震災で傷ついた町を教育の力で再生したい

福島県新地町から、日本最先端のICT活用を発信

―福島県新地町教育委員会―

福島県新地町の名が、いま全国に轟いている。総務省および文部科学省の事業実証地域として、町を挙げて最先端のICT活用の研究開発に取り組んでいるのだ。震災からの復興をめざす熱き教育理念と、その実践の数々をレポートする。

新地町教育委員会
教育総務課 総務学校係
指導主事 兼 社会教育主事
伊藤 寛先生

新地町教育委員会
佐々木 孝司教育長

東日本大震災で深く傷ついた町を教育の力で再生したい

 新地町では、前教育長のころから、総務省『地域雇用創造ICT絆プロジェクト』や、総務省『フューチャースクール推進事業』と文部科学省の『学びのイノベーション事業』に取り組むなど、ICT活用に力を入れてきた。

 そんな時に起きたのが、あの東日本大震災だったのだ。津波は、人口約8千人のこの小さな町の町役場まで押し寄せ、119名もの方々が行方不明もしくは亡くなった。弟や妹を失った児童生徒、親を亡くした教員もいる。新地町は、物理的にも精神的にも大きく傷つき、学校は、崩壊寸前の危機に直面したのだ。

 「この苦境を乗り越えるには、一つの目標に向かって、みんなでがんばるしかない。教育の力で、笑顔と活力があふれる新地町を創造したい。そんな願いから、文部科学省の『先導的な教育体制構築事業』と総務省の『先導的教育システム実証事業』に応募したのです」と、佐々木孝司教育長は話す。

新地町ICT活用グランドデザイン

新地町グランドデザインを制定し、「三つの学び」を実践する

 新地町は、「ICTを活用して学びの質を高め、21世紀を生き抜く力を育てる授業」と研究テーマを定めた。ICTはあくまで道具の一つ。ICTを活用して、新地町の子供たちに、社会を牽引していける力を育むのが最終的な目標だ。

 このことを徹底するために、『新地町ICT活用グランドデザイン』を定め、ICTを活用した次の三つの学びをめざそうと決めたという。

①個々の課題に応じた学び

ICTによって一人ひとりの学習進度を把握し、「学ぶ内容」と「学ぶ方法」をICTで最適化して、基礎的・基本的な力を身につける学習。

②主体的・協働的な学び

ICTを用いて発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習などを行い、そのために必要な「言語・数・情報スキル」「論理的・批判的思考力」「問題発見解決力・創造力」「メタ認知」を育成する学習。

③探究志向の学び

新たな課題に対して、これまでの知識や経験を元に探究し、他者と協力し、ICTを使いながら解決方法を発見する学習。

 佐々木教育長は「このグランドデザインは、次期学習指導要領の論点整理が出る前に定めました。わが新地町は新しい学習指導要領に先んじていると、自負しています」と述べた。

たとえ一般財源を使ってでも、今後もICT活用を続けていく

 このような学びを実現するには、「物的措置」と「人的措置」が不可欠である。そこで新地町では「物的措置」として、iPadAir2を約170台をそろえるなど、最新のICT環境を整えた。また、「人的措置」としては、若くて優秀な伊藤寛指導主事を招き、町内の小学校3校と中学校1校に、それぞれICT支援員を2名常駐させた。ICT支援員が常駐しているからこそ、先生方のアイディアを形にできているという。

 「物的措置と人的措置には、当然お金がかかります。行政と学校、そして議会が三位一体にならなければ、実現できません。議会の理解を得るために、広報活動には力を入れています。各学校長にはマスコミの取材に協力するようお願いしており、県内の新聞社やテレビ局が頻繁に取材に訪れています。『次世代の新しい教育を取材したいなら、新地町に行け!』と言われるほどです」と語る佐々木教育長。「テレビのニュースや新聞記事を見て、議会も理解を深めてくれています。子供たち一人ひとりの学力を追跡調査して、ICTを使えば学力が向上すると効果も伝えています。その結果、議会からは『たとえ一般財源を使ってでも、今後も継続すべき』とまで言っていただけるようになりました」と喜ぶ。

 現在進めている国のモデル事業が終わっても、新地町は歩み続けていく。「他の自治体がどこも取り組んでいないような、〝キラッと光る先導的な取り組み"をつくっていきたい。先生と子供、子供と子供が顔を向け合い、笑顔になれる面白い学校をつくっていきたい。そして、被災したこの福島県全体を、教育の力で元気にしたい」と、佐々木教育長の言葉には力がこもる。それが救いの手を差し伸べていただいた国や県・町の自治体、業者企業体への恩返しだと考えているのだ。

新地町における主体的・協働的な学び
土台となる力を習得・発揮して思考の活性化を図る

新地町グランドデザインに基づき、ICTをいかに活用しているか

 伊藤指導主事は、「新地町ICT活用グランドデザイン」に基づいて取り組んでいる、さまざまな学習活動について次のように説明する。

 まず、「個々の課題に応じた学び」を実現するために、ICTを使って「学ぶ内容」と「学ぶ方法」を最適化しています。

「学ぶ内容」の最適化

教材研究を行い、教材の持つ概念や良さを分析した上で、児童生徒・教材・教員のバランスが取れた学習指導を行う。

「学ぶ方法」の最適化

目の前の子供に合わせて、学習の複線化を図り、習熟度の違いなど個人差に配慮して、ペア学習やグループ学習、少人数指導などを行う。

 では、どのような力を、どのような学習で身につけるか。「主体的・協働的な学び」を行うために必要な力は次の通りだ。

言語・数・情報スキル

教科・領域横断的に求められる基本的な能力であり、主体的・協働的な学びを実践するための土台となる力。「読む」「聞く」といった理解力と「話す」「書く」といった表現力。数学的な情報を理解し、統合・整理して効果的に表現する力。ICT等を活用して情報の収集・判断・処理を目的に応じて的確に行い、発信や表現を行う力。

論理的・批判的思考力

事柄を多様な観点から論理的に考察する力。学習活動のさまざまな場面で求められる力です。

問題発見解決力・創造力

個人やグループで考えを吟味し、問題を発見・解決したり、これまでの学びから新しいアイディアを生み出す力。

メタ認知

自分自身やグループの学習状況を客観的に把握し、必要に応じて計画や今後の活動を修正する力。

 こうした力を身につけるための場面を、町内の各小・中学校では学習活動の中に「しかけ」ている。その具体的な例が、ここで紹介している「導入型反転授業」や「交流学習」だ。

 伊藤指導主事は「先進的なICT活用が注目されがちですが、ICTはあくまで道具の一つであり、こういった21世紀を生き抜く力を子供たちに身につけさせるのが大きな目標です」と語った。

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