大府市の成功に学ぶICTの環境整備と活用

約2200台ものタブレットPCを一斉整備!

―愛知県大府市教育委員会―

2015年度から、すべての市立小・中学校で一斉にICTの大規模な環境整備を行い、授業での活用を進めている愛知県大府市。ICTの導入により、子供たちの学習意欲が向上するという成果が生まれている。どのように整備を進め、先生方の活用を促していったのだろうか。同市の宮島年夫教育長をはじめ、教育委員会の方々に、座談会形式で語っていただいた。

学校教育課 庶務施設係
大山 容加係長

学校教育課
土井 浩久指導主事

大府市教育委員会
山本 芳指導主事

大府市教育委員会
内藤 郁夫教育部長

大府市教育委員会
宮島 年夫教育長

フューチャースクール推進事業の成果をすべての小・中学校に還元したい

―大府市は2015年度に、約2200台ものタブレットPCを導入し、注目を集めました。なぜ、これほど思い切ったICT環境整備に着手したのですか?

宮島教育長(以下、宮島) 大府市では、2010年から市立東山小が総務省の『フューチャースクール推進事業』の実証校になり、タブレットPCや電子黒板を使った授業研究を進めていました。その様子に当時の市長が強く感銘を受け、「フューチャーではなく、今すぐ必要な教育だ」とのことで、市長部局主導でICTの整備を進めることになりました。

大山係長(以下、大山) せっかく東山小がフューチャースクールとして実践と経験を積み重ねてきたので、ICT環境を整備して、その成果を市内の他校にも広げていきたいというねらいもありました。

―なぜ、段階的に整備するのではなく、約2200台ものタブレットPCを一斉に導入されたのですか?

宮島 「少ししか整備されないくらいなら、何もしない方がまだよい」という学校現場の声を尊重しました。確かにその通りで、たとえば、電子黒板にしても1校に1台しかないようでは、使うたびに運ぶ手間がかかったり、使いたい授業が重なったりしてしまいます。これでは日常的に、継続的に活用できません。そこで「入れるなら、一斉に大量に」を選択したのです。

内藤教育部長(以下、内藤) 当時の学校現場は、東山小を除けばICTの整備はそれほど進んではいませんでした。PC教室こそあるものの、授業は昔ながらの黒板とチョークで進められていたのです。

山本指導主事(以下、山本) そこでまず、タブレットPCだけでなく、他のICTも並行して整備しました。電子黒板や実物投影機などのハードや、デジタル教科書などのソフトも同時に整備し、「すぐに授業で使える」状態で学校現場に届けたいと考えたのです。

複数のベンダーから提案を受け、現場の先生方も機器選定に参加

―実際にどのような順序で整備を進められたのでしょうか。

内藤 『フューチャースクール推進事業』の成果を市内のすべての小・中学校13校に広げたいとは考えていたものの、そのためにはどのようなICTが必要なのか、そのイメージやノウハウを、行政側は持っていませんでした。ネットワークや電源にどのくらいの負荷がかかるのか、といったことの見当がつかなかったのです。

大山 そこで、複数のベンダーから、ご提案をいただきました。その中から、教職員・児童生徒が使いやすいシステムをご提案いただいたプランを高く評価し、採用しました。

内藤 ICT機器は日進月歩のスピードで進化しています。今は十分な環境であっても、今後ずっと通用するわけではありません。ですから、長期的なスパンでICT環境をつくり、更新していくことを当初から心掛けました。

―現場の先生方から、「こういうICT機器がほしい」といった要望はあったのでしょうか?

宮島 もちろんです。「現場の先生方を大事に」が、大府市の基本姿勢です。

内藤 各校から教員が二人ずつ参加する「大府市情報教育委員会」を編制しました。定期的に会議を行い、どのようなハードとソフトを選ぶべきか、選定の段階から先生方に参加していただいたのです。

土井指導主事(以下、土井) 情報教育委員会では、メーカーの方にハードやソフトを実演してもらい、先生方に実際に触れてもらって最適なICT環境を検討しました。

将来も見据えて、高スペックなタブレットPCを選択

―高スペックなタブレットPCの機種を選ばれた理由は?

内藤 タブレットPCのスペックに関しては、「必要十分以上」を心掛けました。コストをなるべく抑えたいのは山々ですが、コストを削って低スペックになったがために、授業で使いづらくなるのでは意味がありません。現時点では多少オーバースペックであっても、その使用期間の最後に求められるであろうスペックを考えたのです。

―スレート型ではなく、2in1のキーボードつきタブレットPCを選んだ理由は?

内藤 仕事でPCを使う時、キーボードで文章を入力するように、子供たちにも、今のうちからキーボードを使ってタイピングする力を育んでおきたいと考えました。

山本 2in1であれば、キーボード入力、タッチ入力のどちらも可能ですので、子供たちに両方の能力を育むことができます。

内藤 PC教室に移動せずに、普通教室でキーボードを使って活動することができるのも、大きな魅力でした。大府市は年々人口が増加しており、将来、教室数が不足する恐れもあります。2in1のタブレットPCを整備しておけば、いざという時にPC教室を廃止して普通教室に変えても支障がないと考えたのです。

日常的なICT活用を促す、ソフトとしてのデジタル教科書

―タブレットPCと同時に、デジタル教科書も導入されましたね。

山本 ICTが日常的に活用されるには、ICTで日常的に使える教材が不可欠です。そこで、複数の教科のデジタル教科書を同時に導入しました(下記参照)。デジタル教科書であれば、紙の教科書と同じ感覚で、毎日の授業で使うことができます。授業計画を変える必要もありませんし、今まで板書して説明していた教科書の内容を、電子黒板にデジタル教科書を映して説明するというように置き換えるだけでよいのです。大府市の先生方はICT初心者の方が多かったので、ICT活用の入口としてもデジタル教科書は最適だと考えました。

内藤 子供たちの学び合いを活性化するねらいで、授業支援システムも導入しました。授業支援システムを使って子供たちのタブレットPCの画面を電子黒板にすぐ映すことができれば、友だちの考えに触れる機会が増え、それをもとに話し合う活動も増え、学び合いが深まると考えたのです。

山本 この授業支援システムにはデジタルドリルも付属しており、一人ひとりが学習進度に合った問題を選んで個別学習することができます。一人ひとりの進捗状況を先生がタブレット上で把握でき、個別指導もしやすいのが特徴です。

宮島 ただし、基礎的・基本的な知識・技能の習得がおろそかになるということがあってはなりません。そこで、デジタルドリルなどを活用しながら、すべての教科で基礎的・基本的な知識・技能の習得と、話し合い活動をバランスよく行うよう、先生方には伝えています。

授業を停止させないために安定したネットワークを構築

―弊社の無線LAN最適化ソリューション機器『Tbridge』(52参照)を採用いただくなど、ネットワークの構築にも力を入れていますね。

内藤 いくら良いハードとソフトをそろえても、ネットワークが貧弱で不具合を起こすようでは、授業がストップしてしまいます。『Tbridge』の導入は、無線LANでのパケットづまりの解消など、スムーズなネットワークの構築に効果があると考えています。また、学校は災害時の避難場所としても使われますので、授業での負荷に耐えられるのはもちろんのこと、避難してきた市民の方々が無線LANを利用できるかも考慮しました。

「モノ」だけでなく「人」も配置。ICT支援員を常駐

宮島 さらに、人の配置も重視し、ICT支援員を各校に常駐させました。

内藤 ICT支援員がいるといないとでは、安心感がまったく違います。たとえば、授業中にICT機器がうまく動かなくなってしまっても、ICT支援員に不具合の解消はお任せして、教員は授業を止めずに進行することができるでしょう。

宮島 学校現場からも「ICT支援員は絶対に必要」との声をいただいています。

山本 ICT導入当初は、ほとんどの先生が初心者レベルのICTスキルでしたから、ICT支援員なくしては活用を進められなかったでしょうね。

内藤 実は計画当初は、先生方はICTにどんどん慣れるだろうから、経年とともにICT支援員のニーズは減るだろうと予想していたのです。ところが実際は逆で、先生方がICTに慣れて活用するようになるにつれて、ICT支援員へのニーズは高まっていきました。ICT支援員の役割が変化したのです。最初は、ICTの操作を先生に教え、補助する役割でしたが、ICTを使った授業を先生といっしょにつくっていく、授業支援の役割へと変わっていったのです。ICT支援員にはICTの保守やサポートといったICTスキルがあればよいと思われがちですが、それ以上に授業づくりをサポートする力が求められます。先生が考える授業のねらいを理解し、子供たちの現状を把握し、そのうえで最適なICT活用の方法を教員といっしょになって考えられる、そんなICT支援員が求められているのです。

ICT研修を盛り込み、先生方のICT活用を促進

タブレットPCを使って授業を受ける子供たち。
写真提供:大府市教育委員会

―教員研修にも力を入れているそうですね。

山本 ICTを導入しただけでは使ってもらえませんから、教員研修は重要です。ICT導入初年度から、現職教育のテーマの中にICTを何らかの形で組み込んでもらうようにしました。また、公開研究発表会も各学校で開催し、授業でICTを使ってもらうようにもしました。それをきっかけに、先生同士でICT活用について議論し、研究が深まっていきました。

―その結果、先生方はどのようなICT活用をするようになりましたか。

山本 最初に多かったのは、タブレットPCを使って自分の考えをまとめ、話し合い、発表するといった使い方でした。その結果、ICTでしか得られない効果を、先生方は実感することになったのです。

内藤 タブレットPCで子供たちがまとめた意見を、授業支援システムで一覧化することで、先生は子供たち全員の意見を把握することができるようになりました。これは画期的なことです。これまでの授業では、発表をしない子供がどのような意見を持っているのかを把握するのは困難でした。しかし、ICTの導入によって全員の現状が把握できるようになり、目の前の子供に合った授業をつくることができるようになりました。子供たちも、友だちの意見に触れる機会が増え、以前よりも学び合いがはかどるようになりました。

土井 動画や静止画で撮影する機能もよく使われています。たとえば、体育の跳び箱運動の様子をタブレットPCで動画撮影し、その様子を繰り返し観察して、フォームを修正する。ICT機器がなかった頃は、自分の運動の様子を自分で振り返るのは不可能でした。言葉で「腕が曲がっている」と指導されても、自覚することができない子供が多かったのです。しかし、タブレットPCで撮影すれば一目瞭然ですので、上達が速くなりました。また、理科の実験を撮影することも定番になっています。ICT機器がなかった頃は、実験の肝心なところを見逃してしまい、振り返りが困難という課題がありました。しかし、タブレットPCで実験を撮影すれば、何度も繰り返し観察し、考察を深めていくことができます。

山本 今までできなかったことが、ICTでできるようになり、先生方も「使ってみよう!」と前向きになっています。

宮島 ICTを活用して良かったという手応えがあってこそ、継続的に使ってくれるようになるのです。

ICT活用で学び合いが増え、子供たちの表現力が高まった

―ICT活用の成果は出ていますか?

山本 まず、子供たちの学習意欲が向上しています。たとえば授業の導入で、デジタル教科書を使って動画を見せると、子供たちの意欲や集中力は目に見えて高まります。また、学び合い活動が増えたことで、子供たちの表現力も高まっているとの報告も寄せられています。

土井 たとえば、理科の実験を動画で撮影して観察し、その気づきを発表すると、同じ動画を見たのに一人ひとり意見も言い方も違います。友だちの発表を聞いて、どのよう言えばわかりやすくなるのかを学び、自分の表現に活かす子供の姿が、よく見られます。

山本 ICTを使って友だちのさまざまな意見を可視化し、伝え合い、学び合うことで、子供たちは多様な答え方、考え方があることを実感し始めています。多様な価値観に触れ、尊重し合う経験は貴重です。道徳でもそのような理念を教えますが、学習活動の中で体験することで、「多様性の大切さ」を理解しやすくなります。

 子供の成長を実感できることが、先生方のICT活用を促し、さらに子供は成長するという好循環になっているのです。

ロードマップを描き、市と学校との連携が重要

モダンな大府市役所庁舎。現在の人口は約9.1万人。名古屋市に隣接していることもあり、人口は増え続けている。

―最後に、これからICT環境を整備する自治体や先生方へのアドバイスをお願いします。

内藤 市役所側の立場から財政的な視点で言わせていただきますと、どのくらいの予算や期間が掛かるのかを、財政当局は把握しておきたいものです。まずは現時点での到達目標を定め、ロードマップを作り、そのために掛かる予算を段階ごとに整理して示せば、財政当局も動きやすくなります。

大山 ICTは整備したら終わりではありません。情報技術の進化や教育トレンドの変化に合わせて、今後も更新していくことが求められます。そのためには、行政は今まで以上に先生方の声を大切にしながら、学校現場と一体となって整備と活用を進め、今後必要な環境も考えながら計画的に進めていく必要があると思います。

宮島 学校現場は、多忙化の一途をたどっています。だからこそ、一人ひとりの先生が、ICTを活用して授業力を高め、元気で明るく子供たちと接してほしいと思います。、未来ある子供たちのために精一杯努めていきたいですね。

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