公開日:2013/03/28

世界に開かれた大学を目指して 明治大学

文部科学省が推進するさまざまな「大学の国際化」の事業に採択され、国際化を加速している大学、それが明治大学だ。留学生の派遣も受け入れも順調に伸び、海外拠点も増えている。採択された各事業は現在、どのように展開しているのか。明治大学の国際化の両輪とされる、政治経済学部の取り組みとASEANでの展開について取材した。

全学を挙げて国際化を推進

 明治大学は都心に3つのキャンパスを構え、建学の精神である「権利自治」「独立自治」にもとづいて、他者との共生のなかで「個」として強く輝く人材を多く輩出してきた。2004年以降は、戦略的な中期目標として「世界に開かれた大学 Open MindedUniversity」の実現を掲げ、次の3点に取り組んでいる。

  1. 国際的な「知識基盤社会」の確立を目的として、国際的に卓越した研究を基軸に研究者・学生を海外から獲得する
  2. 途上国・新興国に大学教育を通じてソフト面で支援することで国際社会に貢献する
  3. 日本の「知」の情報発信力を強める

 08年には学長室と国際交流センター教職員からなる「国際戦略タスクフォース」が編成された。全学的な国際戦略体制を整備・推進していく組織である。そして翌09年、学長を機構長とし、国際戦略策定のための調査・立案を一元的に行い、国際交流情報の共有と調整を図る「国際連携機構」が設置された。同機構のもとには、「国際連携本部」「国際教育センター」「日本語教育センター」が置かれている。また、学部・研究科が一体となって国際化を進めるための「国際連携運営会議」や、大学の国際化について外部専門家が客観的な評価を行う「外部評価委員会」も開催されている。こうしたさまざまな側面から、全学を挙げて国際化を推進しているのである。

国際化を加速させた「グローバル30」採択

 明治大学の国際化が加速したのは、09年の文部科学省による『国際化拠点整備事業(グローバル30)』に採択されたことが契機であった。国際化拠点構想である「グローバルコモン・プログラム」は、世界と共に生き、世界に貢献し、地球市民の一員としての役割を担い、そして世界中の多様な人々が集い、語らう場となることを目指している。この構想は、①4つの英語コース(大学院3研究科と学部1コース)の拡充②留学生受け入れ体制の整備③留学生受け入れのための海外拠点の設置の3つの取り組みを産学連携も視野に入れながら実施し、教育・研究の高度化を図ろうとするものだ。教育・研究の質を高め、明治大学の持つ特色を世界に向けて発信していくことで、より多くの優秀な留学生を集める構想だ。「グローバルコモン・プログラム」では、20年度までに4000名の留学生受け入れを目指すとした。明治大学では40カ国207大学(13年2月末現在)と協定を結び、学術交流や学生交流を進めている。グローバル30の採択と、08年に国際日本学部が開設されたことで、留学生を受け入れる体制が整備されたことから、留学生の受け入れ数は年々増えており、12年度現在、1525名に達した。留学生の大半は韓国と中国の出身者が占めており、アメリカ合衆国、マレーシア、台湾が続く。今後はさらに、留学生の出身国の多様化を図るという。

真のグローバル人材とは何かを体感

ASEAN諸国との連携を強化

 国際連携機構の関山健特任准教授は「国際化の方向性として、今後は東南アジアとの連携を強化していきたい」と語る。その理由について「業種業態を問わずアジアとの緊密な関係は日本にとって今後ますます重要になると思います。そうした中、日本とアジアの架け橋として活躍できる実務型リーダーを育成したいと考えています」と説明した。その具体的な形が、文部科学省の『大学の世界展開力強化事業』に12年度に採択された「日本ASEANリテラシーを重視した実務型リーダー育成プログラム」だ。明治大学では今でも政治経済学部を中心にタイとの交流が盛んだが、今回の事業構想では、バンコク中心部のシーナカリンウィロート大学に13年春に設置する「明治大学ASEANセンター(仮称)」を基軸として、ASEAN各国のトップ大学(7か国16校)とコンソーシアムを組み、長短期さまざまなプログラムを実施することを計画している。そして5年間で日本人学生の派遣500名、ASEAN側の学生の受け入れ500名の計1000名の交流を目指すとした。その目的は「日本ASEAN実務型リーダー」の育成だ。TOEIC700点レベルの英語を共通のコミュニケーションツールとして駆使し、将来、ビジネスパーソン、ジャーナリスト、建築家、NGO、公務員など多くの実務分野で、国や地域をまたいだ日本とASEAN諸国双方の架け橋となりうる人材を育成するという。こうした人材を育成するために明治大学は、ASEAN各国大学とのコンソーシアム内で長短期の学生交流や合同セミナーを行うとともに、現地インターンなどの機会を積極的に提供していく。このほかにも、明治大学ASEANセンターでは、日本との懸け橋となる人材育成を目指した現地向けの教育活動として、日本語教育や日本理解に資する講義を展開する予定だ。さらに、現地日本語教師の養成や現地企業ビジネスパーソンの日本理解研修なども検討している。「グローバル30」に採択された13大学は現在、海外拠点を築いて留学生の確保に務めているが、この事業で明治大学が開設するASEANセンターは、従来の海外拠点とは目的や役割が異なる。現地における日本人学生およびASEAN諸国の学生への教育を行い、学生同士が共に学び合う場として位置づけているのだ。関山特任准教授は、「海外教育拠点を海外に構えた例は、日本の主要大学では他に例を見ないのではないでしょうか。しかし、欧米の大学は現在、アジアに積極的に分校を作り、現地の学生に自国へ留学させることなく、現地で自国流の教育を施し、自国と現地国の架け橋となる人材を育てています。本学もそうした世界の潮流に乗って、日本とASEAN諸国間における留学の形を変えていこうと考えているのです」と説明する。

◀2013 年1月、明治大学ASEANセンター(仮称)の開設プレイベントとして、明治大学グローバル人材育成プログラム「グローバル人材育成に向けて--企業と大学の協働--」がバンコクで開催された。

◀明治大学ASEANセンター(仮称)の内装写真。CG による完成イメージであり、変更となる可能性があります。

真のグローバル人材とは何かを体感

 明治大学の国際化を支えるもう一つの取り組みが、同じく12年度に採択された『グローバル人材育成推進事業』である。こちらは政治経済学部の取り組みであり、タイプB(特色型)として採択された。この事業は、これまで継続的に実施してきた「留学促進プログラム」の実績を踏まえて、さらに海外の大学とのダブル・ディグリープログラムの新設をはじめ、海外の大学との連携を強化し、短長期の留学プログラムの質的および量的な強化を図るとしたものだ。また、海外を中心とした学生主体の「プロジェクト型実習」を組織的に実施することも計画している。「個を強くする」という教育理念のもと、政治経済学部ではこれまで、内閣総理大臣をはじめとした世界の政治経済のリーダーを輩出し、学内においても国際化を先導してきた。今回の事業構想にあたり、育成するグローバル人材像として、①「強い個」を持った人材②異文化への鋭い感受性と理解力を備えた人材③高い使命感と倫理観を有する人材④専門性と実践的な課題発見・解決能力を有する人材⑤高い語学能力とコミュニケーション能力を有する人材という5つのイメージを描いた。このような人材を育成することにより、グローバル化する社会の中で、 個と個をつなぎとめ、より高度で強靭な公共空間の形成に資する ことを目的としている。そして、構想を実現するため、政治経済学部では、次のような取り組みを計画した。英語力の強化については、政治経済学部では過去10年にわたり、英語コミュニケーション能力やプレゼン能力向上をねらった、独自の英語教育プログラム「ACE(AdvancedCommunicative English)」を実施してきた。そして、今回は修得したい英語力の指標として、具体的な目標を掲げた。卒業時に少なくともTOEIC800点以上のスコアを持つ学生の割合を15 %、600点以上の学生の割合を35%とするという。現状では、各比率は8%と25%である(11年度卒業生実績)。また、留学生の派遣については、現在の120名から170名程度へと増やす。さらに、TOEIC700点以上の学生には、英語以外の言語コミュニケーション能力の修得も勧める。そのため、学生一人ひとりの弱点やレベルに応じた複数の集中型ブラッシュアップ講座を提供し、英語力の底上げと同時に「グローバル」にチャレンジしていく意識の醸成を図る。留学促進プログラムについては、まず、留学への意識を高める取り組みを行ってきた。英語によるアカデミックライティング、プレゼンテーション、ディスカッションに重点を置いた「留学準備講座」を実施するほか、カリフォルニア大学バークレー校など海外のトップスクールから招聘した客員・特任教員による「英語による専門科目の集中講義(トップスクールセミナー)」を通常の授業として実施して、学生の視野を海外へと広げた。そして、内向きになりがちな学生の目を世界へ向けるため、双方向の「短期留学プログラム」を実施し、ノースイースタン大学やシーナカリンウィロート大学、南カリフォルニア大学、延世大学(韓国)等の大学と交流を続けてきた。そして長期の留学への興味を示した学生に対しては、協定校や認定校への1セメスターもしくは1アカデミック・イヤーに及ぶ長期の大学間あるいは学部間の留学を奨励した。さらに、より能力の高い学生に対しては、カリフォルニア大学バークレー校の正規授業である「サマーセッション」への3カ月間の派遣プログラムも用意した。政治経済学部の大六野耕作学部長は「このような留学体験を積んだ学生は、現地で各国から集まる学生とじかに触れ合い、実力の差を痛感してきます。英語はできて当然で、第二外国語の能力もあり、さらには本学の学生と知り合ったことで日本語までも修得しようと意欲的な姿に刺激を受けているようです。そして、真のグローバル人材とはどんな人を意味するのかを理解し、帰国後は専門科目にも英語にも学習意欲を高めています。留学を通じて、学生たちは、英語を使って現地に溶け込み、学生や社会と交流を深め、視野を広げています。そうした気づきを提供するのが、私たちの役割だと考えています」と話す。今回の事業は、学部内に設置した国際交流委員会が中心となって推進している。委員会では学生の能力向上に対するプログラムの企画運営、受け入れ先の確保、実現可能なプログラムであるかなどの検討を行ってきた。「今回の構想は、これまでの実績を踏まえ、実現可能ないくつかのプログラムを集めた事業です。プログラムは外部に委託せず教員たちで作り上げたので、一つひとつのプログラムの内容の質向上に努めることができました。一方で留学に伴う危機管理やカウンセリングなどについては外部業者に委託することになっています。その分、教員はプログラムの内容を検討したり、学生一人ひとりに目を配ったり、海外の大学との親交を深めたりといったことに時間を割くことができました。こうして産学が連携を取って、計画を実現しているのです」と大六野学部長は述べた。そして、今回の事業構想は学内だけにとどめるつもりはないという。「政治経済学部は1学年1000人規模の大きな学部ですが、この取り組みを大規模大学の各学部にも、あるいは収容定員が4000名程度の小規模大学でも実現可能な事業として、本学のノウハウを提供していくことも考えています」とおおらかな姿勢を見せた。

将来を見据えた人材育成を

 明治大学が国際化への取り組みを始めてから10年が経とうとしている。その間に、世界のグローバル化へのうねりは大きくなり、大学としてもさまざまな角度からグローバル化にアプローチすることが必要になった。政治経済学部では、過去20年にわたり、ジャーナリスト育成を目指した「基礎マスコミ研究室」や、公務員の育成を目指した「行政研究所」を設置して、多くのジャーナリストや公務員を輩出してきた。これらの実績を基盤として、10年には、①国際的に活躍するジャーナリスト②国際機関やNGO等で活躍する人材③公務員④国際的な視野も持った政財界のリーダーといった人材の育成を目指した「政治経済学部就業力育成プログラム」がスタートし、文部科学省の『就業力育成事業』にも採択された。このような「就業力」を重視したキャリアパスと今回の事業がつながることで、政治経済学部における「グローバル人材の育成」は完結すると、大六野学部長は考えている。「これから10年を大学としてどうとらえるかでしょうね。学生自身の学びを、各自の目標達成に結びつけ、目指すキャリアを実現していけるように、大学としては導いていかなければなりません」今年度からは、さらに留学プログラムが拡充する。「グローバルに活躍しようとする学生たちの将来を見据えて、各留学プログラムでは学生の意欲を伸ばし、自己啓発につなげたい」と大六野学部長は語る。そして、明治大学の学位だけでなく、ノースイースタン大学での学位も取得でき、海外でのインターン経験も積むダブル・ディグリープログラムも計画しており、留学希望者への特別奨学金制度も整える予定だ。学位取得、留学、就業実習、奨学金という体験を同時にかなえるプログラムである。「こうして、さまざまなプログラムを通じて経験を積み、世界へ羽ばたいていける学生を継続的に輩出し、明治大学卒のグローバル人材のネットワークを国内外に広げていくことが、私たちに与えられた使命だと思います」グローバル人材の育成は、目の前の学生だけを見ていればよいのではない。長期的な視点でとらえ、学生をどのように育てていくかが重要である。明治大学は日本を先導する大学としての意識を常に持ち続け、これからもグローバル人材の育成に努めていく。

マサチューセッツ州議会上院議長と懇談する
ノースイースタン大学に短期留学した明治大生たち
南カリフォルニア大学からの留学生送別会にて
シーナカリンウィロート大学での交流プログラムにて
ノースイースタン大学から受け入れた留学生への授業風景
シーナカリンウィロート大学との学生交流プログラム修了式にて

政治経済学部 大六野 耕作 学部長

国際連携機構 関山 健 特任准教授

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