全国初、高校のアクティブ・ラーニング全国調査を分析

― 東京大学 大学総合教育研究センター 中原淳研究室 ―

今、高校のアクティブ・ラーニングはどうなっているのか? --東京大学大学総合教育研究センターの中原淳研究室と一般財団法人 日本教育研究イノベーションセンターは、2015年7月から9月にかけて「高等学校における参加型学習に関する実態調査」を行った。高等学校におけるアクティブ・ラーニングに関する大規模調査としては全国で初めてのことである。現在、同研究室では、調査結果の普及とともに、全国の高等学校のアクティブ・ラーニングの授業事例を収集してポータルサイトで公開するほか、高等学校の教育関係者や大学関係者のコミュニティづくりを支援している。

東京大学
大学総合教育研究センター
特任研究員
田中 智輝氏
東京大学
大学総合教育研究センター
特任研究員
木村 充氏
東京大学
大学総合教育研究センター
特任研究員
山辺 恵理子氏
東京大学
大学総合教育研究センター
准教授
中原 淳先生

高等学校段階から社会で必要な力をつける教育を

 本調査は、全国の高等学校の「校長(教頭や教務主任等の学校代表者)」「各教科(国語、地歴・公民、数学、理科、外国語)の教科主任」「全国の高等学校のアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業を実施している教員」を対象とし、郵送法による質問紙調査として実施された。対象校数3、893校中2、414校による回答を得て、校長調査では2、371票(配布数3、893票)、教科主任調査11、486票(同19、465票)、教員調査5、177票(同19、465票)を回収した。

 現在、大学改革が進むなかで、「高等学校の教育」と「大学の教育」を円滑に接続し、かつ総合的な思考力を見抜く大学入学者選抜を実現することの重要性が問われている。本調査は、そうした社会的背景を受けて、高等学校における教育の実態を明らかにし、そこから大学が多くのことを学ぶことが目的である。

 高等学校においては現在、中央教育審議会諮問「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」(2014年11月発表)をきっかけに、アクティブ・ラーニングの視点を取り入れた授業への取り組みが普及し始めている。2020年度の次期学習指導要領改訂では、課題解決能力や主体的学習態度が重視され、こうした知識・技能、態度を身につけるためには、一斉講義形式の授業ではなく、生徒による議論や学び合い、発表などを含む、生徒が主体となって学ぶ活動型の授業への改善が求められている。

 本調査を実施した背景について、中原准教授は「この5〜6年、企業における人材開発の研究を進めるなかで、社会で求められるロジカルシンキングやファシリテーションなどは、社会に出てから学ぶのではなく、学生のうちから学んでおくべきだと実感しました。そこで企業と大学を結ぶ研究を進めていくうちに、大学では社会で求められる人材育成を意識するようになり、教育が変わってきました。しかし、その前段階である高等学校に目を向けると、いかに難関大学への合格実績を上げるかということが重視されがちであることがわかりました。大学入試を突破する力をつけたところで、社会を生き抜く力はついていないと感じ、高等学校段階から実社会で必要な力を身につける教育を行うムーブメントを起こしたいと考えたのです」と説明する。

アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の実施率
※校長調査の結果による
出典:木村充、山辺恵理子、中原淳(2015). 東京大学−日本教育研究イノベーションセンター共同調査研究 高等学校におけるアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業に関する実態調査:第一次報告書.
http://manabilab.jp/wp/wp-content/uploads/2015/12/1streport.pdf

学校全体よりも教科や教員による実施が多い

 本調査では、「アクティブ・ラーニング」という語によって回答が偏ることを避けるため、学習者の能動的な学習への参加と思考を促す教授・学習法を総称した「参加型学習」という語を用いた。そして、「参加型学習」を全授業のうち1回でも実施した授業を調査の対象とした。「参加型学習」の手法は図1の通りだ。

 校長調査によれば、学校全体でのアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業への現在(回答時)の取り組み状況について、「教科として参加型学習に取り組んでいる教科がある」と回答した高校は75・5%であり、多くの学校で実践されていることがわかった。だが、「その一方で、1回も実施していない学校が24・5%あると考えることもでき、この結果を単純に肯定的に捉えることはできません」と、東京大学大学総合教育研究センターの山辺恵理子特任研究員は話す。また、「学校全体として参加型学習に関する目標を掲げている」高校は22・8%、「参加型学習に関する具体的な計画を策定している」高校は13・4%と低く、学校全体での取り組みというよりは、各教科や教員が個別に取り組んでいる状況がうかがえた。しかし、「現状よりも取り組みを拡大する予定」であるという回答は全体の73・1%にのぼり、今後、アクティブ・ラーニングへの取り組みが拡大していくことが期待される。

図1 【参加型学習の定義】
※ 講義を一方的に聞くだけの授業は、「参加型学習」には含みません。
※ 教科書の音読や輪読、挙手、一問一答式の発問に対する回答、プリントや問題集の解答、実験・実習・実技、見学、教材の視聴など、生徒が何らかの活動を行うものでも、生徒の思考が活性化しない場合には、本調査での「参加型学習」には含みません。ただし、「意見発表・交換型」「理解深化型」「課題解決型」等の思考の活性化を伴うプロセスを含むものであれば、本調査での「参加型学習」に含めるものとします。

参加型授業は生徒の思考が活性化する

教科別アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の実施率
※教科主任調査の結果による

 教科主任調査での「すでに取り組んでいる」という回答は、国語が53・6%と最も高く、次いで外国語51・6%、地歴・公民44・4%、理科43・7%で、最も低いのは数学の26・0%だった。アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業への現在の取り組み状況について「教科全体として参加型学習に関する目標を掲げている」「教科全体として参加型学習の推進に関する具体的な計画を策定している」「参加型学習の実施について、教科の会議などで積極的な呼びかけなどを行っている」という項目についても、同様の傾向が見られ、これらの3項目では外国語が最も高く、数学が最も低かった。

 山辺特任研究員はこの結果について「調査を実施するにあたり、国語と社会は教科教育がしっかりしているので、すでに参加型学習に取り組んでおり、理科はあまり取り組んでいないのではないかと仮説を立てましたが、実際に結果を見ると地歴・公民と理科は同程度実施されていました」と述べる。そして、「今回の調査では、参加型学習の定義として、『生徒の思考が活性化する活動』を伴っているかという視点を取り入れたことが注目すべき点だと思います」と続けた。

 さらに、参加型授業の実施により実感した効果についての質問では、校長・教科主任ともに、「生徒に主張・傾聴・討論などのコミュニケーション力が身についた」「生徒と教員間のコミュニケーションが深まってきた」「生徒の自分の考えを言語で表現する力が高まった」「生徒が他者と一緒に学ぶ楽しさを理解するようになった」「生徒が自分の考えを深められるようになった」といった効果が上位を占めた。

アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の効果

授業準備に時間をかけられる環境整備が必要

 次に、各教科で実施されている参加型授業の特徴については、次のような分析結果が出た。いずれの教科においても、参加型授業のねらいは「言語で表現する力」など多様である。国語科の場合は、他教科よりも「ディスカッション」や「生徒同士の相互評価」などの学習活動を重視し、多様な学習活動を展開していた。地歴・公民科は教科を超えた、社会とのつながりを意識しながら、多様な学習活動を展開している。数学科は他教科と比べて、ねらい、学習活動、工夫ともに全体的に数値が低い傾向にあった。理科は他教科と比べて「実験や観察」「自然・社会体験」など体験を重視した学習活動を入れている。外国語科は生徒による「プレゼンテーション」などの多様な学習活動を重視しており、「複数教員による授業」といった工夫を他教科より重点的に取り入れていることがわかった。

 田中智輝特任研究員はこの結果について、「国語科と外国語科は言語を扱うという点では同じような教科として捉えられますが、国語では思考力を深める活動が重視され、英語では意見発表やディスカッション、ディベートといった活動が多いようでした。協働性は高まっていますが、理解深化型の活動が少ないように思います」と述べる。そして、木村充特任研究員が「教科の特性として、外国語科は国語科よりも数学科と悩みを共有しているところがあり、外国語科であれば文法、数学科であれば公式を〝使う〟ということが重視され、生徒が活動する際には積極性やアウトプットする力にねらいを求めがちです。しかし、それでは理解や思考が深まらないという課題があります」と続いた。

 こうした参加型授業実施上の悩みとしては、教科による大きな違いは見られず、「授業前後の教員の負担が増加する」「授業の進度が遅くなる」「授業の時数が足りない」であった。一方で、「生徒の教科における学業成績(学内考査など)が低下する」「教員が参加型学習の必要性を感じていない」という回答は値が低かった。そして、これらの悩みを克服する方法として、「授業準備に時間をかける」「授業方法を工夫する(授業に参加しないことで学習に支障が出るような設計など)」「校外での研修会や勉強会への参加を奨励する」が挙がった。つまり、授業準備に時間をかけられるような環境を整備することが、悩みの解決につながるといえる。

各教科の参加型授業の特徴の比較

カリキュラム・マネジメントの重要性

 次に、参加型授業を実施している学校と実施していない学校による違いについても注目してみよう。調査によれば、実施している学校は、実施していない学校に比べて、教育目標の達成に向けて、教育課程や授業内容の評価・改善に、学校全体で取り組んでいる傾向にあるという。

 「参加型授業が進んでいる学校は当然のことながら、学校全体で目標を掲げて、教員たちがそれをしっかり認識し、教員間の良好な関係が築かれています。学校の組織づくりができているのです」と語る中原准教授。そうした学校教育目標の実現に向けて教育課程を編成・実施・評価し、改善を図る一連のサイクルを組織的に推進していくことを、本調査では「カリキュラム・マネジメント」と呼んでいる。調査においては、この「カリキュラム・マネジメント」に関する設問も用意され、参加型授業への今後の取り組み状況とカリキュラム・マネジメントとの関連について集計した。「すでに取り組んでおり、今後はより充実させていく予定である」「すでに取り組んでおり、今後も維持していく予定である」「ここ数年間で取り組む具体的な計画が進行中である」と回答した学校は、カリキュラム・マネジメントも進んでおり、カリキュラム・マネジメントが進んでいる学校ほど、参加型授業への取り組みに積極的であるという関連性が見えてきた。

「マナビラボ」で参加型授業の事例を発信

 同センターでは、この全国調査の分析結果をポータルサイト「マナビラボ」にて公開している。「マナビラボ」は、①日本全国の高等学校のアクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業の実態を「見える化」するためのモニタリング調査、②アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業を含む「高等学校の先進的な授業実践事例」の周知という2つの活動に関する記事・コンテンツを発信することを目的とする「コミュニティ・メディア」としての位置づけだ。

 ポータルサイト開設にあたり、中原准教授は「現在、高等学校の授業に対しては社会的に高い関心が寄せられていますが、必ずしも、いつもマスメディアが注目をしてくれるわけではありません。『マナビラボ』をコミュニティ・メディアとして運営することで、高校の授業に共通の関心を持つ人々が出会い、参加・協力していく関係を編み出すことをめざしたい」と述べている。

 「マナビラボ」は7名のメンバーで運営しており、「ニッポンのマナビ いまの高校の授業とは」「マナビをひらく! 授業のひみつ」「3分でわかる! マナビの理論」「15歳の未来地図」「超高校生級! 明日をつくるマナビの達人たち」「どうするアクティブ・ラーニング? 先生のための相談室」「高校生ライターがいく」「マナビの笑劇場」の8つのコンテンツが随時更新される。

 「ニッポンのマナビ いまの高校の授業とは」では、木村特任研究員が、全国調査の分析結果を動画でわかりやすく解説している。「マナビをひらく! 授業のひみつ」は、全国の高等学校の先進的な実践事例を取材し、生徒の学びを促す工夫をインタビューする企画だ。「どうするアクティブ・ラーニング? 先生のための相談室」はアクティブ・ラーニングをはじめ、授業方法に関する、高校の先生たちの悩みや疑問に答えるコーナーとなっている。

 各地の高等学校への取材を担当している山辺特任研究員は「授業のひみつで取材に伺った三重県立津東高等学校の林仁大先生は、地理を教えていますが、他教科の教科書にまず目を通し、地理で教える内容が歴史はもちろん、家庭科などの教科書にも掲載されていることから、授業では教科の枠を超えた知識を教えて生徒たちの知識のネットワークをつくることを意識していらっしゃるそうです。参加型授業をつくるには、林先生のように、教科準備室を飛び出して他教科と連携していくことが大切ではないでしょうか」と話す。そして、田中特任研究員も「すでに実践している先生方のお話を伺うと、学びのなかに遊びの要素が含まれているということが共通しているように思います。そして授業を全て、先生がコントロールして目的に向かわせるという発想を捨てなければ、参加型授業は成り立たないといいます」と言葉を添える。さらに、中原准教授は「全てがアクティブ・ラーニングである必要はなく、なかには知識を授ける講義型の授業があってもいい。インプットの質を高め、講義と活動のバランスをどう取るかということが大切なのだと思います」と続けた。

教員研修の依頼が増えている

 同センターが全国調査結果を公表したことにより、各都道府県から教員研修の依頼も増えているという。山辺特任研究員によれば、教員研修では、全国調査の実態報告、授業実践の事例紹介、アクティブ・ラーニングのワークショップの3つの要素を入れてほしいという要望があるそうだ。今年3月には、全国の教育委員会の指導主事を対象に「アクティブラーナーズサミット2016」も開催した。参加者はこのイベントで受けた研修内容を持ち帰り、各地域での研修で、参加型授業のつくり方や教員によるファシリテーションの進め方など、実践的な内容を実演するという動きも見られるようになったという。さらに、次の学習指導要領改訂に向けて、アクティブ・ラーニングの手法を取り入れた授業をつくることができるような新しい教科書づくりが求められており、教科書会社からの研修依頼も舞い込んできた。まさに、中原准教授が求めたムーブメントが少しずつ巻き起こりつつある状況だ。

 同センターによる研究は、2015年から3カ年計画で進んでいる。現在は、今年度の追跡調査を、当初の調査協力校に行っている段階にある。その分析結果を12月以降、マナビラボで順次公開していく予定だ。さらに、「最終年度にあたる2017年にはもう一度、大規模調査を行い、3年の間に、アクティブ・ラーニングの視点に立った参加型授業がどれだけ高等学校において浸透し、実施されてきたかという経年調査を行うことができたらと思います」と山辺特任研究員は語る。木村特任研究員は「参加型授業に取り組む学校は今まで以上に増えていくと思いますので、効果がどれだけ上がり、そうした学校がどのような取り組みをしているのかを浮き彫りにすることで、これから取り組もうとする学校へのヒントになればと思います」と話した。

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