次期学習指導要領で求められる「ICTの環境整備」と「教育の情報化」

東北大学大学院 情報科学研究科
堀田 龍也教授

次期学習指導要領において「情報活用能力」は、「言語能力」とともに、「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけられた。「情報活用能力」を育むにはICT環境の整備が不可欠であり、次期学習指導要領の総則にも、必要な環境を整えることが明記された。次期学習指導要領は、2020年度から小学校で全面実施となる。今、学校、教育委員会、自治体は、何をすべきなのか、東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授にお話を伺った。

次期学習指導要領の重要な三つのキーワード

次期学習指導要領告示までの歩み

 次期学習指導要領が告示されました。中央教育審議会(以下、中教審)に文部科学大臣が次期学習指導要領に関する諮問をしたのが、2014年11月。そこから約2年にわたって審議が重ねられてきました。2016年12月には中教審の答申が出され、それを元に文部科学省が学習指導要領案を作成。今年2月14日には学習指導要領案が公表され、約1カ月間パブリックコメントを受け付けました。

 今回、文部科学省内での初等中等教育局教育課程課において、次期学習指導要領作成にあたってきた大杉住子教育課程企画室長のご講演の内容を本誌でお届けできたことは、とても意義深いと思います。

「カリキュラム・マネジメント」と「社会に開かれた教育課程」

 さて、次期学習指導要領では三つの重要なキーワードがあると、私は考えています。

 第一のキーワードは、「カリキュラム・マネジメント」です。次期学習指導要領では、総則でカリキュラム・マネジメントの重要性を述べています(抜粋1参照)。教育課程の"基準"は国が学習指導要領として提示しますが、具体的なカリキュラムは、児童生徒や教員、地域の実情に合わせて、各学校が毎年編成しなければなりません。

 たとえば「学力向上」を学校目標に定めるなら、子供たちの現時点での学力を鑑みて、カリキュラムを編成します。各学年の到達目標やそのための学習活動の内容を定めるだけでなく、人材や予算の配分なども含めて、学校経営の"力点"を毎年検討し、更新していくのです。カリキュラム・マネジメントは、もっと細部にまで及びます。たとえば「外国語科」なら、45分間の授業とモジュール学習のような短時間学習を、どのような配分で実施するか。それぞれどのような学習目標を定め、どのような学習活動を行うか。そのために必要な教材、ICTなどの機材、ALTなどの人材をどのように確保し、運用するか。担任の先生にどのような研修を行うか。こうしたことを全部含めて、カリキュラム・マネジメントなのです。

 こういったカリキュラム・マネジメントは今までも行われてはいましたが、次期学習指導要領で改めてその重要性が強調されました。限られた授業時数の中で、教えるべきことはたくさんあります。各学校が判断して、メリハリをつけて実施してください、ということなのです。

 カリキュラム・マネジメントは校長先生が中心となって行いますが、「カリキュラム・マネジメント主任」のような担当を置いて、校務分掌に位置づけるとよいと思っています。

 第二のキーワードは、「社会に開かれた教育課程」です。今や学校だけで教育課程を完結させてよい時代ではありません。校外の方々にも積極的に学校に関わってもらい、教育課程を充実させる必要があります。そのためには、校長先生が日頃から保護者や地域の方々、さまざまな分野の専門家と良い関係を構築し、学校への参画を促せるようになっておかなければなりません。これも、カリキュラム・マネジメントの一つです。

 また、「社会に開かれた教育課程」というキーワードには、子供たちが社会に出た時に役立つ資質・能力を育もう、という意味も込められています。子供たちにどのような大人になってほしいかをイメージし、そのためのカリキュラム・マネジメントを行いましょう。

「アクティブ・ラーニング」という言葉が学習指導要領にない理由

 第三のキーワードは、社会に出たときに役立つ力を育むために求められる「アクティブ・ラーニング」ですが、この「アクティブ・ラーニング」という言葉が次期学習指導要領に見当たらないことが、ちょっとした騒ぎになっています。「アクティブ・ラーニングはなくなるらしい」と早合点する方もいるようですが、それは違います。アクティブ・ラーニングという言葉が、「主体的・対話的で深い学び」という表現に置き換わっただけです。

 そもそも学習指導要領は法令文書なので、まだ社会に十分に定着していない言葉、横文字言葉は使いづらいのです。初等中等教育においては、アクティブ・ラーニングという言葉の解釈はまだ揺れていて、「対話をさせればよいのだろう」といった誤解も生じていました。そこで、もっと明快な「主体的・対話的で深い学び」という表現を採用したのです。

 アクティブ・ラーニングという言葉が、次期学習指導要領に記載されなくなりましたが、アクティブ・ラーニングを否定したわけではありませんし、言葉の使用を禁止したわけでもありません。アクティブ・ラーニングの理念は、次期学習指導要領にも色濃く反映されており、子供たちの学びの質を高めるために、アクティブ・ラーニング、すなわち「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて授業を改善していくことが明記されています。

「言語能力」と「情報活用能力」が、学習の基盤となる資質・能力に!

「言語能力」と「情報活用能力」の位置づけが大きく変わった

 現行の学習指導要領から大きく踏み込んだことがあります。それは、「言語能力」と「情報活用能力」の位置づけが、大きく変わったことです。

 現行の学習指導要領にも「言語能力」や「情報活用能力」という言葉は記載されていました。しかし、今までは教科の目標が先にありきで、教科の目標を学習する過程で、「言語能力」や「情報活用能力」が身につくとよいというスタンスでした。

 しかし、次期学習指導要領では、さまざまな教科で「主体的・対話的で深い学び」を行います。この「主体的・対話的で深い学び」を子供たちが行っていくためには、情報をやり取りするための「言語能力」と、情報を収集・整理・比較・表現・伝達するための「情報活用能力」が不可欠です。ですから、次期学習指導要領の総則には、「言語能力」と「情報活用能力」は、「学習の基盤となる資質・能力」であるから、教科横断的に習得させようと書かれたのです(抜粋2参照)。パラダイムシフトと言ってよい大転換です。

 次期学習指導要領では、各教科の特質に合わせて情報活用能力を育むことが示されています。たとえば「『ローマ字入力』は、国語でローマ字を学ぶ時に合わせて行う」、社会科では、「学校図書館や公共図書館,コンピュータなどを活用して,情報の収集やまとめなどを行うようにする」などです。

 「教科の内容を教えるだけでなく、言語能力や情報活用能力も教えるためには時間が足りない」という声も耳にしますが、逆です。言語能力や情報活用能力が身につけば、各教科の学習は今までよりはかどり、授業時間を効率的に使えます。たとえばディスカッションでは、言語能力を身につけていれば、短時間でも実りあるものになります。情報活用能力が身についていれば、情報の収集・分類・発表も、スムーズかつ効果的に行うことができるのです。

国語・算数も「情報化」された

 次期学習指導要領では、各教科の「情報化」も行われました。たとえば、国語で身につけるべき「知識・技能」として、「比較や分類、引用の仕方を理解する」「原因と結果など情報と情報の関係を理解する」などと書かれています(抜粋3参照)。

 国語では「文脈の中の情報」を学びますが、算数では、文脈を伴わない情報、すなわち「データ」を学びます。次期学習指導要領では、小学校の算数で「データの活用」という新領域が設けられました。目的に応じてデータを集めて分類整理し、データの特徴や傾向に着目しながら問題を解決するために適切なグラフを選択して、その結論について多面的に捉え考察する、というようなことが示されています。

 国語も算数も基幹教科です。その基幹教科が、このように「情報化」されたのです。国語や算数という呼び名は変わりませんし、教科の再編も行われませんでしたが、現代の情報社会に合わせて教科内容が更新されたことを心に留めておいてください。

ICT環境の整備も記載された

 さて、こうした学びを効率良く行う時に、今まで通りの「黒板とチョーク」や「紙」だけで十分と言えるでしょうか? いいえ、これからはICTの活用が不可欠だと言えるでしょう。大型提示装置や実物投影機、無線LAN、タブレットPCといったICT環境を効果的に活用し、学習の基盤となる資質・能力である言語能力や情報活用能力を育んでいきましょう。次期学習指導要領の総則でも、ICT環境を整備することについて触れています(抜粋4参照)。学習指導要領でICT環境の整備について言及したのは、初めてのことです。各自治体は、学校のICTの環境整備を急ぎ進める必要があります。

ここにたどり着くまで「10年」

 情報活用能力は重要な能力であり、さまざまな教科で学んで習得させるべきだと、今までも多くの研究者が言い続けてきましたが、学習指導要領に明記されなかったので、重要視されてきませんでした。しかし、次期学習指導要領では、情報活用能力は学習の基盤となる資質・能力だと明言されました。各教科の特質に応じて指導する具体例も書かれました。学習指導要領に書かれた以上、すべての教科書に情報活用能力につながる内容が掲載されることになります。

 これは歴史的な転換であり、情報教育に長年携わってきた身としては、とても感慨深いことです。私の仕事の大部分は、これでようやく完了したと感じるほどです。ここにたどりつくまで、10年かかりました。その長い道のりを振り返ると、涙が出るほどです。

タブレットPCの効果的な活用を、リーダーを中心に研究した幌西小

 次期学習指導要領で情報活用能力の位置づけが大きく転換された今、タブレットPCなどのICTを用いてどのような学習活動を行い、どのような力を育むか、今一度とらえ直す必要があります。札幌市立幌西小学校の事例は、その参考になるでしょう。

 タブレットPCは、最初は誰もが初心者です。そこで、幌西小ではまずリーダーを決めて、「やれるところからやってみましょう。経験を積み重ねましょう」とスタートしました。そして、タブレットPCを使うことが目的化しないように、あくまで教科の学習目標を達成するためにタブレットPCを使おうと徹底しました。闇雲にタブレットPCを使うのではなく、「この活動は従来通り黒板とチョークと紙を使った方がよいのではないか」と考えながら、タブレットPCが活きる学習活動の場面を見極めていったのです。

タブレットPC初心者の先生に、まずは経験を積んでもらった共和小

 タブレットPCを使ったことがない先生は、不安ですし、使う必要性を感じづらいものです。そうした心情を無視して押しつけても、うまくいきません。まずは上手に経験させてあげましょう。そうすれば、どのような場面で使えて、どのような効果があるのかを実感できるでしょう。そして、授業計画の立て方やカリキュラム・マネジメントの行い方なども見えてくるのではないでしょうか。

 では、先生方にどのようなステップでタブレットPCを経験してもらえばよいのでしょうか。そのお手本となるのが、相模原市立共和小学校の事例だと思います。

町を挙げて、企業や国と連携して、ICT環境の整備を進める新地町

 ICTを活用して21世紀を生き抜く力を子供たちに育み、我が町を支える人材を育成しようと、町内すべての小・中学校で取り組んでいるのが、新地町です。教育委員会が強力なリーダーシップを発揮し、新地町共通のビジョンを掲げ、具体的な実践方法は各学校に任せつつも、学校間で育成される力に格差が生じないようにしています。

 特に、ICT環境の整備には力を入れています。町の経済力からするとかなりの規模の予算をICT環境の整備に投じており、その努力には敬服します。町の予算に頼るだけでなく、積極的に官民連携を進めて民間企業の力を活用していますし、国のプロジェクトにも積極的に応募して、国の予算も上手に活用しています。まさにカリキュラム・マネジメントを教育委員会レベルで実施している見事な事例であり、他の自治体にも見習ってほしいと思います。

将来を考えたネットワーク環境を構築している大府市

 たくさんのタブレットPCを学校で使うようになれば、ネットワーク環境を見直す必要があります。校内のどこからでもアクセスでき、かなりの台数が同時に接続可能なネットワーク環境を構築しなければなりません。しかも、これからは「社会に開かれた教育課程」が求められますから、保護者や地域の方々、外部の専門家などが学校に参画していきます。学校は、災害時の避難場所にもなりますから、学校関係者ではない不特定多数の方々も接続できるネットワーク環境を構築する必要があります。

 校務用・児童生徒用のセキュアなネットワークと、公衆性の高いネットワーク環境をどう共存させるか。不特定多数の端末が校内のどこからでもアクセスできるユビキタスなネットワーク環境をどう構築するか。こういった課題に向き合い、『Tbridge』を導入するなどして計画的に整備を進めているのが、大府市の事例です。

先進校や自治体の例に学ぼう

ICT環境の整備と教育の情報化を進める全国ICT教育首長サミット

 ICT環境を整備するには、相当の予算がかかりますから、首長の協力が必要不可欠です。ICT環境の整備が進んでいる自治体を見ると、ICT環境の整備と教育の情報化に理解のある首長が、積極的に推進していることが多いようです。

 そのような理解のある首長の方々が集まったのが「全国ICT教育首長サミット」です。次期学習指導要領に求められる教育を実現するには、首長や自治体はどうあるべきかを読み取り、参考にしてほしいと思います。

JAETの「学校情報化認定」で「現在地」を客観視してみよう!

 ここまでは、ICTの環境整備の話をしてきましたが、整備したICTをしっかりと運用できているかということも、絶えず検証する必要があります。どのようなICTがそろい、どのようなカリキュラムで、教員はどのような意識で活用しているのか。それらを測る客観的な物差しとして、日本教育工学協会(JAET)の「学校情報化認定」は、とても有効だと言えるでしょう。

「プログラミング教育」の目的は、情報社会の仕組みを実感させること

 みなさんの関心が高いのが「プログラミング教育」だと思います。プログラミング教育は各教科等で行います。その例が学習指導要領にも示されており、たとえば、算数で正多角形の作図をする時に、プログラミングを取り入れてみようと書かれています。学習指導要領の解説には、さらに多くの例が示されることでしょう。

 プログラミング教育は、まだまだ誤解されがちで、「プログラマーを養成する職業教育だ」、「プログラミングの言語を覚える必要がある」といった声を耳にしますが、それは違います。プログラミング体験を通じて、情報技術や情報社会の仕組みを子供たちに実感させることがねらいです。そこを履き違えないことがとても大切であり、東北大学でセミナーを行った原田康徳さん(合同会社デジタルポケット代表)も、このことを強く言っていました。

 また、「社会に開かれた教育課程」の観点から言えば、原田さんのようなプログラミング教育を手伝っていただける専門家やNPOなどと、つながりを作っておくことも大事です。

外国語科のスタートにともない、学習目標や学習内容を再検証しよう!

 次期学習指導要領で、学校現場が一番心配しているのは、外国語でしょう。高学年は教科になりますから、評価・評定を行うようになります。評価・評定を行うためには、目標や学習内容、指導法をしっかり定めることが重要です。国語や算数でも、同じですよね。

 次期学習指導要領でも、外国語を学ぶ目標が明記され、どのような知識・技能を習得する必要があるか、どのような思考力・判断力・表現力を身につける必要があるか、そのためにはどのような学習活動や指導を行うべきかが具体的に書かれています。前橋市立城南小学校と大牟田市立銀水小学校の様子は、これらをしっかりと整理して、子供たちを着実に成長させている先進的な事例です。すでに外国語を教科として学んでいる学校や自治体も、今一度、目標や内容を再確認してほしいと思います。

 学習目標や学習内容を再整理すると、「フラッシュ型教材」がとても役立つ教材だと再確認できると思います。フラッシュ型教材は、短時間で英単語を習得するのにとても効果的です。外国語科では、45分間の授業と短時間学習を上手に組み合わせるカリキュラム・マネジメントが求められますが、たとえば、短時間学習でフラッシュ型教材を使って英単語を練習し、その単語を使って45分間の授業ではコミュニケーション活動を行うといった展開が可能になります。また、チエルの『フラッシュ英単語/英語表現』には、ネイティブの音声も入っており、担任主導で授業を行う時でも子供たちにネイティブの音声を日常的に届けられるメリットがあります。

今年、2017年度は、とても重要な1年になります!

 次期学習指導要領は、小学校は平成32年(2020年)度に全面実施され、その1年後には中学校、さらにその1年後には高等学校の1年次で全面実施されます(上記参照)。今までは全面実施の前に「移行期間」が設けられていましたが、今回からは「先行実施」と表現が変わりました。これには国からの強いメッセージが込められています。「移行期間」を設け、足並みがそろうのを待つのではなく、できる学校や自治体から、どんどん「先行実施」してくださいと呼びかけているのです。

 次期学習指導要領の「先行実施」は、来年度の2018年度にはスタートします。あと1年しか猶予はありません。この2017年度は、とても重要な1年になるでしょう。本誌に掲載されている記事を参考に、次期学習指導要領に向けて、動き始めてみましょう。

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