で安定的な品質の通信を確保できること
  • 「教育情報セキュリティ対策推進チーム」の検討を踏まえたセキュリティ対策を講じていること。

※「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめ」(平成29年8月)を元に、編集部が抜粋

「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」が示したICT環境整備方針② 校務等を支えるICT機器等と設置の考え方

ICT機器等 設置の考え方等
校務用コンピュータ
  • 教員1人1台環境の整備(全学校種)
ネットワーク
有線LAN
職員室(校長室及び事務室を含む)、保健室等
  • 成績処理等の校務を行う職員室(校長室及び事務室を含む)及び保健室等への有線LAN環境の整備(全学校種)
    ※一部の学校においては、職員室等においても無線LANの環境を整備しているところもある。
校務用サーバ
  • 学校の設置者(教育委員会)1台分の整備
    ※文部科学省「教育情報セキュリティ対策推進チーム」における検討を踏まえ、設置の考え方等を整理することが必要。
ソフトウェア
  • 統合型校務支援システム(全学校種)
  • セキュリティソフト(全学校種)

※ 「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議 最終まとめ」(平成29年8月)より

〝最低限必要な〟ICT環境

各教育委員会の取り組みと特徴

 新学習指導要領で求められる教育を実現していくために、私たちはICT環境整備や教員養成などに、どのように取り組んでいくべきでしょうか。実はみなさんの参考になる事例は、すでに全国で数多くあります。今号の『チエルマガジン』では、そのような事例を取材しています。

 まず、ICT環境の整備とICTを活用した授業実践に、わが国でもいち早く取り組んだ自治体が、東京都荒川区です。荒川区は他の自治体に先駆けて子供たちにタブレットPCを持たせたことで注目を集めましたが、それ以前からICTの整備と活用に積極的に取り組んでいます。すべての教室に電子黒板を導入して、すべての教室に指導者用デジタル教科書を整備し、さらに全校に学校司書を配置して学校図書館の充実を図り、事典や書籍、インターネットなどさまざまな情報源を活用して学ぶことができる環境を整え、実践しているのです。

 荒川区のタブレットPCは早くも更新の時期を迎えています。そのため現在は、タブレットPCを使ってどのような実践を行ってきたか、次のタブレットPCにはどのような機能や条件が求められるのかなどの検証作業を進めているところです。

 また、東京都杉並区は、何十年も前からICTを使用した授業に取り組んできた自治体です。杉並区は、研究校や代表的な実践者の実践を地域で広めていく仕組みを作ってきました。ICT環境の導入とICT活用の普及・啓発を段階的に計画的に進め、成果を挙げている好例と言えるでしょう。

 荒川区と杉並区に共通するのは、教育委員会が積極的にICT環境の整備と活用に取り組んでいる点です。他に先駆けて取り組むことで、評価される機会が増えます。すると区民は「教育に力を入れている自治体だ」と行政を信頼し、支持するようになります。区民の信頼と支持なくして、先進的な教育に取り組むことなどできません。

 青森県八戸市は、荒川区や杉並区のような先進的な自治体ではありませんが、八戸市の特長は、石井一二三先生のように教育現場で長く活躍し、力量が評価された先生を教育委員会の主任指導主事に抜擢することで、教員の実態やニーズに合わせた環境整備や教員研修を実現している点です。現場の先生が今、何を知りたがっているのか、何に困っているのかを正確に把握し、その課題を解決することのできる教員研修を行っています。そして現場の先生方の声に耳を傾け、ICTの利用状況に目を配り、現場の先生が必要としていて、授業で使いやすく、教育効果の得られるICTの整備を、行政に働きかけて着実に進めています。

 ICT環境の整備や活用がどの程度進んでいるのかを客観的に判断する指針となるのが、JAET(日本教育工学協会)の「学校情報化認定」です。自治体間格差が深刻な広がりを見せているなかで、この「学校情報化認定」は、自分たちの現在地を確認し、今後の計画を進める上での参考になると思います。

教育学部・教職大学大学院の教員養成と学校での校内研修

 小・中学校では新学習指導要領で求められる教育を、先生方がまだ十分に理解できずに不安がふくらんでいるのが実状ではないでしょうか。

 そこで今、先生方や教員志望の学生たちには、新学習指導要領に関する正確な情報を理解してもらい、新学習指導要領が求める教育を体験してもらうことが求められています。たとえば、なぜプログラミング教育が取り入れられたのか、どのような教科・単元での実施が想定されているのかを知り、ワークショップや模擬授業を通して、どのような授業を実践すればよいのかを体験することができれば、先生方も納得し、不安も解消するでしょう。

 東京学芸大学教育学部の高橋純准教授の講義は、その好例です。今号で紹介している講義では、教員志望の学生たちに、プログラミング教育をなぜ実施するのか、その背景やねらいを理解させるとともに、実際にプログラミングの授業を体験させています。学生は、自分が子供の頃に受けた授業体験に縛られる傾向があります。しかし現在の学生は、子供の頃にICTを活用した授業を受けた経験が乏しいため、ICTを使った授業に否定的になりがちです。そこで学生の段階で、ICTを使った授業を経験させ、なぜICTが必要なのかという理論を理解させると、自分が個人的な体験に縛られて視野が狭まっていたことに気づきます。教育学部の教員養成の段階でこのような経験をさせることには大きな意味があります。高橋准教授のような講義が、これから全国各地でも盛んに行われていくことになるでしょう。

 教職大学院では、さらに実践的なことを学びますが、ここで大切なのは、学びのサイクルです。ICTを活用した指導方法や「主体的・対話的で深い学び」について学習し、実践・観察をした授業や指導の成果と課題をしっかり省察し、それを次の実践に活かす学びのサイクルを作る。そして、それを実践するだけではなく、同時に理論も学ぶ。「理論と実践の往還」というモデルです。長崎大学教職大学院の事例では、このモデルを見ることができます。

 教職大学院では、学部卒の学生や若い先生が、ベテランの先生とともに学びますが、これは有意義なことです。ベテランの先生は、実践的な指導技術をいくつも持っているのです。ノート指導の方法から、下駄箱の靴を整理させる方法まで、大いに参考になる指導技術を数多く持っています。長崎大学大学院でも、学部卒の学生が、現職のベテラン教員から実践的な指導技術を積極的に学べるようにと、グループ活動の際にベテラン教員と同じ班になるような工夫をし、授業力や指導力を伸ばしています。

 学校の校内研修でベテランの先生から若手の先生が教わっている好例が岡山県赤磐市立山陽東小学校です。山陽東小学校では、毎週1時間の校内研修を開催するほか、放課後のちょっとした時間に短時間研修を実施するなどして、若手の先生が日常的に学べる機会を設けています。若手の先生が課題や悩みに直面したら、すぐベテランの指導教論に相談できて、解決に役立つ実践的な方法を学ぶことができる体制が築かれているのです。これはまさに、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だと言えるでしょう。その結果、山陽東小では、若手の先生の指導力もどんどん伸びています。校内研修体制の好例として、ぜひ参考にしてほしいと思います。

先進校や自治体の例に学ぼう

ICTが苦手な先生ほど、早く始めよう

 NPO法人全国初等教育研究会(JEES)の無藤隆・白梅学園大学大学院特任教授の基調講演でも、学習指導要領が改訂されるのに合わせ、学校や先生も変わっていかねばならないというお話がありました。

 しかし、ICTに苦手意識や不安感を持っている先生が多いことも事実です。そうした先生方に、いかにICTを活用してもらうかが、今後の課題ですが、神奈川県相模原市はICT活用が得意ではない先生をうまく誘っている好例だと言えるでしょう。

 ICTを使わない先生は、「できない」ではなく「やったことがない」だけなのです。能力が不足しているのではなく、経験が不足しているだけなのです。そこで、相模原市のように、ICTの基本的な使い方を研修し、日常的に活用できるICT環境を整え、授業で使う機会を与えることができれば、指導力のある先生ならすぐICTを効果的に使うことができるようになります。ICTが苦手だなと思っている人ほど、むしろICTを使ってみて、その効果をいち早く体感していただきたいものです。

移行期間に先行実施し、試行錯誤して経験を積もう

 さて、来年度から小学校は2年間、中学校は3年間にわたって新学習指導要領の「移行期間」が始まります。「移行期間」はすべての学校の足並みがそろうのを待つ期間ではありません。文部科学省は、新学習指導要領に沿った授業に取り組むことができる自治体や学校は、この移行期間を利用して積極的に新学習指導要領を「先行実施」することを推奨しています。可能であれば、新学習指導要領を一足先に全面実施してもよいとも呼びかけています。

 なぜでしょうか。それは、新学習指導要領が求める新しい教育を展開していくことができるようになるには、時間と経験の積み重ねが必要だからです。

 たとえば「主体的・対話的で深い学び」をすでに実践している先生であればわかると思いますが、最初はうまくいかないこともあります。子供も先生も、試行錯誤しながら経験を積み、コツをつかんで、改善してこそ、「主体的・対話的で深い学び」を実践できるようになります。

 移行期間は、試行錯誤が許される期間です。早くから挑戦を始めれば、たとえうまくいかなくても、修正し、改善する時間的な余裕があります。そのような意味でも、「先行実施」を早く始めて試行錯誤し、先生も子供も新学習指導要領で求められる教育の経験を積んでおきましょう。

 デジタル教科書やデジタルドリル、フラッシュ型教材等のデジタル教材を上手に使って、知識・技能を効率的に定着させることも重要です。そして「主体的・対話的で深い学び」を取り入れた単元計画・授業計画を立て、実践し、その結果を分析しましょう。子供たちに与えた課題は、単元のねらいとつながる適切なものだったか。子供たちに使わせたICTは、期待した効果を発揮したか。子供たちはうまくICTを使うことができたか。グループ内で活発に議論することができていたか。学級内でうまく意見を共有することができたか。既得の知識をつなげて活用し、深い学びになっていたか。その教科ならではの「見方・考え方」を獲得できたか。さまざまな視点から授業を振り返り、改善策を考え、次の単元計画・授業計画に活かし、試行錯誤していきましょう。

 また、情報活用能力の育成にも、挑戦しておきたいものです。情報活用能力においても、「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の3つの柱で再整理されています。「知識・技能」では、たとえば、タブレットPC等での文字入力を行える技能や、インターネットから引用する時のマナーや著作権等の知識が挙げられます。「思考力・判断力・表現力」では、インターネットや書籍、新聞、インタビューなど、それぞれの特性を理解した上で多様な情報源から情報を集め、複数の情報を結びつけて新たな意味を見出し、わかりやすく表現する力が求められます。「学びに向かう力・人間性等」では、体験活動も含め、社会や世界との関わりの中で、学んだことの意義を実感できるような学習活動を充実させていくことが重要となります。多様性を尊重し、互いの良さを生かして協働する力、リーダーシップやチームワーク、優しさや思いやりなど、人間性等を養います。

 先進的な自治体は、すでに新学習指導要領に取り組んでいます。「主体的・対話的で深い学び」や、情報活用能力の育成を実施しています。このような新学習指導要領で求められる教育を実現するには、ICT環境整備は不可欠です。そこで、教育委員会には一刻も早く、ICT環境の整備を進めてほしいと切に望みます。「全面実施は2020年なのだから、それまでに整備すればいいのだろう」という考えは誤りです。先生方が試行錯誤する時間を奪ってしまうことになります。2020年になって突然、「さあ、全面実施が始まりましたから、良い実践をしてください」と言われても、経験したことがない先生方にとっては無理な話です。

 そう考えると、残された時間はありません。今すぐ取りかかりましょう!

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