アメリカに見る「一人1台のタブレット端末活用」事情

世界的に教育へのICT活用が進むなか、IT技術の発信地であるアメリカでは、すでに数年前から、多くの学校で一人1台のタブレット端末の導入が進んでいる。その中でもIT産業が活発で、教育へのICT活用に積極的なカリフォルニア州サンディエゴとテキサス州ダラスの学校を訪問し、タブレット端末の導入と活用の現状を伺った。

低学年から一人1台のタブレット端末(iPad) を使った授業が行われている。

すべての子どもたちに「平等な教育環境」を整備

イノベーション・ミドルスクール(カリフォルニア州サンディエゴ)

タブレット端末(iPad)またはネットブックを一人1台配布され平等な教育環境を整備している。

 サンディエゴ統合学区は、米国でも有名なタブレット端末の大規模導入学区であり、2009年より「i21Interactive Classroom」と呼ばれる「教室のICT化プロジェクト」に取り組んでいる。導入を始めて今年で6年目、すでに電子黒板はもとより、10万台の児童・生徒用のタブレット端末または、ネットブックが完備されている。すべての学校で普通教室の学習環境をICT化して、児童・生徒が主体的に学べる教室が整備されているのだ。

 今回訪問したサンディエゴ統合学区のイノベーション・ミドルスクールでは、7年生(中2)と8年生(中3)のすべての生徒にタブレット端末(iPad)またはネットブックが一人1台配布され、生徒は常に自分の端末を持ち歩いて毎時間の授業で活用している。生徒のタブレットとネットブックは3G回線によってインターネットに接続でき、学校に登校できなくても端末から学校のシステムに接続することで、いつでもどこでも学習を継続できる環境が整えられていた。

 授業では、最初に先生が今日の課題や学習内容を説明し、その後、個別の活動を行う従来通りの授業が行われる。生徒は学習活動の中で、タブレットから学校のポータルサイトにある情報を読んだり、掲示板でグループの意見を交換したりしながら課題に取り組んでいく。とにかく、鉛筆やノートと同じように自分の道具として、ごく自然にタブレットやネットブックを使いこなしている様子が印象的だった。

 「この学校の周辺は、サンディエゴでも貧困率の高い地区です。インターネットやパソコンがない家庭も多いため、住民投票によって、学校でタブレットまたは、ネットブックを一人1台整備することが後押しされました。すべての子どもたちに平等な教育環境を与えることが、サンディエゴ学区のi21Initiativeの目的のひとつです」とコートニー・ブラウン教頭先生が話してくれた。多様な人種や経済的な格差の大きいアメリカ社会では、教育機会均等のための環境整備が公教育の大きな役割であり、一人1台のタブレット端末導入の大きな理由だった。

言語活動の充実でタブレットが威力を発揮

レイディクリーク・エレメンタリースクール(カリフォルニア州エスコンディード)

タブレットの録画機能を有効に活用し、計算の仕方を隣の児童が撮影し、聞きあう。という算数の言語活動の様子。

 サンディエゴ郡北部にあるレイディクリーク・エレメンタリースクールでは、低学年から一人1台のタブレット(iPad mini)を使った授業が行われている。アメリカの学校では幼いころから"Show and Tell"といった各教科での言語活動が盛んだが、タブレットがそうした言語活動の充実に威力を発揮しているという。例えば2年生の算数の授業では、一人1台ではなく、あえて二人に1台のタブレットを授業で活用する。計算の仕方を説明している様子をとなりの児童が撮影してそれをたずね合うという、タブレットの録画機能を有効活用した算数の言語活動を実践していた。

 「これまでは一人ずつ前に出て来て発表させていましたが、タブレットの録画アプリを使うことで、授業中に全員が納得いくまで説明し合う活動を行えるようになりました」と担任のスワン先生。録画された動画は自動的にサーバーに保存され、後でみんなで閲覧することも可能だ。

学習活動によって有効な端末を選択

ワトソンテクノロジーセンター(テキサス州ダラス)

文章を書いたり、まとめたりする活動では、キーボードがあるノートハソコンを利用している。
タブレット端末は、学習アプリを利用した活動や、録画機能を使った発表練習なとで利用されている。

 ワトソンテクノロジーセンターは、テキサス州ダラス近郊のガーランド独立学区にあるマグネット・スクール(※)だ。理数教育に力を入れたプログラムを提供しており、学区内から優秀な生徒が通っている。

 この学校の教室は非常にユニークで、グループ学習ができるテーブルが六つ配置されており、テーブルごとに1台ずつデスクトップ・コンピュータ(サイドコンピュータと呼ばれる)が設置されている。教室には、一人1台分のタブレット端末(iPad)に加え、ノートパソコンも人数分用意されている。授業では、グループごとに異なる課題が出され、生徒はそれぞれの学習活動に合った端末を選んで使っていた。例えば、文章を書いたり、まとめたりする活動にはキーボードとマウスが欠かせないためノートパソコンを使い、学習アプリを利用した活動や、録画機能を使った発表練習などをする場合はタブレットを使っている。どの生徒も自然に端末を使い分けて学習を進めていた。「ノートパソコンが良い」「タブレットが良い」ということではなく、便利に、効率よく使える方を使うというスタンスだ。先生用のICT設備は、教員用のパソコン、プロジェクタ、電子黒板、実物投影機が各教室に標準的に整備されている。非常に充実した設備ではあるが、たくさんの機器に振り回されることなく、普段の授業でスムーズに使われていた。

 広大なアメリカでは、教育制度も州によって異なるため、学校ごとに様々な取り組みが行われているが、共通して言えるのは、「ICTを便利で有効な道具として日常的に使う」というポリシーを持っていること。そして、ICTで教育を変えるという考えではなく、「わかる授業」のために必要な道具としてICTを計画的に導入している実態が伺えた。

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