今、日本の大学に求められる"国際競争力 とは...

文部科学省 高等教育局 高等教育企画課 国際企画室長 松本 英登

 グローバル化の進展に伴い、世界各国間で優秀な人材の獲得競争が熾烈化している。そうしたなか、わが国では2018年度から18歳人口が減り始め、大学進学者も減っていくと見られている。

 今、日本の各大学に求められるのは、国際的に通用する質の高い教育研究を展開して国際競争力を高めると同時に、海外から優秀な留学生を戦略的に獲得していくことである。大学の国際化の現状と課題、今後の大学教育のあり方について、文部科学省・高等教育局の松本英登氏にお話を伺った。

大学の「国際化」はいかに進んできたか

 日本の大学における「国際化」は、1983年の『留学生10万人計画』に始まりました。「教育」「友好」「国際協力」のための留学生の受入れを目的とし、21世紀初頭までに10万人の受入れを目指す、としたものでした。この10万人という数字は、当時、アメリカが約31万人、フランスが約12万人、イギリスおよび西ドイツがそれぞれ約6万人という留学生を受け入れている実態を踏まえて想定されたもので、日本で実際に留学生数が10万人に達したのは2003年のことです。

 その後、2008年には『留学生30万人計画』が打ち出され、2020年をめどに30万人の留学生受け入れを目指すものとしました。その趣旨は、国や地域、研究分野に留意しつつ、優秀な学生を戦略的に獲得していくとともに、アジアをはじめとした諸外国に対する知的国際貢献を果たすことにも努めることにありました。この計画の実施に伴い、文部科学省は2009年に、国際化の拠点となる大学を選定して重点的に支援する『大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業(グローバル30)』により、13大学を選定。対象となる学部・研究科では、英語による授業を提供し、学位の取得が可能なコースが新設され、留学生の獲得を行う海外大学共同利用事務所が設けられるなどの成果が上がりました。

 これまで、海外からの留学生の多くは、主に日本語学校で日本語を学んでから、日本の大学に進学するという流れでしたが、『グローバル30』により、大学のキャンパス自体の国際化を図り、海外から優秀な人材を獲得するという観点が持たれるようになりました。

 こうして海外から留学生を受け入れる一方で、日本人の学生の海外への送り出しについても、新たな事業が立ち上がりました。2012年の『経済社会の発展を牽引するグローバル人材育成推進事業(GGJ)』です。これは、若い世代の「内向き志向」を打破して、グローバルな舞台に積極的に挑戦し、世界に飛躍することができる人材の育成を図るべく、大学教育のグローバル化を目的とした体制整備を推進する事業に対して、重点的に財政支援するものです。

 また、アジアや欧米など海外の大学とのネットワークを強化し、教育の世界展開力の強化を目指す『大学の世界展開力強化事業』(2011年)は現在も継続しています。国際的な枠組みで単位の相互認定や成績管理などの質保証をはかりながら、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受け入れを行う大学への支援を行うものです。今年度は中南米諸国やトルコなどの大学との教育連携プログラムへの支援を行っています。

日本の大学水準の底上げにつながるSGU

 このように、わが国ではさまざまな事業を通して、留学生の受け入れや送り出しを増やし、キャンパスの国際化を各大学で推進してきました。さらにもう一段階、国際化を進めるために始めた事業が『スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)』(2014年)です。従来の大学における国際化の取り組みは、国際担当の部局を設置して、具体的な取り組みを推進してきましたが、そのような変革は大学全体に成果としてもたらされず、全学を挙げた国際化の進展には至っていないという課題が見受けられました。そこで、SGUにおいては、大学全体の国際競争力の向上、徹底した大学改革を行い、国際通用性のある教育研究の展開を行う大学を支援するものとし、37大学を選定しました。

 これまでの事業の多くは、5年という指定期間での取り組みでしたが、採択されるのが秋ごろのため、1年目は実質半年ほどしかなく、本格始動するのが2年目です。3年目にようやく軌道に乗り始め、4年目は研究成果をまとめる段階に入り、5年目は最終年として報告書の作成、というように、5年間は慌ただしく過ぎていきます。そこで今回のSGUは、全学的な変革を求めた事業ですので、期間を10年間と長めに設定しています。4年目と7年目には中間評価を行います。その際に、文部科学省としてどのような評価を行うかは現在、検討中です。2014年の採択から1年が経ちますが、採択大学からはそれぞれ、現時点での取り組みや課題など、報告をしていただいています。まだ1年目ということもあり、全学的に取り組みが進むというよりは、まだ学内の体制整備や調整に尽力されているのが現状というところでしょうか。今後は、採択大学間の勉強会や情報交換会などの場を設けて、より良い事例を共有していけるように進めたいと考えています。

 SGU採択大学では今後、シラバスの英文化、ナンバリング、学事暦の変更などをはじめ、外国人教員や海外経験のある日本人教員の採用、留学生の受け入れや送り出しの強化などが、目標値の達成に向けて進展していくことになります。構想に入試改革も含む大学は多く、英語の試験では、英検やTEAP、IELTS、TOEFLなど、外部の資格・検定試験の活用なども、目に見える形で進むことでしょう。

 今回のSGUによる支援対象の教員数は8万人、学生数は55万人と、日本の大学全体の約2割に上ります。規模の大きな大学も含まれておりますので、量的なインパクトは大きいと思われます。今後はその波及効果にも期待を寄せています。採択大学以外でも、国際化に向けて学内でさまざまな議論が交わされたり、構想した取り組みを実施したりすることで、大学改革が進むでしょうし、SGUをベンチマークとして、独自の目標を立てて国際化に取り組んでいくこともあるでしょう。10年後には、SGUにおいて取り組まれている改革点は当たり前のものとなっていて、広く日本の大学で行われる状況になるのではないかと期待しています。

学生の学ぶ意欲を引き出すために

 さて、このSGUを契機に大学改革が進むなか、大学教育や大学入試をめぐる議論も盛んになっています。高大接続改革の必要性が問われ、高校教育までを含んだ「教育のあり方」が見直されるようになったのです。特に、グローバル人材養成が急務とされ、大学教育に対する社会からの要請は高まっています。そして、大学教育は変わるべきだとの声も聞かれます。

 実際に、大学教育は変わってきています。特に外国語教育、なかでも英語教育についてお話すると、これまでの国際関連の事業に採択された大学の例を挙げると、これまでは入試時の学生の英語力がピークで、入学後は下がるケースが見られたそうですが、英語教育を見直したことで、入学時の英語力を維持させることができるようになったと聞いています。また、どの採択大学でも留学プログラムが充実し、短期間であっても学生が海外へ出る機会が増え、学生は英語力の必要性に迫られ、英語学習に対するモチベーションを高めているようです。

 これは、SGU採択大学の関係者から聞いた話ですが、身につけた英語力が下がってしまうことを「もったいない」と思うレベルにまで、学生の英語力を一度引き上げることができれば、その先は学生自身が努力し、英語力も上がっていくことが見込まれます。しかし、初めから「私は英語ができない」というレベルであきらめてしまうと、引き上げることができません。そのため入学段階から、「英語力が下がってはもったいない」と学生自身が感じられるレベルにまで、学生の英語力を引き上げておきたいとのことでした。

 大学卒業後の進路によっては、英語を必ずしも必要としないこともあるかもしれませんが、何かしらの機会を与え、目的意識を持たせることができれば、学生は目の色を変えて自ら意欲的に英語を学ぶようになるそうです。そこで、SGU採択大学では今後10年間で、学生が英語を使わなければならなくなるような状況を作り、英語を学ぶのではなく、英語で学ぶ経験をさせることで、英語の必要性を感じられるようにしていく体制づくりをしていくことになると思います。

 学生のうちから、英語を使う喜びを感じる機会を持つことは大切です。高校までにしっかりと英語を学んできた人は、英語の必要性を感じて学び直すことになっても、すでに単語や文法が比較的身についているので、それが基礎力になります。学生には、高校までに4技能をバランス良く身につける努力をしておき、大学入学後は、早い段階から短期でもよいので、身につけた英語を海外で実践的に使う機会を持ってほしいと思います。そして、帰国後は、英語で専門分野を学んだり、アクティブラーニングの手法で学ぶなかで、英語を使って活動したりすることで、英語力が高まっていく喜びを感じながら学び続けることが大切です。大学にはそうしたサイクルを提供していくことが求められていると思います。

大学入試で活用される外部資格・検定試験

 このように大学教育の改革が進んでいますが、高校の英語教育や大学入試にも大きな変化が見られます。現行の学習指導要領が実施されたことにより、高校では4技能をバランス良く身につける英語教育を行うようになりました。

 しかし、文部科学省が昨年、高校3年生7万人を対象に調査した『英語力調査』によれば、4技能すべてにおいて課題があるとともに、特に「話すこと」「書くこと」について課題が大きいことが明らかになりました。旧課程の生徒を対象にした調査であるとはいえ、これまでの高校の授業では、英語を話したり書いたりする機会が少なかったのが実情でした。それは、大学入試とも深い関連があります。

 高校では大学入試の出題を意識した指導に重点が置かれており、入試で出題されない「話すこと」や「書くこと」の指導はあまりされてこなかったのです。

 そうしたなかで、高校の授業が4技能をバランス良く習得する指導に変わり、大学入試においても4技能を測る試験の必要性が議論されるようになってきました。しかし、各大学が独自に4技能を測る試験を実施することには課題もあり、そうして検討されるようになったのが、外部の資格・検定試験の活用です。

 欧州のCEFR(Common European Framework of Reference for Languages)を参考として、国内外で広く受け入れられている試験について生徒等の英語力の評価や入学者選抜において積極的に活用を促進することが提言されています。SGUにおいても入学者選抜への外部試験の活用をお願いしているので、中長期で見ると、外部の資格・検定試験の活用は広がりを見せると思います。

もうやり過ごせない、「国際化」の波

 SGU事業は、各大学が大学改革と教育改革という両側面から、大学としてのあり方を見直す契機になったと思います。世界大学ランキングトップ100を目指す力のある、世界レベルの教育研究を行うトップ大学を対象とする「タイプA:トップ型」に選ばれた13大学には、世界中から高いレベルの研究者が集まり、知の拠点となっていくことを目指していただきたいものです。また、これまでの実績を基に、さらに先導的試行に挑戦し、わが国の社会のグローバル化を牽引する大学を対象とする「タイプB:グローバル化牽引型」に選ばれた24大学には、キャンパスの内なる国際化を含め、世界で活躍することのできるようなグローバルマインドを持った学生を育成していただくことを期待しています。そして、採択大学以外の大学のモデルとなっていただきたいと思います。

 これまで、幾度となく、「国際化」という波が大学には押し寄せてきました。もう、やり過ごすことはできません。今回の波は日本の大学にとって、大きく変わるための最後のチャンスとなるかもしれません。大学を変えるのは、大学人である教員のみなさん、そして職員の方々です。それぞれの大学が強みを生かして、地域に貢献すると同時に、世界レベルの教育研究を行い、国際競争力を高めていくことを目指してほしいと思います。

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