教育とICTニュース提供

公開日:2018/03/12

「プログラミング教育は授業だけではない」文科省・県教委・学校ら討論

 総務省は3月8日、「教育の情報化」フォーラムを都内で開催した。2016年度から実施している「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業の成果発表、パネルディスカッション、文部科学省による講演などが行われた。
 当日は、総務省による基調講演で開幕し、続いて実証事業者による成果発表が行われた。計29事業者(平成28年度補正予算による19モデル、平成29年度当初予算による特別支援学校における10モデル)がプレゼンテーションを行った。
 そしてパネルディスカッションには、情報通信総合研究所 ICT創造研究部 特別研究員で総務省のプログラミング教育推進会議委員でもある平井聡一郎氏をモデレーターに、文部科学省のプログラミング教育戦略マネージャーである中川哲氏、三重県教育委員会の荻田弘樹氏、西伊豆町立賀茂小学校校長の平馬誠二氏が登壇。総務省・文科省・教育委員会・学校というそれぞれの目線からプログラミング教育必修化に向けた現状、現場で明らかになった課題とヒント、そして将来像を語り合った。
パネルディスカッションのようす
プログラミング導入の阻害要因に4つのポイント
 このうちパネルディスカッションは、「ここから始まるプログラミング教育~本事業から見えた課題とその解決策」と題して行われ、まずディスカッションに先立ち、総務省・平井氏とICT CONNECT 21事務局の電通・関島章江氏が登壇し、基本的な背景の説明、現状報告を行った。
プログラミング“で”学ぶ
 プログラミング教育は、小学校で2020年の次期学習指導要領から完全実施される。これを平井氏は「2020年4月1日は、全小学校が“トップスピードになる日”」と表現。そしてその2年前の2018年4月1日は、小中学校で移行措置が始まり、“アクセルを踏み始める日”であるとした。
 3月8日時点で、すでに移行措置開始まで1か月を切っている。準備は間に合うのか、学校・自治体は何をすればいいのか、それを見直す必要があり、自治体は「環境整備」、学校は「リーダー育成」を担う。またプログラミング教育は、言語やアルゴリズム自体を学ぶのではなく、「教科の狙いを達成するために、プログラミング“で”学ぶ」というのが基本だと解説した。
 総務省では、昨年12月~今年3月にかけて、札幌から那覇まで全国約10か所で成果発表会・ディスカッションを開催し、情報共有を図っているとのこと。特に、各エリアの研究機関、行政(教育委員会)、学校(小中学校・特別支援)から関係者に参加してもらい、「横の連携を作ってもらうことを意識した」(平井氏)という。
 またこれらの情報収集・分析を経て、プログラミング導入の阻害要因を見直した。その結果「環境整備」「指導者」「プログラミング言語」「カリキュラム」という4つについて、さまざまなポイントがあると平井氏は指摘している。また格差や問題を踏まえ、「この環境でやれることを考えなければならないのが課題」とコメントしている。
プログラミング導入の阻害要因
・環境整備
 機器整備の2極化(学生間、学校規模間)、通信環境・セキュリティポリシー・学校開放時の管理など。
 ソフトウェア面(セキュリティ対策やネットワーク)とハードウェア面(備品そのもの)に課題。
・指導者
 教員研修、教育課程との整合性、外部指導者との関係、企業との連携の仕組みなど。
 プログラミング経験者、リーダーを育成できる人が少ない。
・プログラミング言語
 (コンピューターを使わない)アンプラグドの学習(導入段階)のあり方、何を選ぶのか、発達段階に沿っているかなど。
 小学校、中学校、さらには特別支援学級で適合するものが違う。コストの問題もある。
・カリキュラム
 教科との関係、評価基準・指導事例の不足など。
 教科でやっている以上は、そのなかでの評価や達成目標がある。
 ここで関島氏が退席し、パネラーの荻田氏、中川氏、平馬氏が登壇し、順に発表を行った。
教育委員会の熱意で県と市町村が協調
 三重県教育委員会の荻田氏は、昨年の取組み状況を紹介。同県ではプログラミング教育の推進に向け、プログラミング指導者(メンター)の育成教育、実証校や教育委員会と連携したプログラミング講座を実施している。さらにその集大成として「プログラミングフェスティバル」というイベントも2017年12月に開催したという。
 「プログラミングフェスティバル」においては、県内全ての小学校に開催案内を配布。8市町26小学校から48名が参加している。メンター35名で生徒、メンター自身をサポートし、プログラミング入門を体験してもらった。講師も実証校の校長(メンター)が務めた。さらに2部として体験ブースも用意し、メンターや企業のインストラクターが指導を行った。各市町村が連携したこと、外部の力を借りられたことで、「これにより2020年に向けてのスタートが切れた」と荻田氏は評価している
 これに対し平井氏が「県が主導だと市町村が言うことを聞いてくれない、といった問題もあったのでは?」と尋ねると、「1か月ほどで全29市町村を巡回する形で、直接お願いに回った」(荻田氏)とのこと。「県の本気度を示した、ということですね」(平井氏)と、推進の姿勢を評価した。
三重県教育委員会の取組み
校長の権限により新しい教育の形を摸索
 続いて、西伊豆町立賀茂小学校校長の平馬誠二氏が発表。立賀茂小では、8時15分から授業を始め、給食までに5時間目を終える「午前5時間授業」という取組みを行っており、ゆとりの時間が出来た放課後(午後3時以降)に、パソコン学習の活動などを行っているという。
 この活動に学校そのものはノータッチで、地域有志や保護者、NPOなどの協力のもと行われており、教員が関わらないことで働き方改革なども視野に入れている。「子どもを地域の力で育てていくという、西伊豆型の教育が最適」(平馬氏)と、地域色を活かしたスタイルを取り入れていることを明らかにした。授業時間の配分などは、実は校長の裁量に委ねられており、西伊豆町地区の3校のうち、立賀茂小のみが午前5時間授業を採用。他校は4時間授業を採用している。
西伊豆型のプログラミング教育
「単元の授業だけではない」文科省による学習活動分類
 そして文部科学省のプログラミング教育戦略マネージャである中川哲氏が発表。中川氏は文科省からの参加であったが、「未来の学びコンソーシアム」プロジェクトの推進本部長代理でもある。同コンソーシアムは昨年から新体制に移行しプロジェクト推進体制を強化している。それを踏まえて、2020年度からのプログラミング教育実施に向けた発表を行った。
 「プログラミング教育については、学習指導要領に記載される前から、各地での多様な取組みがすでに行われている。一方、これから初めて取り組む先生たちは、事例や指導案の情報を探している。検索などで得た結果を学習指導要領と足並みが揃えられるのか、模索している」と中川氏は現状を分析。コンソーシアムのチームが各地の教育委員会に対して聞き取り調査などを行い、情報を収集しつつネットワークを構築しているという。さらに、それら取り組みの概念を整理し、学習指導要領における位置づけを明確にし、情報発信する必要があるとした。
 そのうえで例示したのが、「小学校段階のプログラミングに関する学習活動の分類(例)」という表だ。これは文部科学省情報教育課が作成したもので、「この分類を、ぜひ写真にとって広めてほしい」と中川氏は述べている。
 こちらでは、「プログラミング教育は、学習指導要領に例示されている単元等に限定することなく、多様な教科・学年・単元等において実施されることが望まれる」と、以下のA~Fの6タイプに分類している。A、Bは学習指導要領に明記されているディスカッションも進んでいるが、C、Dは学校裁量の時間で、多様な取組みが行われる見込みだ。さらにE、Fのような形態もプログラミング教育の範囲としている。今後はコンソーシアムのポータルサイトを使った事例収集と情報発信にも注力する方針だ。将来的には、企業とのマッチングなどもポータルサイトで行いたいとした。
【教育課程内のプログラミング教育】
 A:学習指導要領に例示されている単元等で実施するもの
 B:学習指導要領に例示されていないが、学習指導要領に示される各教科等の内容を指導する中で実施するもの
 C:各学校の裁量で実施するもの(A、B、D以外で、教育課程内で実施するもの)
 D:クラブ活動など、特定の児童を対象として実施するもの
【教育課程外のプログラミング教育】
 E:学校を会場として実施するもの
 F:学校以外を会場として実施するもの
小学校段階のプログラミングに関する学習活動の分類(例)
学習活動の分類は「本日一番の衝撃」
 この表について平井氏は「情報が整理されて出てきて、本日一番の衝撃を受けている」とコメント。「先生方はAじゃないといけないのかなと、捉われていることが多い。B、さらに他の形もあるという話はしているが、なかなか実感してもらえない。この分類を示して、論理的に話ができるのは非常にありがたい」(荻田氏)、「私どもはBやEの形が多いが、これでも十分行けるんだ、プログラミング教育なんだと明示されて、ホッとしている。いろんな形があることを先生に伝えられると思う」(平馬氏)と、残る2氏も好反応だった。
 実際、学校の取組み方や特色によって、A以外のスタイルがはまることもあり得る。“コンピュータ社会を小学校の頃から身近に感じるため”というのは、プログラミング教育の目的の1つ。そのためにはいろいろな形があるべきだというのが共通した認識だった。
 特に中川氏は「しっかりとそれに応えられるコンテンツを提供するのがミッションだと思っている。総務省、文科省、さらには経産省の足並みも揃え、応えていきたい」と意欲を見せつつ、「やはり教員の研修が大事。コンソーシアムが研修を行うわけではないが、プログラミング教育を通じて、深い学びを子どもが行っている。それを見て目を輝かせている先生がいる。そうしたモデルを集めて、コンソーシアムがハブになって情報を提供していきたい」と、今後のコンソーシアム活動に言及した。
カギは地域コミュニティとのマッチング
 一方で、プログラミング教育を支援したいという地元住人や企業は多い。これについて中川氏は「民間企業が現場とつながれるように支援していく」とし、平馬氏は「プログラミング教育はものすごく可能性がある。現場はいま日常業務、さらには英語教育などに追われているが、学校が地方のハブとして機能すればと思っている」とコメントしている。また荻田氏も「具体的な授業を見てもらうような研修を行っていきたい。県単位でのマッチングは考えていかないといけないので、教育委員会がコーディネートする必要があると思っている」と回答している。
 「プログラミングを覚える」ではなく「プログラミングをツールとして使う」という、新たな教育の実践がいよいよ日本でも始まる。コンソーシアム、県教委、さらに各学校がハブとして機能することで、プログラミング教育は“単純な授業”ではなく“社会参加”“地域活動”の側面まで拡大していくだろう。