公開日:2013/03/28

大学の国際化とグローバル人材の育成

社会、経済、文化のグローバル化が急速に進展し、日本でもグローバル化への対応が急がれる。わが国の企業の国際競争力が問われるようになり、国際社会に通用する資質を備えた人材育成の重要性が叫ばれるなか、日本の大学も国際化への対応を余儀なくされている。文部科学省が推進する大学の教育改革に伴う「国際化」への取り組みはどんな状況にあるのか。本シリーズでは、「大学の国際化」と「グローバル人材の育成」をテーマに、大学教育を取り巻く現状を探る。

『教育振興基本計画』で明示された「大学等の国際化」の推進

 知識や情報、技術が社会活動の基盤となる「知識基盤社会」の時代にあって、国際競争があらゆる分野で激しさを増している。このような時代においては、大学を取り巻く環境も変わらざるを得ない。少子化による18歳人口の現象、全入時代を迎えて崩れた受験生の需給バランス、学生の質保証、社会的な要請と産業構造の変化に対応できる人材の養成など、課題は山積みである。
そうしたなか、教育基本法にもとづき、政府が初めて策定した『教育振興基本計画』(2008年7月)では、08年から10年間を通じて目指す教育の姿を示し、08年度から12年度までの「5年間を高等教育の転換と革新に向けた始動期間」と位置づけた。そのなかで「大学等の国際化の推進」が一つの取り組みに挙げられ、2020年を目途とした『留学生30万人計画』の推進や、大学の国際活動の充実を図り、国際社会をリードする人材を育成するとした。
過去にも、文部科学省は『大学教育の国際化加速プログラム』として、大学等が行う教職員や学生の海外派遣の取り組み、海外の大学との積極的な連携を行う取り組みのうち、特にすぐれた取り組みを支援してきた。そして、『教育振興基本計画』にもとづき「大学教育のグローバル化のための体制整備」として、次のような事業を設け、それぞれの事業に取り組む大学に予算を用意している。

留学生の受け入れ体制整備のために〜グローバル30〜

 「グローバル30」として知られる『大学の国際化のためのネットワーク形成推進事業』とは、国際化の拠点としての大学の総合的な体制整備を行い、拠点間のネットワーク化や産業界との連携を通じて、わが国の大学の国際化を推進するものである。09年4月、国公私立大学宛に同事業の公募を通知し、22件の申請を受け付けたのち、7月に13件が採択された。
採択された各大学では、「英語による授業等の実施体制の構築」「留学生受け入れに関する体制の整備」「戦略的な国際連携の推進」に5年間継続的に取り組み、1件あたり年間2〜4億円程度の支援を受けている。この事業については事業開始から2年経過後に、同事業プログラム委員会が中間評価を実施し、12年3月にその評価結果が発表された。
発表によれば、事業全体の進捗については、どの大学も大学全体としての国際化が戦略的に推進されているとされ、優秀な外国人教員の採用などの教員体制の充実、国際化に対応した事務職員の配置などによる事務体制の充実が図られつつあるという。また、海外の大学との協定にもとづく交換留学プログラム等の充実、日本人教員の海外における教育研究活動への参加等も積極的に行われていることがわかった。
また、英語による授業のみで学位が取得できるコースの開設については、11年4月現在、106コース(学部16、大学院90)が開講した。優秀な学生確保のため、受け入れ重点国等における留学生フェアへの参加、高等学校訪問など学生のリクルート活動等の取り組みも積極的に実施されている。
さらに、海外における大学共同利用事務所についても、海外7地域8事業所が開設され、わが国の大学の情報発信や学生募集を行う大学のワンストップサービス業務などの支援体制が整った。
これらの効果もあり、留学生の受け入れについては、10年度末において、目標である2万2000人を上回る2万6000人を受け入れ、順調に進捗している。
産業界との連携強化も進んだ。日本経済団体連合会との協力により、産業界や他の大学関係者の参加を得て「産学連携フォーラム」が開催されるに至っている。
各大学では順調に事業を進捗しつつ、それぞれの特色に応じた取り組みがされているが、なかでも、「すぐれた取り組み状況であり、事業目的の達成が見込まれる」と高い評価を得たのは同志社大学だった。多くの大学が「これまでの取り組みを継続することによって、事業目的を達成することが可能と判断される」との評価を得たものの、「当初目的を達成するには、助言等を考慮し、より一層の改善と努力が必要と判断される」との評価をくだされた大学もあった。
13年度は補助事業終了年度になるが、終了後の展開も見据えた対応が各大学には求められ、日本の大学の国際化を牽引する存在として、これまでの取り組みの成果を、国内の他の大学と共有化し、大学間のネットワーク形成を強力に推進していくことが期待されている。

日本人の内向き志向を克服するために〜グローバル30プラス〜

 「グローバル30」は海外からの留学生を受け入れる体制整備を目的としたが、文部科学省では、日本の若い世代の「内向き志向」を克服し、グローバルな舞台に積極的に挑戦し、活躍できる人材を育成するための体制整備として『グローバル人材育成推進事業(通称・グローバル30プラス)』を設けている。「内向き志向」が課題視されて久しい。日本人の海外留学者数は、04年の約8万3000人をピークに、年々落ち込んでいる。その背景には、語学力への不安や経済的な問題があるとされる。そうした現状を受けて、大学では現在、入学時に語学力を測るプレースメントテストを実施し、語学の授業をレベル別少人数教育で行うケースが少なくない。また、留学前の準備教育に力点を置く大学もある。さらに、留学先との単位互換制度を用意し、留学に対する障壁をなくそうと努力している。また、経済面に関しては、大学をはじめ行政や経済界などによる奨学金制度が支えとなっている。
このたびの「グローバル30プラス」は、全学推進型の「タイプA」と特色型の「タイプB」があり、採択された大学は最大5年間にわたって財政支援を受けて事業を推進する。
12年6月の公募締め切り段階では129校から152件の申請があったが、書面審査およびヒアリング審査を経て、同年9月に42件(校)が採択された(表参照)。
この事業において、「グローバル人材」については次のように定義されている。

  1. 語学力・コミュニケーション能力
  2. 主体性・積極性、チャレンジ精神、協調性・柔軟性、責任感・使命感
  3. 異文化に対する理解と日本人としてのアイデンティティー

 そして、採択にあたっては、これからの社会の中核を支える人材に共通して求められる、幅広い教養と深い専門性、課題発見・解決能力、チームワークとリーダーシップ、公共性・倫理観、メディア・リテラシー等の能力の育成をめざし、大学教育のグローバル化を取り組みと事業の対象とした。そして、12年6月に公募を開始すると、40件の募集に対して、9月の締め切り時には150件を超える応募があり、各大学においても、グローバル人材の育成は共通の課題となっていることが浮き彫りになった。
大学全体のグローバル化を目標に定めるタイプA(全学推進型)では、北海道大学は新入生200人を選んで、語学などの特別教育プログラムを課し、留学を義務づける。千葉大学は、空港でのボランティアなどを通じて国際感覚を磨くものとした。同志社大学は、少人数制の語学講座で「疑似留学体験」ができるような事業を計画している。
一方で、特定の学部や大学院でのグローバル人材の育成に務める「タイプB(特色型)」では、海外に設けた研究拠点に国内の学生を派遣し、世界で通用する力を備えた人材を育てるとした鳥取大学などが選ばれた。

アジアや米国等の大学との協働教育による交流を〜大学の世界展開力強化事業

 『大学の世界展開力強化事業』は、日本人学生の海外留学と外国人学生の戦略的受け入れを行うアジア・米国等の大学との協働教育による交流の取り組みへの支援である。この取り組みは国際的な枠組みで、単位の相互認定や成績管理等の質の保証を図るものとされている。11年度に1回目の公募があり、91大学183件の申請のうち、19大学25件が採択された。12年度は「ASEAN諸国等との大学間交流形成支援」を主題とし、62大学71件の申請のうち、12大学14件が採択された(表参照)

  12年度の採択事業における申請区分は2つに分かれている。申請区分( i)は、日本とASEANにおける大学間で1つのコンソーシアムを形成し、単位の相互認定や成績管理等の質の保証を伴った交流プログラムを実施する事業とした。申請区分(ii)は、SEND(StudentExchange - Nippon Discovery)プログラムと称し、ASEAN諸国での交流プログラムのうち、日本人学生の海外留学の目的を、留学先の現地の言語や文化を学習するとともに、現地の学校等での日本語指導支援や日本文化の紹介活動を通じて、学生自身の異文化理解を促すことと位置づけ、将来、日本とASEANとの架け橋となるエキスパート人材の育成を目指すものとした。採択された大学は、5年間にわたり事業に取り組む。

産官学連携で推進する大学の国際化やグローバル人材の育成

学問に国境はない。大学とは本来、その存在自体がグローバルなものである。前述のように、現在「大学の国際化」を推進すべく、各事業に採択された大学ではさまざまな構想にもとづいた教育を展開している。グローバル人材を育成するためには、大学自体が世界に開かれた大学となるべきである。少子化、全入時代を迎えて高等教育が競争・共生の時代において、大学は生き残りをかけて、なお一層、グローバルで魅力ある教育を展開し、それを世界に発信するとともに、日本人学生の派遣と外国人留学生の受け入れの環境を整備する必要があるだろう。
一方で、今後はさらに産業界と大学との連携も進めなければならない。国際競争力が求められるなか、日本企業の持続的な発展のため、各企業を支える優秀な人材の確保は急務となっている。グローバル社会、知識基盤社会において、たくましく生き抜いていく人材の育成と支援は、産業界と大学が共通して取り組む重要課題だ。国を含めた産官学の協力体制のもと、今後さらに社会全体として、大学教育の国際化とグローバル人材の育成に取り組む必要がある。また、留学経験者の採用体制整備などの社会構造そのものを国際化していく必要もあるだろう。

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